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“ルンバ史上最高"の性能を持つ「ルンバ980」は何がスゴイのか

史上最高のルンバとは?

 “ルンバ史上最高の性能を持つ、フラッグシップモデル”として「ルンバ980」がiRobot(アイロボット)より発売された。125,000円という価格も史上最高だが、それ以上に注目されているのが、従来とは全く違うマッピングシステムだ。

“ルンバ史上最高の性能”という触れ込みで発売される「ルンバ980」

 ルンバを一度でも使ったことのある人なら分かるだろうが、ルンバは、室内をランダムに動きまわる。実際は複数のセンサーで、室内を検知して動いているのだが、見た目には、室内を縦横無尽に動きまわって、壁や家具にぶつかったら戻る、という動きを繰り返しているように見える。

 一方、最近のロボット掃除機のトレンドとして、多くの製品が搭載し始めたのが、マッピング技術だ。室内をスキャニングして、地図を作り、無駄なく効率的に室内を掃除するという方式だ。これは、Googleの自動運転車にも採用されているSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)という技術で、ルンバと同じ米国のベンチャー企業「neato robotics」がロボット掃除機「ネイト Botvac」にも搭載されている。

 実際、マッピングシステムを搭載したロボット掃除機は、ルンバとは全く違う動きをする。壁際をスーっと直線に移動して、壁まで行くとその場でターンして、きれいな直線で戻ってくる。

iRobot(アイロボット)のCEO(最高経営責任者)のColin Angle氏(コリン・アングル)

 ルンバはこれまで、マッピング技術を搭載したロボット掃除機は展開していなかったわけだが、iRobotのCEO(最高経営責任者)のColin Angle氏(コリン・アングル)は980の発表会で、従来のルンバの問題点を「マップが作れなかったこと」と話す。

 とはいえ、iRobotも手をこまねいていたワケではない。「15年間にわたり、マッピング技術に取り組んできて、ようやく完成したのが、980に搭載したシステム」なのだという。

 しかし、前述のように、マッピングシステムを搭載したロボット掃除機はすでに存在する。ルンバ980の何が史上最高なのか? iRobotで、ディレクター、プロダクトマネジメントを担当するKEN BAZYDOLA(ケン・バゼドーラ)氏に話を聞いた。

解像度の高いマップをリアルタイムに作成

iRobotで、ディレクター、プロダクトマネジメントを担当するKEN BAZYDOLA(ケン バゼドーラ)氏

 まず、単刀直入に聞いたのが、ルンバ980のマッピングシステムが、ほかのロボット掃除機のマッピングシステムとどう違うのかということだ。

 「従来のロボット掃除機に搭載されているSLAMは、レーザーを用いたもの。だが、ルンバ980のSLAMはカメラを用いて、ビジュアルをベースにしているという点が最も大きく異なる。カメラを用いることで、マップの解像度が高くなる。そもそも、ロボット掃除機にとって、家というのは迷路のようなものだ。テーブルや椅子などの家具があり、どうやって進めばベストなのかを認識する必要がある。ルンバ980は、室内がどうなっているか、室内で本体がどこにいるかを認識しながら、動くことができる。これは、非常に重要なことで、このシステムがあれば、複数の部屋の掃除が可能となり、段差さえなければ家全体を1台のルンバで掃除することができる」

 カメラの解像度が高いことで、どのような利点があるのか。

 「980に搭載しているカメラでは、それが何なのかを認識できる。例えば、この技術が更に進化すれば、ソーダの瓶を認識し、コップについだりすることも可能だろう」

ルンバ980に搭載しているVSLAMでは、カメラを用いることで解像度の高いマップをリアルタイムに作成。自分が今どこの場所にいるかも認識する

 例えば、ルンバ自身が床に散らかっているモノを拾い集めて、その後に掃除を開始するということも、将来的には可能になるということか。

 「システムがさらに進化すれば、人を探したりもできるようになるし、もちろん、部屋のゴミを拾うことも可能。ただし、その場合、ルンバとは違うロボットで、違う形をしているだろう」

ルンバ980に搭載した技術を用いれば、ロボットがゴミを拾うといったことも可能になる
発表会では、本体上部のカメラを布やペットで隠した状態でも、ルンバが動きを止めないというパフォーマンスも行なわれた

 発表会では、本体上部のカメラを布やペットで隠した状態でも、ルンバが動きを止めないというパフォーマンスも行なわれた。カメラで室内の地図を作っているのに、カメラを隠しても動き続けるというのは、どういうことなのか。カメラを隠している間は、マッピングを中止している状態なのかを聞いた。

 「カメラを隠した状態でも、ルンバは自分がどこにいるかを認識しており、マッピングを続けている。というのも980では、カメラだけでマッピングしているわけではなく、フロアトラッキングセンサーも使っている。1つのセンサーだけに頼らないというのは、980の長所の1つだ」

日本での発表は、我々にとって試練の場

 ルンバ980は、まず米国・ニューヨークで9月に発表され、日本では米国に次いで10月の投入となった。日本でのローンチに併せて、機能のローカライズなどは実施されたのか。

 「我々は、住居はどのようなサイズで、ルンバをどのように使っているか、どのような生活パターンなのかなど、日本も含めた世界中をリサーチ対象としている。その上で、今回の製品はあえて世界共通のユニバーサル仕様とした。980では、112畳(185平方m)の掃除が可能だが、日本の住宅で考えるとそれはオーバースペックになってしまう。しかし、住宅だけでなく、中規模のオフィスや、病院、公共機関など、より幅広い使用シーンを提供できるという利点もある」

 一方、日本はとても重要な市場だと位置づける。

 「日本市場は、我々にとってアメリカに次ぐ2番目に大きいマーケット。我々にとって、日本での製品発表は、本当の意味での試練だと捉えている。日本の消費者はクオリティーにこだわり、より高い機能を求めるからね」

ルンバをクラウド接続することで、新たな可能性が広がる

 ルンバ980では、スマートフォンからの操作にも対応した。これも今回初めての機能だ。

 「ルンバ980はクラウドと接続し、スマートフォンからの操作に対応したことで、3つの機能を新たに搭載した。まず1つめは、家の中か外かに関わらず、どこからでもルンバの操作ができること。2つ目は、メンテナンスを啓発でき、車と同じようなきめ細かいサービスが可能になること。3つ目は、ユーザーのマニュアルとしても有効だ。例えば、本体のクリーニング方法を動画で紹介したり、ルンバの使い勝手を更に向上させることができる」

外出先から自宅のルンバを操作できる
スケジュール機能などもアプリから設定可能
自動で機能がアップデートされる
クラウドに接続することで、ルンバの可能性が更に広がるという

 クラウド接続に踏み切った理由は?

 「一番は、クラウドの方がより複雑な計算ができるということだ。また、ルンバが各家庭でどのように動いているかのデータをクラウドで管理することができれば、ルンバの使い勝手改善にも大きく貢献するだろう。あるいは、クラウドから各家庭のルンバに指示を出すことも可能だ」

 今や、日本市場でも多くのメーカーがロボット掃除機に参入している。この現状をどう捉えるか。

 「市場が活性化し、競争も進むので、ユーザーにとっては良いことだ。しかし、彼らと我々の間には大きな違いがある。つまり、我々はロボット専業メーカーであり、日夜、ロボットにフォーカスしている。ルンバを世の中に出すまでに、長い時間をかけて研究を積み重ねてきた。しかし、ロボット掃除機を出している他の会社は、ロボットメーカーではなく、ビジネスのために、ロボットを研究しているだけ。それは大きな違いだ」

 ありがとうございました。

阿部 夏子