そこが知りたい家電の新技術
三菱電機が掲げる「SMART QUALITY」家電とは? エアコン編
三菱電機は、今年8月、「SMART QUALITY(スマートクオリティ)」を新たなスローガンに掲げ、エアコンと冷蔵庫の新製品を発表した。省エネ化や省資源化という社会全体の課題を解決しながらも“一人ひとりの暮らしの質”を高めていきたいとしている。
今回、そんな「SMART QUALITY」の先陣を切って発表されたエアコンと冷蔵庫について、さらに詳しく知るために、同社の静岡製作所を訪れ、担当者へのインタビュー取材や工場の視察を行なった。前編ではエアコンを、後編では冷蔵庫を取り上げ、三菱のものづくりの本質を探ってみたい。
■1968年に登場して以来、家庭用エアコンの代名詞であり続ける「霧ヶ峰」
1968年に発売された初代「霧ヶ峰」MS-22SA |
静岡製作所内に設けられているショールーム「ギャラリエ」には、家庭用エアコンに搭載されているさまざまな最新技術を体験することができるほか、これまでのエアコンの歴史を振り返ることができるコーナーがある。まずは、三菱のエアコンの歴史について、簡単に紹介しよう。
三菱電機が室内機と室外機を有する壁掛けの“セパレートタイプ”のルームエアコンの1号機を出したのが1968年のこと。その後、1973年にはヒートポンプ暖房搭載の1号機、1979年には室内機の厚みが10.9cmという超薄型エアコンを発売し、現在のような室内機の形に落ち着いたのが1992年のことだ。初代機から現在まで、同社の家庭用エアコンの名称は「霧ヶ峰」で統一されている。
三菱のエアコンといえば、“ムーブアイ”の名で知られるセンサー技術の高さだが、業界で初めて床温度をキャッチする「ふく射センサー」を室内機に搭載したのは2000年からだ。当時はまだ、このセンサーは動いていなかったが、2005年モデルでは動くセンサーを初めて搭載し、床温度を左右広範囲に計測することでムダをなくし、従来比30%の省エネを可能にしたのだ。
2000年に初めてふく射センサーを搭載し、床温度を見ながら運転することで、従来比20%の省エネを可能に。それ以降もセンサー技術はモデルを重ねるごとに進化している |
三菱電機静岡製作所 営業部 ルームエアコン販売企画グループの白井達也氏 |
三菱電機静岡製作所 営業部 ルームエアコン販売企画グループの白井達也氏は「センサー技術を初めて取り入れたのは、これまでのエアコンでは室内機の設置してある天井付近の温度しか見られず、足元との温度差があったから。こうした不満を解消し、快適性を高めつつ、しかも20%省エネになるという点で、2000年に搭載したふく射センサー搭載というのは大きなターニングポイントになったと思います」と語る。
霧ヶ峰が誕生してから40周年となる2007年には床温度に加え、人のいる場所を自動で検知する“人感センサー”を搭載、2010年にはさらに人の状態や間取り、日射熱までを検知する“ムーブアイNavi”を、2011年には天井周辺の温度まで立体的に検知する“3Dムーブアイ”へと進化を続けている。
さらに2012年モデルでは、3月の震災を受けて節電志向が高まったこともあり、“がまんしない節電”をキャッチフレーズにムーブアイが体感温度を見て、送風と冷房とを自動で切り替える「ハイブリッド霧ヶ峰」を提案、送風時には扇風機並みの消費電力で節電を可能にしている。
2012年モデルの「ハイブリッド霧ヶ峰」は体感温度を見ながら風だけの運転と冷房運転を切り替える“ハイブリッド運転”がさらに進化している。送風時の消費電力は15.1Wと普通の扇風機よりも消費電力が少ない | “体感温度”を上げるためにエアコンの前に電気カーペットを敷いて実験 |
エアコン前方の温度が上がってきている様子が分かる | “体感温度”が上昇し始めると、エアコンの運転が送風から“冷風”に変わる |
■リモコンなしで操作できる“究極の使いやすさ”を実現
2013年モデルでは送風と冷房の間に冷風運転をはさみ、冷房運転の時間をより短くしながらも快適性を維持し、節電性能を向上させている |
そんな「ハイブリッド霧ヶ峰」をさらに進化させて節電機能を高めたのが2013年モデルだ。送風と冷房の間に「冷風運転」を追加し、涼しさを維持しながらも、冷房の運転時間を短縮させてさらに消費電力を少なくしている。
新モデルでは、新たな機能も搭載している。「昨年モデルでは部屋に人がいるときにどれだけ節電を行なえるかという点に注力しましたが、新モデルでは不在時にも着目したのです」と白井氏。
室内機の吹き出し口近くの中央に設けられたムーブアイに加え、新たなセンサー「スマートアイ」をムーブアイの右側に搭載し、リアルタイムでの検知を可能にしている。というのも、ムーブアイは左右に動きながら人や部屋全体の様子を752エリアにわたってきめ細かく分析する働きを持つため、多少のタイムラグが発生するのだ。
「スマートアイ」は目の前に立った人などをすばやく感知する新センサーで、わずか0.3秒という早さで熱を検知することができる。
この2つのセンサーを搭載したことで、部屋から人がいなくなったら約3分後にはセーブ運転に切り替わり、戻ってきたら、すぐに復帰する「スマートセーブ」、不在が長引いた場合には約30分後に自動で圧縮機をオフにし、部屋に戻ると復帰する「スマートオフ」という、省エネ性と快適性を両立させた機能を実現させている。
スマートアイによるリアルタイムでの検知は、こうした節電機能のほかにも、思いがけない便利機能につながっている。それは、エアコンの前に立つだけで、リモコンなしでも自動でスイッチが入る「スマートオン」だ。リモコンを使わずに音声で命令する方法などもあるが、「前に立つだけでOK」というのは、ある意味、究極の使いやすさといえるのではないだろうか。
「誤動作を防ぐために、子どもやペットなどには反応しないようになっています。身長145cm以上でエアコンの室内機の前、1~1.5mのところに立つと反応する仕組みです」と白井氏。人を検知すると、「3・2・1」とカウントダウン。3秒後にオンする仕組みなので、単に前を通りすがっただけではスイッチは入らない。
そのほか、冷暖房中に室内機の前に立つと、その人だけに風を当ててくれる“スポットエアー”機能もあり、お風呂上りに涼みたい時や帰宅時などに便利に使えそうだ。
2013年モデルには人や部屋全体の様子を分析するエコムーブアイに加え、リアルタイムに感知する「スマートアイ」を新搭載している | 青く光り、左右に向きを変えているのが「エコムーブアイ」。右側の四角い部分が新搭載の「スマートアイ」 | スマートアイが目の前に立った人を感知すると「3・2・1・オン」のタイミングでリモコンなしでも自動でスイッチが入る |
ハイブリッド霧ヶ峰のリモコンは液晶が大きく、誰にでも使いやすいユニバーサルデザインなのも大きな特徴だ | リモコンで「スマートアイ」についての設定も簡単にできる。「スマートオフ」や「スマートオン」「スポットエアー」をオンにしておくと、不在時のセーブ運転や自動オフ、エアコンの前に立つだけでOKの機能などが便利に使える |
■8.0kWの大容量エアコンや寒冷地向けのエアコンも
2013年モデルの「ハイブリッド霧ヶ峰」では、業界初となる8.0kW(主に26畳用)の大容量タイプのエアコンもラインアップに加えている。これは、2011年以降の新築住宅では24畳以上のリビングが全体の約5%まで増加したことが背景にある。
24畳以上のリビングにエアコンを設置する場合、これまでは12~14畳タイプを2台設置するなどして対応するしかなかった。これが1台で済むことで室外機の設置スペースもとらず、ブレーカーの容量も抑えられるため、契約アンペアが少なくて済み、電気代の基本料金の節約にもつながるという。
「3列の熱交換器を採用することで表面積を増やすことで熱交換量をアップさせ、直径460mmという専用の大型プロペラファンも搭載。独自のサイクロン型気液分離回路を採用して、能力をアップさせるなどしています。でも、室内機・室外機ともに他のモデルと同サイズにしています。23畳以上のワイドリビングや二間続きの部屋でぜひ使っていただきたい」(白井氏)
26畳の広い部屋にも対応する8.0kWの大容量のルームエアコンも今年初めて登場。3列の熱交換器や大型プロペラファンなどの新たな機構を採用し、冷暖房能力を高めている | GVシリーズの室外機と比べると、熱交換器の数やプロペラファンの大きさが全く異なることが分かる | 8.0kWタイプは、これまで2台設置していたエアコンが1台で済むほか、ブレーカー容量も抑えられるので基本料金を節約することができるという利点も |
そのほかショールームでは、寒冷地向けのモデルでの暖房実験も行なっている。室外機がマイナス30℃近くに置いてあっても、60℃の高温の温風で室内を素早く暖められる様子が体感できるようになっていた。
三菱では、地域差や設置場所に応じた様々なラインアップを展開しているのだ。
寒冷地向けの霧ヶ峰の高温風の実演 | 室外機を寒冷地同様の低い温度のところに置いての暖房能力を実演 |
室外機を置いてある部屋の温度はマイナス27.6℃を示していた | 外の温度は-30℃近くでも、室内機から吹き出す温風の温度は52.6℃を示していた |
以上、前編ではエアコンについて紹介したが、後編では冷蔵庫に着目。静岡製作所内の工場の様子も含め、「SMART QUALITY」の本質に迫りたい。
2012年11月9日 00:00