そこが知りたい家電の新技術
三洋電機の「ソーラー駐輪場」とは
今春より、世田谷区で電動アシスト自転車のレンタサイクル事業がスタートした。東急田園都市線の桜新町駅、小田急線の経堂駅、京王線の桜上水駅のそれぞれの駅前にある駐輪場にて、1日300円から利用できる(初回はデポジット料金や補償金など3,500円が別途必要)。使用されている電動アシスト自転車は、三洋電機の「eneloop bike(エネループバイク) CY-SPA226」だ。
このレンタサイクル事業、電動アシスト自転車のレンタルだけでも十分珍しい取り組みだが、「ソーラー駐輪場」を採用している点もまた珍しい。ソーラー駐輪場とは、駐輪場の屋根に取り付けたソーラーパネルで発電し、その電気をリチウムイオン電池に貯め、そこからレンタサイクルで使用された電動アシスト自転車のバッテリーを充電するというシステム。化石燃料を使わないため、太陽光という“天の恵み”だけで運営できる、とてもエコな駐輪場なのだ。
このソーラー駐輪場、メーカーの三洋電機では“世界初”としているが、一体どんな狙いがあり、どんな仕組みになっているのだろうか。世田谷のソーラー駐輪場プロジェクトに携わった、三洋電機の国内CRM本部 ES東日本営業部 主任企画員の北田竹馬氏に話を聞いた。
桜新町駅前のレンタサイクルポートに導入された「ソーラー駐輪場」。屋根には太陽電池が備わっている | 太陽電池で発電した電気で、電動アシスト自転車のバッテリーを充電する |
●徳島での実験を世田谷区が見ていた
――まずは、三洋電機がソーラー駐輪場を作ろうとした、そもそものきっかけを教えてください三洋電機の国内CRM本部 ES東日本営業部 主任企画員の北田竹馬氏
もともとは、徳島県の産学官の提携による「徳島県次世代エネルギー活用促進研究会」というものがスタートです。徳島には三洋のリチウムイオン電池の工場がありますが、その研究会で「リチウムイオン電池を使って何かできないか」ということで出てきたのが、ソーラー駐輪場でした。
三洋電機は、世界最高効率の太陽電池「HIT太陽電池」や、そこで発電した電気を蓄える、シェアNo.1のリチウムイオン電池技術といった、世界の企業の中でも有力なパーツを持っています。こうした技術を融合させ、省エネを実現する「スマートエナジーシステム」事業を今後も展開していくために、“実験”ということで、まずは徳島県庁の駐輪場に、2009年3月に導入しました。これは既存の駐輪場の屋根にソーラーパネルを、その脇にeneloop bikeのバッテリーの充電器と、リチウムイオンバッテリーが入ったボックスを設置したものです(編集部注:徳島県庁に納入された電動アシスト自転車は公用車のため、県庁の職員のみ利用可。レンタサイクルではない)。
2009年3月に、三洋電機が徳島県庁に導入したソーラー駐輪場。既設の駐輪場の上に取り付ける形となった | 徳島県庁のソーラー駐輪場は“実験”ということで導入された |
――それから1年後、世田谷区にソーラー駐輪場が導入されたわけですが、どのようないきさつがありましたか
世田谷区さんが、たまたま我々の徳島の取り組みを知っていらしたようで、電話を頂き、対応させて頂いたことがきっかけとなりました。
世田谷区には既にレンタサイクル事業がありました。もともとは放置自転車をレンタサイクルとして活用していたようですが、段々と放置自転車が減り、また故障した際のメンテナンスコストもかかるということで、新しく自転車を購入して運用するところまできていました。最近では、利用者から電動アシスト自転車を導入して欲しいという要望もあり、どうせなら余計に電気代がかからない仕組みにできないか、ということを考えられていたようです。
――電動アシスト自転車が配置された世田谷の3カ所の駐輪場ですが、桜新町ではソーラー駐輪場を新設、桜上水は既設の屋根の上にソーラーパネルを設置、経堂に関してはソーラーパネル自体が不採用となっています。このように、場所によって設備が異なるのはなぜでしょうか
もともと桜新町の駐輪場には屋根がなく、雨ざらしだとすぐに自転車が傷むため、それならポートも立てて、その屋根にソーラーを設置しましょうということで、ソーラー駐輪場を新設するということになりました。桜上水の駐輪場は、既に屋根があったので、その上にソーラーパネルを載せました
経堂は、駐輪場が小田急線の高架下にあるため、取り付けられませんでした。やはり直射日光がきちっと当たるところでないと、ソーラーにする意味はありません。
駐輪場の所在地 | 電動アシスト 自転車の台数 | 太陽電池 | 太陽電池容量 | 年間発熱量 | リチウムイオン 電池システム |
京王線 桜上水駅前 | 40台 | 210W (HIT太陽電池36枚) | 7.56kW | 約7,135kWh | 6ユニット (1ユニット当たり312本) |
東急田園都市線 桜新町駅前 | 40台 | ||||
小田急線 経堂駅前 | 20台 | ソーラー機能はなし |
●ソーラーの重みに耐える雪国用の屋根。雨水の侵入も防ぐ“雨じまい”仕様
――実験となった徳島では、電動アシスト自転車は3台程度でしたが、今回は3カ所合わせて100台となります。ソーラー駐輪場を作る上で不安はありませんでしたか
1つ不安だったのが、電池容量の問題です。導入した100台の電動アシスト自転車がどのように利用されるくかもわかりません。特に桜上水の駐輪場は、すべて屋根で覆われているため、LED照明分の消費電力も多く掛かってしまうという懸念もありました。
そのため、雨が降る日が続くなど、ソーラーで十分に発電できなかった場合には、ソーラーから商用電力に切り替える機能も付けています。リチウムイオン電池の残量が10%ほどになると切り替わります。
太陽電池を積むため、屋根は頑丈な“雪国仕様”。配線も埋め込まれている |
――配線はどのようになっていますか
桜新町では、屋根に設置した全36枚のパネルを9枚ずつに分け、4つのリチウムイオン電池ユニットにそれぞれ充電するようにしています。
これに関しては、雨が降ったときに漏れ伝わらないよう“雨じまい”仕様としています。雨が降ってしまうと、水は配線を伝って伝わりますが、それは電気としては一番いやな話です。配線を隠しつつ、雨も漏らないような仕様にしています。
――リチウムイオン電池やバッテリーの充電器が入った充電ボックスは、屋根とやや離れた場所にありますが、地面にも配線が埋め込まれているのですか
はい。堀った跡が斜めにピューッと入っていますよ(笑)。
●熱に強く、発電量も多い「HIT太陽電池」で、家2軒分を発電
――ソーラー駐輪場に設置された太陽電池の発電容量は、桜新町・桜上水を合わせて7.56kWとなっています。これは、どのくらいの電力に例えられますか
太陽光発電を導入される方には、だいたい3.4kWから3.5kWまで発電できれば、自宅の電気がまかなえるとご案内しています。なので、家2軒分はまかなえる容量になります。
――この発電量は、三洋電機の「HIT太陽電池」だからこそできるのでしょうか
ほかのメーカーさんで付けようとした場合、だいぶ発電量は少なくなると思います。ここまでの発電量には届かないでしょう。
――三洋の太陽電池と、他社の太陽電池の一番の違いは何でしょうか
三洋電機の「HIT太陽電池」は、熱に強く発電量が多い点が特徴。ソーラー駐輪場でも採用されている |
また、三洋の太陽電池では、このアモルファスを加えることで、高温時の発電量が落ちにくい、という特徴があります。これについてはちょっと説明が必要ですが、基本的に太陽電池はパネル1枚当たりに「***W」というように、発電能力が明示されています。これは、温度が25度の時に、1,000Wの光を当てた時の発電能力になります。
でも、屋根の上に載せたときには、車のボンネットもそうですが、普通は熱くなりますよね。夏場になれば70度や80度にもなります。太陽電池は、熱ければ熱いほどよく発電するようなイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実際は熱いほど効率は落ちます。そのため発電量が一番高くなるのは5月となります。
HIT太陽電池は、アモルファスを搭載することで、夏場での性能の落ち幅が低くなっています。アモルファスなしの場合と比べて、年間平均で7%ほど差が出ます。そのため、同じ200Wの太陽電池だとしても、最終的には1年を通じた発電量で差が出てきます。
なおソーラー駐輪場では、住宅用に使用されるHIT太陽電池のパネルをそのまま採用しています。
――桜新町の駐輪場には、近くに高めのマンションがあったと思いますが、日陰になって発電量が落ちたりしませんか
問題ないように配置しています。
日陰になると一気に発電量が落ちるのは、太陽光発電の宿命です。一般の方ににソーラー設備を販売する時には“曇りの日はどうなの”と良く聞かれますが、晴れの日の1/3から1/10になると言っています。ただ、雲なら仕方ありませんが、ビルがあって確実に影が当たるというところには、置くわけにはいきませんね。
●地味に効いてるDC充電器
――ソーラー駐輪場では、電動アシスト自転車のバッテリーの充電の際に、一般向けに販売されているeneloop bikeに同梱される充電器とは異なった「DC充電器」を採用しています。なぜ、今ある充電器をわざわざ作り変える必要があったのでしょうかソーラー駐輪場近くのボックス内には、eneloop bikeのバッテリーを充電するDC充電器が用意されている
DC充電器は、簡単にいえばエネルギーの損失を抑え、効率よく充電するための充電器です。
太陽光で発電する電気というのは直流電源(DC)で、eneloop bikeのバッテリーでも、直流電源を使用します。一方、一般家庭のコンセントで使われるのは交流電源(AC)です。そのため、一般向けに発売されている製品では、充電器で交流から直流に変換しています。これは、ノートパソコンや携帯電話で使用されているリチウムイオン電池でも同じです。
ただし、この変換の際にロスが発生します。ACで100%の電気を使って充電しても、バッテリーには80%しか充電されません。ACアダプターを使い続けると熱くなるなりますが、これはエネルギーが熱ロスとして逃げているということを意味しています。
そこで、このソーラー駐輪場では、直流のままでeneloop bikeが充電できるよう、家庭用の充電器を改造した充電器を使用しています。
一般家庭用の充電器ではなく、専用のDC充電器を使用。太陽電池で発電した電気のロスを抑えている | 太陽光で発電した電気は、一度リチウウムイオン電池のユニットに蓄えられる |
――ACの充電器だと、どのくらいのロスになりますか
ここで既存の充電器を使うとなると、直流→交流→直流と変換する必要があるため、効率はかなり悪くなります。直流で貯めた電気を交流に変えるインバーターの効率が90%くらいで、そこからさらに直流に変換するため、結局、最初に投入したエネルギーの70%しか使えないことになります。
もちろんDC充電器でもロスは発生しますが、5%程度です。5%か30%のロスかというのは大きな差です。交流充電器をそのまま使うとなると、現状のソーラーシステムを1.3倍に広げなければいけません。そうなると、コストもかかりますし、何よりエネルギーを有効に使えません。
――このDC充電器、地味ですがかなり効いてきますね(笑)
やっぱりエネルギーがムダになるのはもったいないと思います。
ソーラー駐輪場のシステム図。非常用のコンセントも用意されている |
太陽光発電は、停電時にも自家発電するから使えるだろう、というイメージがあると思う人も多いと思いますが、実は使えません。というのも、家で発電した電気を売電する「逆潮」というシステムがあるからです。停電時に逆潮が起きると、復旧工事の人が感電するため、停電時には太陽光も止まる仕組みになっています。一応、自家発電分の電力は使える仕組みはなっているのですが、すべて天気次第になるため、安定しては使えません。
一方、ソーラー駐輪場は、発電した電池は一度電池に貯められるため、その分は安定して使用できます。そこが一般家庭の太陽光発電と一番違うところですね。
――根本的な話で恐縮ですが、充電池を経由せずに、太陽電池をバッテリーを繋いで直接充電するのは、ソーラー駐輪場では難しいんでしょうか
できなくはないのですが、専用の充電器を別途開発する手間があります。また、電力が自転車にしか使えなくなるため、照明や緊急時の電源といったものに使うこともできなくなりますね。
●高齢者や子供連れの利用も。電動アシスト自転車の購入前の実験として
――ソーラー駐輪場から話は逸れますが、世田谷区でスタートしたレンタサイクル事業について、何か評判は届いていますか
世田谷区さんからは、利用者はだんだん増えてきているという話を聞いています。
中には、70代くらいのおじいさん、おばあさんが電動アシスト自転車をレンタルして、多摩川の方へ観光したという人もいたようです。(普通の自転車ではなく)電動アシスト自転車でなければ絶対に行けない距離なので、そういった方も使いに来てくださるというのは、また違った世界が広がっていくのかなと思いますね。
また、子供と2人乗りできる自転車も合計6台納入したのですが、こちらの引き合いも結構来ているようです。育児世代はお金がかかるので、試しに買ってみるってこともできませんからね。レンタルで使えるというのは、非常に興味があるみたいです。
世田谷区のレンタサイクル事業で導入された、eneloop bikeの「CY-SPA226」 | 2人乗りタイプも合計6台用意されている |
――確かに、店舗ではなかなか試すことができませんね
購入を考えていらっしゃる方のひとつの実験として使っていただけると、三洋としてもありがたいですね(笑)
――実は私も世田谷区のレンタサイクルを利用したのですが、最後の方は電池残量が少なくなり、焦ってしまいました。利用するうえで何かアドバイスはありますか
電池残量を知らせるゲージが1個しかつかなくなると、利用距離はあと10kmまで、と考えていただいて良いと思います。世田谷区さんが実際に距離を乗って確かめたところ、バッテリーは28kmか30kmくらいで無くなるとのことでした。ただ、eneloop bikeには回生充電機能(モーター不使用時に発電して、電池に充電する機能)が付いているので、他のメーカーさんよりも走行距離は長くなっています。
●“太陽の恵みで生まれたエネルギー”で省エネが実感できる
――ここからはソーラー充電器の未来について伺わせていただきます。今回は世田谷区でしたが、今後はどこに導入されるか予定はありますかソーラー駐輪場は、自然のエネルギーを体感し、省エネの啓蒙活動としても期待できるという
まだ決まったわけではないのでお答えはできませんが、引き合いは何カ所かあります。良い感じで話を進められていると思います。
――ソーラー駐輪場を作るに当たっては、敷地が広い、あるいは狭い方がやりやすい、なんてことはあるのでしょうか
それはないですね。どちらでも大丈夫です。太陽光が当たる場所であれば、どこでも条件に合わせられます。
――ソーラー駐輪場で発電した電気を売電する、なんてこともできると思いますが
仕組み上ではできますので、要望があればですね。ただ、ソーラー駐輪場に関していえば、自転車で使うことにまずは意義があると思います。
――最後の質問ですが、この記事の読者の中には、ソーラー駐輪場の導入を考えている自治体や企業の人もいるかと思います。そういった方に、ソーラー駐輪場を導入するとこういうメリットがある、というお勧めポイントを教えてください
1つには、“太陽の恵みで生まれたエネルギー”というありがたさを、身を以て体感できる、という点があります。
ソーラー駐輪場というのは、それだけで1つのシステムとして完成されています。例えばソーラーパネルを役場の中に入れたら、役場のどこかに使われているけれど、どこに使われているのか分からなくなります。ソーラー駐輪場は、売電もしないため、確実にコレに使われている、というわかりやすさがあります。
また、省エネの啓蒙活動としても活用できます。最近は何でも「省エネ」と言われていますが、自分の中で気持ちが変わっていかないと、“やらされ感”だけでは省エネは続きません。ソーラー駐輪場は自分で体験できる省エネの仕組みでもあるので、規模の大小を問わず、そういった施設がひとつあれば考え方は変わると思います。ぜひ、お声掛けください。
――本日はありがとうございました
2010年4月26日 00:00