そこが知りたい家電の新技術
美味しい「お水」の理由を、富士山麓の“名水”工場で聞いてきた
by 河原塚 英信(2015/11/30 07:00)
昨今では、水を買って飲むことが一般化している。さらに、自宅にウォーターサーバーを置き、定期的に水を買っている家も珍しくない。だが、一口に水と言っても、その種類は様々。宅配水を展開しているメーカーだけでもいくつもある。では、「お水」はどう選べば良いのか?
そこで、「お水」の選び方を知るため、首都圏から数時間で行ける、名水の産地としてしられる富士山麓へ向かった。
伺ったのは、天然水を家庭に届けるサービスを行なっているウォーターダイレクトの富士吉田工場。ウォーターダイレクトは、同社製ウォーターサーバーを設置した家庭に、富士吉田工場で採れる「クリティア 富士山のお水」をはじめ、中国山地の「クリティア 金城(かなぎ)のお水」、阿蘇山近くで採れる「クリティア 阿蘇のお水」を定期的に届けている。言わば、美味しいお水を知り尽くしている企業なのだ。
そんな“美味しい水”の説明をしてくれたのが、工場長の細谷直利氏。まずは、「クリティア 富士山のお水」が美味しい理由を次のように語った。
「宅配水の中には、RO水を使うメーカーもありますが、当社では天然の水であることにこだわっています。富士山に降った雨は、数十年以上かけてゆっくりと富士山の地層を通って、ろ過されながら流れてきます。富士山自体が火山であることで、溶岩や砂などが天然のフィルターとして機能しているんです。だから自然と水がキレイになる一方で、ミネラルなどの成分が溶け込みます。そうした富士山のお水、ならではの味が美味しく感じさせるんです」。
ちなみに多くのウォーターサーバーで採用されているRO水とは、逆浸透膜(RO膜)で処理された水のことを言う。雑菌などとともに、水本来に含まれていたミネラルなども取り除かれてしまう。人工的に改めてミネラルが添加され、採水地がどこでも手軽に同じものが製造できてしまう。
世界にも認められる美味しい水はどんな味?
人が美味しいと感じる水には、多彩な成分が入っているという。それでは、一般的に“美味しい水とはどんな水なのか?”を、細谷氏に、さらに詳しく聞いた。
「おいしい水研究会という厚生労働省の管轄の研究会は、美味しい水の水質要件を発表しています。そこでは水温をはじめ硬度やマンガン、カリウムなどの要件が示されており、クリティアの水も、もちろんこの要件を満たしています」。
さらに同社では、「マグネシウムやカルシウム、ナトリウム、カリウムなどの天然のミネラル成分量のバランスが、水の味を決めていると考えています。富士山のお水は、カルシウムとマグネシウム比が3:1と理想的なバランスで、すっきりと甘みがあって、飲みやすい水なんです(細谷氏)」。
つまり、富士山という自然が、ベストなブレンドをしてくれた水が「クリティア 富士のお水」なのだという。
ウォーターダイレクトの「クリティア 富士山のお水」は、世界的な機関からも高い評価を受けている。例えば、食品や飲料などの製品を審査する「モンドセレクション」からは、毎年のように優秀品質賞の金賞を受賞している。
さらに国際味覚審査機構iTQiからは、3つ星や2つ星の評価を得ると同時に、審査員からは「バランスがよく、爽快で柔らかい口当たりが口の中に広がる」、「軽くて滑らかで、すっきりとした清潔感のある味」などと評されている。
富士山が作り出した名水を“ほぼそのまま”届けられる理由
富士山が作り出す水が美味しいのは分かった。だが、水源で水を手ですくって飲んだ時の美味しさを、自宅で再現するのは難しく、様々な工夫が必要になるという。ここからは、実際に富士吉田工場で行なわれている工夫と努力を見ていこう。
工場の敷地内には、地下約200mの水脈から水を汲み上げる、ポンプが2つある。汲み上げた水は、まず1μmのフィルターを通して、砂利や異物などが取り除かれる。その後、さらに目の細かい0.45μmと0.2μmのフィルターを通すことで、除菌処理される。
細かいフィルターで除菌処理することで、加熱による殺菌をすることなく、商品化できるという。この「非加熱」で出荷することが、水の味にとってとても重要。
「加熱処理は、水の美味しさの要素の1つである、酸素が失われてしまいやすいんです。一方で、非加熱処理による除菌は、品質管理に手間と技術が必要。でも当社では水の味を大切にするために、“非加熱処理”ということにこだわっています(細谷氏)」。
つまり非加熱での除菌処理は、加熱処理された水よりも、より天然水に近い美味しい風味を残しているということ。簡単なようで実は難しい“そのまま”の状態で、各家庭に届けられているのだ。
人の姿をほとんど見かけない、自働化が徹底された工場内
いよいよ、ボトルの製造からお水の充填、パッケージング化までが行なわれている、工場の核心部へと入っていく。
「工場内で特に力を入れているのが、自働化です。これまで手作業だった工程を自働化することで、衛生面で必要だったケアが減り、高い品質が保ちやすくなります(細谷氏)」
そう話しながら、工場の中に入る前に手を洗い、全身を専用の服や帽子で覆ってから中に入る。人の手作業に頼るということは、こうしたケアが必要になるということなのだ。
工場内の核心部に入って、真っ先に感じたのは、その清潔感。そして、まるで精密機械を作っているようなキレイなフロアには、人がほとんどいないこと。
2階建ての富士吉田工場では、主に2階エリアで、水を入れるボトルの製造と保管を行なっている。ボトルの素材となる塊(プリフォーム)をボトルの成形機にセット。約130℃に温められた塊は、風船のように膨らませられ、成形機の中の金型にはめることで、ボトルを作っていく。
これまでは、水を入れる容器を外部から購入していたという。だが別工場で作られたボトルを運び、管理するのは大変なこと。現在のように、工場内で生産することで、特に衛生管理面での労力とリスクを減らせるのだ。
成形されたボトルは、人の手に渡ることなく、水を注入する1階へと移動していく。まずは容器の底部に、これも機械で取っ手用のテープが貼り付けられる。そのまま容器は、エアーで膨らませた後に、電解水で容器内を洗浄。電解水を抜いた後に、今度は通常の水(「クリティア 富士山のお水」と同じ水)で一旦すすいでから、最終的な商品となる水が充填されていく。
水が入った容器はクリーンルームへと進み、UV殺菌されたキャップでフタをして完成する(もちろんここも自動だ)。驚くべきことに、見学したラインで人の手が入ったのは、容器の素材を成形機にセットしていくところだけ。ほぼ全自動で製品が作られていると言っていいだろう。
水が充填された容器は、一度人の手と目によって検査されるものの、その後はまたロボットによってダンボールに梱包される。その後、水の箱2個を1セットにするためにバンドで巻き、ライン上で送り状が貼られパレットに積まれていく。パレットはスター・ウォーズのテーマ曲を奏でるAGV(無人搬送車)に乗って、搬出口やストックルームへと移動する。さすがにトラックへの積み込みは自動ではなかったが、ストックルームへの搬入出は自動で、という徹底ぶりだった。