そこが知りたい家電の新技術
開発期間4年! 無重力空間でも使える電気シェーバーとは
by 阿部 夏子(2014/10/1 07:00)
オランダの家電メーカー、フィリップスが今年、日本にローカライズしたという電気シェーバー「9000シリーズ」を発売した。実に4年ぶりとなるフルモデルチェンジだ。
丸い回転式の刃が付いた3つのヘッドが並ぶフィリップスの電気シェーバーは、日本でよく見かける往復式の電気シェーバーを使っている人にとっては、見慣れない外観で、ともするとデザイン重視の製品? と思われるかもしれない。しかし、フィリップスの回転式シェーバーの歴史は1939年からスタートしており、実に75年の歴史がある。
今回は、オランダの電気メーカーであるフィリップスが「日本にカテゴライズ」したという「9000シリーズ」について、フィリップス メンズグルーミング カテゴリーリーダー パーソナルケア部門 最高責任者を務めるJack van Strien(ジャック・ヴァン・ストライエン)氏と、グルーミング/シェービング シニアコンシューマーマーケティングマネージャーのChee Min HONG(チー・ミン・ホン)氏に話を伺った。
36,000人を対象とした徹底的なリサーチを実施
今回の「9000シリーズ」は4年ぶりのフルモデルチェンジした製品であり、その開発には相当力を入れたという。
「36,000人を対象としたテストを行ない、ユーザーが求めている機能やデザインについて徹底的にリサーチ、特に日本では念入りなリサーチを実施した。日本は電気シェーバーに関してはとても大きい市場であり、プレミアムタイプのシェーバーを開発するには、日本で必ず成功する必要がある。
これまで日本ではヒゲをキレイに剃るというシェービングを前提として、深剃り機能が求められていたが、最近はヒゲを整えるスタイリング機能も求められていることが分かった。調査では日本のシニアマネージャーの約70%がが部下がヒゲをはやしていても気にしないという結果が出ている」(Jack van Strien氏)
これらの調査の結果、9000シリーズではシェーバーのほかに、ヒゲのデザインが可能なヒゲスタイラーや、日本での男性美容市場の高まりをうけて洗顔ブラシも付属することにしたという。しかし、日本で定評があるパナソニックのシェーバーでは往復式を展開している。なぜフィリップスでは回転式の刃を選んでいるのか。
「1939年のシェーバー開発当初に、肌への密着度やヒゲの生え方などをリサーチした結果、回転式が最も適しているとし、それ以降、回転式のマーケットリーダーとして現在も回転式を採用している。回転式の最も優れている点は、ヒゲがとらえやすいということだ。我々の調査によると、ヒゲの生え方や濃さは人によっても違うが、同じ人でも歳を重ねるとまた変わってくる。個人差や年齢によっても変わってくるヒゲを、肌への負担を少なく、確実にとらえるのには、回転式が最も適していると考える」(Chee Min HONG氏)
回転刃でも、ヘッドを3つ搭載した3枚刃を採用している理由は?
「フィリップスのシェーバーで、最も大切に考えているのは“一度でヒゲを確実にとらえる”ということ。肌を何度も往復することなく、1回でヒゲをキャッチすることで、肌への負担を大きく軽減することができる。発売当時は回転式の刃を1つ搭載した形を展開していたが、その後1951年には2つ、1966年には3枚刃のモデルを展開している。
3ヘッドのもっとも大きな理由は顔に回転刃が密着するということ。肌というのはとても複雑で、なおかつ表面が動く。肌にもっとも密着しやすいヘッドのサイズや、ヒゲをとらえやすい形状を追求した結果が今の3ヘッドだ。ただし、同じ3ヘッドでも実は製品を販売する国や地域によって形状を微妙に変えている。欧米では回転刃は丸い形状だが、アジアでは断面が楕円形になっている。これは、人種によって異なる顔の凹凸やヒゲのクセを考えたものだ。
そのために回転刃の機構には相当こだわっている。たとえば、回転刃の金属の正確性においては他のメーカーには絶対に負けない自信がある。ヒゲを確実にとらえるために、外刃と内刃をV字型にした『ダブルVトラック刃』を採用しているが、これは特許を取得したもので、とてもフレキシブルかつ耐久性の高い金属を使っている」(Chee Min HONG氏)
8つの動きで輪郭を捉える「輪郭検知テクノロジー」
独自の回転刃のほかに、9000シリーズでは「輪郭検知テクノロジー」という技術も搭載している。
「これは、回転刃だからこそ実現した機能で、ほかのシェーバーでは実現できない革新的な技術だ。回転刃は、3つあるシェービングヘッドが独立可動するほか、各ヘッドも浮き沈みして、合計8方向に可動する。回転刃の中央分も、外側の刃も独自に動くので、肌に刃を当てたときにすごくスムーズにフィットする。アゴや頬など、顔の凹凸のある場所でも本体を持ち変えることなく、しっかり密着させて動かすことができる。特に、シェービングで難しいのが、アゴ下から顔にかけての曲面部分だが、9000シリーズならヘッドがしっかり密着した状態で本体を動かすことができる」(Chee Min HONG氏)
もう1つ、9000シリーズならではのユニークな機能として刃のシャープさを保つ「自動研磨システム」がある。自動研磨とはどういった仕組みなのか?
「自動研磨システムといっても特別に砥石のようなものを搭載しているわけではない。回転刃の加工プロセスで、金属の硬度をあげる『エレクトリックマグネット』という工程があり、それによって、外刃は粗く、内刃の表面はスムーズになる。内刃と外刃の角度によって、刃が回転するたびに、内刃が研磨されるように設計している。これは、第三者機関にも効果が実証されているものだ」(Chee Min HONG氏)
高級シェーバーを30代前半で購入するのは日本だけ
デザインについては、どのような考え方なのか。
「フィリップスは、デザインにとても注力しているメーカーではあるが、一番大事なのは、消費者にとって使いやすいかどうかだ。9000シリーズに関して言えば、元々テレビをデザインしていたデザイナーが担当している。彼はテレビやオーディオなど、いわゆる“ボックスタイプ”の製品を長らく担当していたが、9000シリーズではプレミアムなデザインや、カーブを強調している」(Chee Min HONG氏)
これらの技術やデザインはやはり日本市場を意識したものなのか。
「もちろんそうだよ。日本人男性は、テクノロジーが好きで理解しようとする。たとえば、君たち(記者)のように細かい技術のことまで聞いてくるメディアは日本人以外にはいないよ(笑)。僕は大歓迎だけどね。我々にとって、日本は飛び抜けて最も大事な市場だ。その理由の1つは、日本の消費者が9000シリーズのようなプレミアムシェーバーを比較的若い年代で手に入れることにある。世界でみると、このような高額のシェーバーは30代後半で手にするものだが、日本では30代前半あるいは20代後半で買う人が多い。そういった消費者は日本以外にはいないからね」(Chee Min HONG氏)
無重力空間でも使えるシェーバー
9000シリーズでは宇宙をイメージしたプロモーションを展開している。これはなぜか。
「とても良い質問だ(笑)。常に未来を見るという意味もあるが、男性の普遍的な夢の1つが『宇宙へいくこと』だ。なぜ、開発に4年もかかったか、その理由の1つが、9000シリーズを無重力空間でも使えるようにしているからだ。独自の回転刃が8種類の動きをして、しっかり肌に密着するからだ。実際、無重力空間でのテストを行なったが、問題なく使うことができた。男性の遊び心という意味だけでなく、今後の成長、未来を捉えていくという意味でも、宇宙をテーマとしたプロモーションを展開している」(Jack van Strien氏)
未来を見据えているという意味で、フィリップスが進めているプロジェクトがもう1つある。それがドイツ・ベルリンで開催されたIFA2014でも展示されていた「グルーミングアプリ」だ。
「当たり前のことだが、顔の形や肌の質、ヒゲの濃さなど人はそれぞれ違う。そこをフォローするのがグルーミングアプリだ。複数の質問に答えていくだけで、その人に最適なスタイルや、シェービング方法を提示してくれる」(Jack van Strien氏)
グルーミングアプリは、既にドイツやスイス、オーストラリアで運用が開始されている。日本への導入は現時点で未定だというが、“新しいもの”“技術力”が好きな日本へのマッチングは高いだろう。
ヨーロッパで登場した回転刃シェーバーが、今やアジアの日本に注目して製品開発を進める。日本の家電メーカーはこのところ元気がないが、日本のユーザーはまだまだ世界からの注目を集め続けているようだ。