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[聴こうクラシック22]西洋音楽と箏の融合、「さくら変奏曲」の調べ
2018年 3月 30日 07:00
桜が咲くと、本格的な春の訪れを感じますね。今回ご紹介するのは、日本を代表する箏奏者で作曲家の宮城道雄が、西洋音楽の要素を取り入れて「さくらさくら」を元に作曲した箏のための楽曲「さくら変奏曲」です。
盲目の天才音楽家、宮城道雄
宮城道雄は1894年神戸の居留地に生まれ、1956年、62歳のとき大阪へ公演へ向かう途中に事故で亡くなりました。生まれたときから西洋音楽のあふれる土地で育ちますが、生後間もなく眼病を患い、7歳で失明してしまいます。その後、8歳から箏を始め、11歳のときには師匠の代稽古ができるまでになります。13歳のときに父が事業に失敗し朝鮮に渡ったあとは、箏と尺八を教えて一家を支えました。朝鮮にいたころ軍楽隊と交流をもち、レコードを集め西洋音楽を研究します。15歳のときには伊藤博文の前で自作の曲を演奏し、その才能を認められます。伊藤博文とは東京へ同行する約束をしますが、その直後に伊藤が暗殺され叶いませんでした。その後、23歳のときに尺八の吉田晴風に招かれ、ついに東京でデビューします。
「さくらさくら」を変奏曲に
みなさんもよくご存じの原曲「さくらさくら」は、作者不詳ですが、幕末に子ども用の箏の練習曲として作られたと言われています。「さくら変奏曲」は宮城道雄が29歳のときの作品で、西洋音楽の変奏曲の形式をヒントに、音域の異なる3種類の箏を使った3重奏曲として作曲されています。変奏曲とは、主題となるメロディのリズムやスピードを変えたりとさまざまな変化のある曲のこと。この曲も「さくらさくら」のメロディをもとに拍子を変えたり装飾音を駆使したりして、8つの変奏から成り立つ6分ほどの楽曲になっています。
箏の「はじめまして」
「さくら変奏曲」は、箏による初めての変奏曲形式の楽曲です。また、宮城道雄は輪唱であるカノン形式や、同じ音を連打してメロディを響かせるトレモロ、低い音から高い音までをつなげるグリッサンドなど、さまざまな西洋楽器の奏法を初めて箏に用い、邦楽器の開発と発展に貢献しました。また、日本古来の音楽になかったワルツのリズムも取り入れました。宮城道雄のこの作風は斬新で、当時の国内評価は賛否両論でしたが、フランス人ヴァイオリニスト、ルネ・シュメーの目にとまり、2人によるレコード「春の海」がアメリカ、フランスでも発売され、世界的な評価を得ることができました。
京都銘菓の八つ橋と、箏の縁
「さくらさくら」のうたは日本古来の音階でできています。西洋音楽の短音階の「ラシドレミファソラ」の4番目と7番目の音を抜いた音階、つまり「ラシドミファラ」によって成り立っています。この「4,7抜き音階」を作ったといわれるのが、八橋検校(やつはしけんぎょう)です。八橋検校は江戸時代前期の音楽家で、数々の箏の名曲を残し、多くの弟子たちを育てました。没後、京都の黒谷の金戒光明寺に葬られますが、墓参りに訪れる人が絶えなかったと言います。そのときに弟子たちが箏をかたどった干菓子を売り始めたのが八つ橋の始まりと言われています。こうして京都の銘菓、八つ橋が誕生したのです。1689年のことでした。こうした由来を知るとお花見に八つ橋を持参したくなりますね。
おすすめの演奏
それでは少し古い音質になってしまいますが、宮城道雄自身の演奏を聴いてみましょう。1957年の録音です。
参考文献
「雨の念仏」宮城道雄著 日本図書センター
「箏と箏曲を知る事典」宮崎まゆみ著 東京堂出版
「おもしろ日本音楽史」釣谷真弓著 東京堂出版
「箏曲の歴史入門」千葉優子著 音楽之友社