老師オグチの家電カンフー
第10回:捨てられ家電の一生
by 小口 覺(2016/5/25 07:00)
地デジに移行した直後、かなりの数のアナログテレビが路上に捨てられました。不法投棄のテレビはいつまでもそこにあって、まるで集団リストラを受けてホームレス化したようだと思ったものです。
恋愛と同じように、家電との関係もいつか別れがやってきます。捨て、捨てられ。まぁ、家電の側からユーザーを捨てることはないので、一方的な関係ですが。
路上に捨てられた家電を目にするたび、彼、彼女のこれまでの人生、そして捨てられた理由に思いを馳せるようになりました。この世に生まれ(製造され)、出会い(購入され)、同じ屋根の下で生活をはじめる。浮気をされて捨てられる者あり、長年連れ添った後にお別れする者あり。別れの理由やきっかけは様々でしょう。
もっとも身も蓋もない理由は「飽きた」ですかね。正直に言うと、ちょっと人間性が疑われる言葉です。「思っていたのと違った」っていう理由もあります。言われると困惑します。「ほかに好きな人ができた」ってのも割とメジャーでしょうか。「古くなったので」は、家電なら許容範囲ですが対人間では最悪のフレーズです。仕方ないのは「壊れたから」。ホント、あなたって使い物にならないわね。やはり人間に使うとキツイですね。
逆に前向きな理由もあります。自分の成長に合わなくなったので卒業する、ライフスタイルが変化したので買い替える、といったケースです。小ぶりの冷蔵庫が捨てられているのを見ると結婚でもして引っ越すのかな、蛍光灯のシーリングライトを見るとLEDに変更したのかなと、ポジティブに解釈してしまいます。
捨てる理由よりも大事なのは、どう捨てるかです。買い取りやネットオークション、フリマなどを通じて、ほかの人に使ってもらえるのがベスト。家電も前の男(女)のことなどすっかり忘れていることでしょう。リサイクルに出されると、カラダはバラバラになりますが、来世に望みがつなげられます。
最悪なのは不法投棄でしょう。「カネがかかる」って理由ですから、こういう人は離婚しても慰謝料や養育費を払わないタイプです。都会の路上であれば、そのうち自治体などによって回収されますが、山林などに捨てられたものは結構な時間残ります。死体遺棄ですよ。半ば白骨化したような昭和の家電に一瞬ノスタルジーを感じつつ、ご冥福をお祈りいたします。