老師オグチの家電カンフー

ブラックライトでアニサキスを見つけようとして目的を見失った

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 先日、お刺身が食べたくてスーパーに行ったのですが、「当店ではアニサキスに注意して販売しておりますが、お客様におかれましてもご注意ください」というような張り紙に目が止まり、買うのを止めてしまいました。

 アニサキスの報道がテレビなどでなされている時は、お刺身の売り上げもガクッと下がったようです。気持ちが弱っている時なんてそんなもんです。そこで、安心してお刺身を食べるために、ブラックライトを購入してみました。

Vanskyなるブランドのブラックライト。Amazonでセールしており、730円で購入。姿は小型の懐中電灯です

 ブラックライトは紫外線を発する照明器具で、魚に潜んでいるアニサキスなどの寄生虫を発見できるらしいのです。昔はカラオケボックスによくありましたね。蛍光染料で描かれた壁の絵がネオンのように光るアレです。

 アニサキスを発見したぞ! という写真を撮りたくて、ここからひたすらお魚を買い続ける日々が始まります。

切り身に紫外線を照射。寄生虫がいる場合、白く影が映るというが……

 アニサキスが多くいるのは、サバや鮭、イカなどだそうです。アニサキスは冷凍や加熱により死ぬので、生体を見つけるには、国内産、しかも冷凍されていないものを中心に買うしかありません。また、養殖ものよりも天然物の方が見つかる可能性は高いそうです。

 しかし、欲しいと思うと見つからないのは恋人と寄生虫と言われるように、発見には至らず。ついには近所の魚屋さんに行き、「アニサキスのいそうなお魚を売ってください」とまで言う始末。お魚屋さん曰く、「うちにはないけど、内臓の付いているサバで鮮度の低いものが狙い目」。というわけで、スーパーを回りましたが、時期の問題なのか、天然物のサバをまるごと売っておらず。結局、何の成果も得られませんでした!

毎日サバの切り身を買ってたので、竜田揚げが上達しました

 この原稿もボツにしようか。もしくは、魚釣りをしている場所に出かけて行って、アニサキスの検査を申し出ようかとも考えましたが、いや待てよと。これまで、アニサキスのいる魚なんか絶対に買いたくないと思っていたのに、アニサキスに会いたくてしょうがない気持ちになっている。これはヘンだ、手段と目的が逆になっていると気づきました。本来の目的は、お腹が痛くならないことなのに、アニサキスを探すという手段が目的化してしまっていたのです。

 これは、家電などの製品でも起こり得ることです。たとえば、たこ焼き器やポップコーンメーカーなど汎用性の低いアイテムの場合。最初のうちは面白がって使いますが、だんだん飽きて使わなくなる。しかし、せっかく買ったのだからたまには使わなければもったいないという気持ちで使う。手段が目的になってしまっています。

 高額になるほどその傾向は強まります。自動車でも、たまには乗らないともったいないと、用もないのに出かけるサンデードライバーは珍しくありません。所有するモノに行動が左右されてしまう。もっと極端なのは、コレクターなど、買うこと自体が目的化している人ですが、それはそれで多いので、もはやおかしいとも思われていません。人間にとって目的とは? 手段とは?

 寄生虫探しから難しい話になってしまいました。今回の最終的な目的は、ブラックライトでアニサキスを見つけることではなく、原稿にすることなので、こうやって無理矢理まとめてみました。本来の目的を達成。魚はちょっと飽きたので肉を食べたいです。

暗がりでブラックライトを照射すると、ホコリや汚れがよく見えます。お嫁さんに意地悪するお姑さんにとっても便利なアイテムですね

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>