老師オグチの家電カンフー

第13回

サケが川を上るように、調理家電は上流を目指す

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 この連載で書いた「ドヤ家電」が、日経MJ2016年上期ヒット商品番付の「前頭」に入りました。おめでとうございます、俺。だからというわけでもないですが、ドヤっぽいデザインの家電を購入しました。

カリタ「ナイスカットミル」。カット式で豆に熱を伝えることなく均一に挽けるとして、コーヒー通から評価が高い。業務用に近いデザインと合わせてドヤ家電と申して良いでしょう
これまで使っていたミルは、メリタ「パーフェクトタッチII」。豆を挽く臼の部分が壊れたので買い替えることに

 カリタの「ナイスカットミル」は、コーヒー好きの間では定評のある電動コーヒーミルでして、購入価格もプチドヤの20,000円台。残念ながらこの3月に生産終了となっており、価格はちょっとプレミアっぽくなっています(秋頃に再販されるようですが)。

 性能(ウンチク)については写真に付記した解説に譲りますが、まず目を引くのはデザインです。喫茶店にある同社の業務用ミルに準じた形で、どことなくスチームパンクっぽいです。うちの長男(小6)は「SLみたいだね」と言っていましたが、その友達は写真を見て「これはコーヒーミルだね」と即答したそうです。お、大人!

 しかし、人はなぜミルを買うのか? 大人の答えは「おいしいコーヒーを飲むため」です。

 確かにある種の食材では、行程を上流にさかのぼるほどに、味が高まります。その意味で似たタイプの家電は精米機ですね。共に、食べる・飲む直前に加工することで、鮮度を維持しやすくなるわけです。できたてがおいしいという意味なら、ホームベーカリーもそうですし、ほとんどの食品が加工された状態で売られている昨今、単純に自分の手で作ってみたいという希望を叶える家電製品がたくさん出てきています。

豆を投入するホッパー。スムーズに豆が下に落ちていくため、挽く時間が短縮されている。挽く量を調節する機能はないので、挽く分だけ豆を入れる
粒度(豆のサイズ)はダイヤルで選択する。細挽きから粗挽きまで8段階。安価なプロペラ式ミルのように挽く時間を考えなくても良い

 人間、ある程度余裕が出てくると、サケが産卵の時にそうするように、上流にさかのぼりたくなるようです。意識高い系です、ドヤです。その究極は、畑から作るダッシュ村ですよ。さすがにコーヒーの場合、カフェが農園を所有していたりしますが、個人では聞いたことがないですね(でも、いそうではあります)。

中挽き(ダイヤル3)で挽いた豆。ほかの家庭用コーヒーミルよりも粒子の大きさが揃っていて、これが淹れたコーヒーの味に影響している

 まぁ、個人でコーヒーを楽しむにはミルぐらいがちょうど良いんじゃないでしょうか。しかしつい先日、家電量販店で家庭用コーヒー豆ロースター(焙煎機)の存在を知ってしまいました。今のところ買う予定はないですが、もし臨時収入があると買っちゃうかもしれません。その次は豆へのこだわりですかね。サケが産卵で川を上るというより、抜けられない沼へ向かっている気がします。

小口 覺

1969年兵庫県にて製造。ライターとして、雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆、マンガ原作を手がける。取材・関心領域は、PC、インターネット、スマートフォン、家電、料理、各種ライフハックなど。

Webページ「有限会社ヌル/小口覺事務所」
http://nulloguchi.wix.com/nulloguchi