藤山哲人の実践! 家電ラボ
第20回
エアコン暖房ってホントに石油ファンヒーターより乾燥するの?
by 藤山 哲人(2013/12/3 07:00)
冬も本格化した今、気になるのは暖房した部屋の湿度。暖房を入れると部屋が乾燥して、ノドが乾くだけならまだいい。乾燥した室内は、インフルエンザウィルスにとって天国で繁殖し放題だ。乾燥でノドや鼻の粘膜が弱っているところに、インフルエンザウィルスが入り込めば、病院のお世話になることは確実だろう。
さてそんな冬の暖房だが、都市伝説のような話がある。「石油ファンヒーターは、石油を燃やしたときに水蒸気がでるので乾燥しない」という説だ。しかも「モノを燃やさないエアコン暖房の方が、部屋がカラカラに乾燥する」とも言う。
感覚からしてみれば、燃やすのに空気を使う石油ストーブの方が部屋が乾燥しそうに思える。しかも昭和世代にとっては(反射型の)石油ストーブとヤカンは常にワンセットで「ストーブをつけたらヤカンに水を入れる」のが当たり前だった。なのに石油ファンヒーターにはヤカンが乗せられないので、見るからにますます乾燥しているように思えてならない。逆に言うと、モノを燃やしていないエアコンが何で乾燥するのかサッパリだ。
インターネットで情報を探してみても、「石油ストーブは水蒸気を出すので乾燥しない」という情報はあるものの、実際にエアコンと石油ストーブをつけて、部屋の湿度を比較した記事も見当たらない。
今回の家電ラボでは、そんな不思議を一挙解決! スッキリ解明!
分からんことは、自分で調べる! やってみる!
Do it oneself!
エアコンとガスや石油ファンヒーターでは、どのぐらい部屋の湿度が違うモノなのかを検証してみた。
ヒトは湿気に鈍い上、湿度って定義が難しい
さて実験の前に、知っているようで知られていない「湿度」の話をしよう。まず第一は、湿度に対するヒトの感覚が極端に鈍いということ。気温なら「今日は昨日に比べて寒いから15℃ぐらいかな? 」なんて感覚的に分かるだろう。数℃の違いこそあれ、気温15℃を25℃に感じたり、5℃に感じたりと±10℃以上ズレることはあまりない。
しかし湿度はどうだろう? 手元に湿度計があるヒトはぜひ試してみて欲しいが、±10%以内で湿度を言い当てるのは、ほぼ偶然に近い。つまりヒトの感覚器官は、ほとんど湿度を捉えることができず、蒸し暑いのが分かる程度で、他に湿度を知る手段は、のどが渇く、肌がカサつくという現象で初めて知る程度だ。
そして湿度をややこしくしている原因がもう1つある。湿度とは、空気にどれだけ水蒸気が含まれているか? という指標だ。でも空気が含める水蒸気の量は、気温が高いとたくさん水蒸気を含めるという性質がある。
ここで気温20℃でコップ1杯の水蒸気を含んだ状態を湿度50%としよう。つまり20℃の空気には、コップ2杯の水蒸気を含められる(飽和水蒸気量)が、実際にはコップ1杯しか含まれていないので湿度は50%ということになる。
でも同じコップ1杯の水蒸気を含んだ空気でも気温が30℃になると湿度は下がるのだ。つまり気温30℃だと飽和水蒸気量が増えて、仮にコップ3杯に増えたとすると、20℃と同じコップ1杯の水蒸気が空気に含まれているにもかかわらず、湿度は33%まで下がってしまうのだ。
逆に気温が下がると飽和水蒸気量は少なくなる。仮に10℃の飽和水蒸気量がコップ1杯とすると、20℃と同じコップ1杯の水蒸気が含まれた同じ空気でも、温度が下がったというだけで湿度100%に跳ね上がるのだ。
空気はいずれもコップ1杯の水を含んだものだが、気温10℃では湿度100%に、20℃では50%に、30℃では33%になってしまうのだ。
さてここで1つの疑問が解消する。それはモノを燃やしているわけじゃない「エアコンで暖房すると乾燥する」という説だ。加湿機能がない普通のエアコン暖房をすると、部屋の温度がどんどん上がるので、それにつられて湿度がどんどん下がっていく。乾燥するのはエアコン暖房だけじゃない。オイルヒーターや電気ストーブ、ハロゲンヒーターや床暖房も、必然的に乾燥してしまうのだ。これらモノを燃やさず部屋を暖める機器を使うと、空気が乾燥するのだ。
石油ストーブから出る水蒸気はハンパない量だった
湿度の原理を説明したところで、実験に移ろう。比較に使った暖房機器は、10年前に買った石油ファンヒーターと、やはり同時期に買った保湿機能など一切備えていないエアコンだ。実験に使ったのは自宅の6畳間だ。
暖房機器として使ったのは、10年前に買った石油ファンヒーターと、やはり同時期に買った保湿機能など一切備えていないエアコンだ。
まずエアコン暖房による室温と湿度の変化をグラフで見てみよう。当初55%あった湿度は、部屋が暖まるにつれどんどん低くなり、24.5℃で湿度40%を割り込み、運転開始から2時間近く経過すると、26℃で39%まで下がった。先に温度と湿度の関係を説明したが、温度の上昇カーブを逆さまにしたように、湿度がどんどん下がっているのがわかる。
一方で、石油ファンヒーターの湿度グラフの傾きに注意して欲しい。暖房開始直後の湿度は最大で52%あったが、室温が31℃でようやく湿度45%となり、以降34℃で43%まで湿度が下がった。室温の上昇カーブに比べると、湿度の下がり具合を示すカーブは緩やかで、明らかにエアコン暖房とは湿度の下がり方に差があることが分かる。
ここで2つのグラフを1つにまとめてみよう。
部屋が暖まった2時間40分後あたりの湿度をパッと見ると、エアコンと石油ストーブではさほど湿度に変わりはなく、その差5%といったところだ。しかしそこに至るまでの湿度の変化を見てみると、1時間を経過した辺りでエアコンと石油ファンヒーターの湿度が逆転している。
エアコン暖房は、運転直後からグングン湿度が下がり、3時間の間に17%も乾燥した。かたや石油ファンヒーターは、湿度の減り方がゆるく3時間運転してもエアコンの半分程度の9%しか乾燥しなかった。
つまり石油ファンヒーターは、運転すると空気に水分が補給されていることになる。もし水分が補給されなかったら、エアコンのように20%近く乾燥したはずなのだ。しかも石油ファンヒーターの室温はエアコンよりも5~10℃近く高くなっているので、論理的には水分が補給されなければエアコン暖房以上に乾燥しなければならない。
なぜ石油ファンヒーターは湿度が下がりにくいのか。灯油を燃やすと残りかすとしてCo2(二酸化炭素)とH2O(水)が残る。ガスファンヒーターで使う都市ガスやプロパンガスを燃やしても、やはり残りかすはCo2(二酸化炭素)とH2O(水)。今回の実験では、湿度が下がる傾向にあったが、場合によってはストーブをつけていると湿度が外気より上がるという可能性もあるのだ。
エアコン暖房はインフルエンザ防止の意味も含めて加湿器併用がいい
これから寒くなってくるとインフルエンザが流行り出す。予防注射を打ったとしても、かかる可能性は50%あるという。そこで注意したいのが部屋の湿度だ。東京都健康安全研究センターの資料によれば、インフルエンザウィルスが活発に繁殖するのは湿度が20%のときだという。湿度が50%以上では死滅するので、インフルエンザの予防のためにも湿度は40%以上がいいというのだ。
今回の実験では、エアコン暖房をすると湿度が40%を下回った。ただしこれは運転開始直前の湿度が56%と比較的湿度が高い場合の値だ。気象庁のデータを調べたところ1月ごろになると、湿度はほぼ30%台まで乾燥し、日によっては最低湿度が10%台にもなる。こんな日にエアコン暖房をしたら、インフルエンザウィルスを培養するようなものなので、加湿器を併用するべきだ。
どんな加湿器を選べばいいのかは、少し古い記事になるが以前に「家電ラボ」で紹介した「第9回:加湿器にはいろんな方式があるけど、どれを選べば良い? 」を参考にして欲しい。
また「保湿機能」がついたエアコンもあるが、これは「加湿機能」ではない点に注意。保湿機能は、水蒸気の粒をより小さくして、肌に取り込まれやすくする機能がメインで、部屋の湿度を高める機能ではない。購入時には欄外の注意書きにも目を通してみて欲しい。筆者の知る限り「加湿機能」つきのエアコンは、ダイキンの「うるるとさらら」「うるさら7」ぐらいしかない。
石油やガスを使う暖房が乾燥しないというのはホント!
石油やガスファンヒーターの場合、長時間使うと多くの水蒸気を発する。とはいえ、もともと湿度が低い日などは、エアコン暖房ほどではないものの、運転直後は乾燥傾向にある。インフルエンザの予防という点から考えると、運転直後は加湿器を使うとよりベストだろう。
一部繰り返しになるが、最後に加湿器を併用したほうがいい暖房機器と、さほど必要ない暖房機器をまとめておこう。
【加湿器を併用した方がいい暖房機器】
【さほど加湿器が必要ない暖房機器】
ちなみに、どんな暖房器具を使う場合でも、人が集まるリビングには湿度計をかけておきたい。人間の湿度に関する感覚は非常に鈍いので、たとえ100円ショップの湿度計でも、感覚よりはかなり正確だ。
この冬の風邪予防は、気温だけでなく、湿度にも気を遣いたい。