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シャープ、蓄冷冷蔵庫や各種ロボットなど開発中の新技術を公開

シャープの天理工場。シャープの技術開発の中枢になる

 シャープは、奈良県天理市の同社天理工場において、新規事業分野における開発中の技術およびサービスを、報道関係者に公開した。

 同社では、2013年5月に、技術担当の水嶋繁光副社長が統括する組織として、約80人体制で新規事業推進本部を設置。2015年度には新規事業で800億円の事業創出を目指していた。

 今回公開したのは、28種類の技術およびサービスで、今後1~2年以内に事業化を図る計画としているものが多いのが特徴だ。

 シャープの水嶋繁光代表取締役副社長執行役員は、今年2月には、社内向けに約150の新規技術およびサービスについて公開した。その中から、共同開発しているパートナーに迷惑がかからないもの、技術漏洩の恐れがないものを選んで公開した。

 シャープは、思わぬ可能性を発見し、それを形にして市場に提案する企業になることを目指している。新規事業、革新商品の創出により、シャープのあるべき企業像に革新していく。公開したのは、「それを表現できる技術やサービスである」とし、「今回公開したもの以外にも面白いものはあるが、それらについての公開はもう少し待ってほしい」などと述べた。

 今回、展示した技術、サービスは、同社が新規事業領域として位置づけている「ヘルスケア・医療」「ロボティクス」「スマートホーム/モビリティ/オフィス」「食/水/空気の安心安全」「教育」の5つの領域と、「革新商品」をあわせた6領域から展示した。

シャープ 代表取締役副社長執行役員の水嶋繁光氏
報道関係者を対象に行われた技術展示の様子

ヘルスケア・医療――座れば分かる健康管理システムほか

 ヘルスケア・医療分野では、「ヘルスケア・健康管理支援」「先端医療開発支援」「初期診断支援」の3つのエリアにフォーカス。フィットネスクラブなどを対象に事業化している健康管理システムや、血管の老化度を見える化する血管老化度センサー、タンパク質解析システムなどを紹介した。

 さらに、水嶋副社長が「黙って座れば、ピタリとわかる」とする健康コックピットでは、座るだけで脈拍、体重、血圧、肥満度、体脂肪率、骨密度、基礎代謝量などを測定。クラウドとの連携による健康サービスも提供し、健康医療や予防医療にも貢献できるとしている。

 また、初期診断システムでは、インド・バンガロールでの実証実験を開始していることを説明。「インドでは医療機関が不足しているという課題がある。医療機関がない場所でも初期診断ができるといったメリットがある」とした。

健康コックピット。座るだけで健康状態がわかる健康管理プラットフォーム
タンパク質抽出装置「ゲルピッカー」(右)とタンパク質分離装置「Auto2D」
血管老化度センサー。糖尿病の早期発見に貢献する

ロボティクス――サービス、生産、コミュニケーションの3つの軸で展開

 ロボティクスでは、サービスロボット、生産ロボット、コミュニケーションロボットの3つの軸で展開する。

 サービスロボットとしては、2014年度中に製品化する業務用清掃ロボ、歩行アシストロボット、2015年度中に製品化する運搬ロボ、メガソーラー清掃ロボなどを紹介した。

 歩行アシストロボットでは、登り坂では歩行しやすいようにアシストし、下り坂ではブレーキをかけるといった使い方ができる。また運搬ロボでは、ホテルや空港で荷物を自動搬送する。

業務用清掃ロボ。地図で設定した部分を掃除する
歩行アシストロボ。坂を上る際には楽にのぼれるという
ホテルや空港で荷物を運ぶ運搬ロボ
業務用清掃ロボのデモストレーション(クリックすると別ウィンドウで動画が再生されます)
運搬ロボで荷物を運ぶ様子(クリックすると別ウィンドウで動画が再生されます)

 生産ロボットでは、農作業ロボを開発中であることを紹介した。

 コミュニケーションロボでは、新たにセキュリティロボをデモストレーション。不正な侵入者がいた場合には遠隔地からの操作によって、侵入者の顔を撮影して、送信したり、音声で退去を命じるといった使い方を紹介した。

セキュリティロボットで遠隔地から侵入者を監視する
セキュリティロボットによる監視の状況

スマートホーム/モビリティ/オフィス――クラウドサービスを柱に

 スマートホーム/モビリティ/オフィスでは、「TVクラウド活用」「クラウドHEMSサービス」「次世代ホームエネルギーソリューション」が柱となる。

 TVクラウド活用では、NTT西日本と協業し、すでに実用化しているテレビ見守りサービスや、国内シェアナンバーワンである「AQUOS」の視聴データを活用して、注目度の高い話題を分析することで、様々なサービスに活用する流通事業者向けTVトレンド情報サービスなどを紹介した。

AQUOSの視聴情報からテレビ番組への注目度を計測
データを元に視聴者にお勧め情報を提供する

 クラウドHEMSサービスでは、「ココロボ~ド」により、スマホを通じてココロボと会話したり、エアコンなどの家電製品をココロボから操作するといった使い方をデモストレーションした。

 また、次世代ホームエネルギーソリューションでは、クラウドを活用して蓄電池のパフォーマンスを最大化するクラウド蓄電池、電気自動車の蓄電池を非常用電源やピークシフト電源として利用するV2H(ビーグル・トゥ・ホーム)技術を公開した。

ココロボ~ドを利用して、スマホを通じて利用者とココロボが会話する。家電製品の操作指示もできる
電気自動車の蓄電池を非常用電源などで利用するV2H(ビーグル・トゥ・ホーム)

食/水/空気の安心安全――各種センサーやオゾン水生成器を展示

 食/水/空気の安心安全では、ドバイや大阪・堺工場で実証実験している植物工場でのいちごの栽培事例のほか、「食べ頃センサー」など用途に合わせた各種センサーや、オゾン水を簡便に生成する「オゾン水生成器」が紹介された。

2014年4月から、いちごの病原菌殺菌での検証を開始している
ドバイで実施している植物工場の事業化。高品質な日本のいちごの生産を行なっている

 各種センサーでは、高速高感度においセンサーにより、食品の熟度を判定して食べ頃をスマホ上に示す「食べごろセンサー」をはじめ、農作物の変化をセンサーで判定して、最適な収穫時期や、病虫害を防ぐための情報をスマホに可視化して表示する「品質判別センサー」や、手軽にPM2.5濃度を計測する「PM2.5センサー」、さらに浮遊菌による汚染リスクを見える化する「微生物センサー」を展示した。

食べごろセンサーなどに利用するセンサーデバイス
食べごろセンサー。果物の熟度を数値と色でわかりやすく表示する
スマホを利用した食物品質チェッカー。農作物のわずかな異常も検知して画像表示できる

 また、オゾン水を簡便に生成し、農作物の病害予防、鮮度保持を実現したり、いちご炭疽病菌の殺菌効果に生かすといったことを可能にする「オゾン水生成器」を展示した。

 「これまでの浮遊菌の測定方法では結果が出るまでに1週間ほどかかり、データが出てきたときには、すでに使い物にならないという問題があった。だが、微生物センサーではわずか10分間で浮遊菌の汚染を計測。食品工場や製薬会社、公共施設などでリアルタイムでの対応ができるようになった」という。

生成したオゾン水によって水をきれいにするデモストレーション
オゾン水生成器。オゾン水を簡単に生成し、農作物の病害予防、鮮度保持などに利用する
オゾン水手洗い器。オゾン水を利用して手を洗浄することでノロウイルスなどから守る

教育――タブレットを活かした教育・学習を支援

 教育では、1990年以来、累計8,000校以上の導入実績を背景にした「スタディシリーズ」を紹介。BIG PADと15.6型 IGZO液晶搭載 Windowsタブレットの連携などを通じて、一斉教育支援、個別学習支援、共同学習支援の3点から、情報活用能力の育成と、わかりやすさが深まる授業の実現を支援するという。

BIG PADと15.6型IGZO Windowsタブレットを利用した教育支援システム
AQUOSのバックライト技術を活用した内照式看板。柱巻きの利用も可能だ

革新商品――静音スイーパーや蓄冷剤冷蔵庫などを紹介

 革新商品事業分野では、革新家電としてすでに発売した「お茶プレッソ」のほか、2014年度から2015年度にかけて製品化する技術を紹介した。

 「やわらか食調理器」は、高齢者や咀嚼困難者の食事の楽しみを提供するための調理器具。一度調理した料理をこの中に入れるだけで、食材の形を崩さずに柔らかく加工。蓮根やタケノコを歯茎だけでつぶすことができる。

 「味も変わらず、栄養素はほとんど失わずに柔らかくすることができる。現状のきざみ食やミキサー食では、食欲があまりわかないといった問題も解決できる。2015年度に製品化を予定している」という。

タケノコもこれだけやわらかくできる
やわらか食調理器。作った料理をこれに入れると、蓮根なども歯茎でつぶせる
見た目は同じであり、高齢者や咀嚼困難者の食事の楽しみを提供する

 「ホットウォーターサーバー」は、わずか3秒でお湯が沸くというもので、必要な分量だけを瞬間で沸かすことで、省エネにも貢献するという。また、カップにドリップ式のコーヒーパックをセットすると、最初にお湯を入れて一度むらし、その後ゆっくりとお湯を注ぐといった使い方もできる。

 ホットウォーターサーバーの技術を横展開したのが「調乳器」だ。3時間ごとに授乳するといった状況において、ミルクを作るのは大変な作業だ。ミルクを作るのには30分ぐらいの時間を要する場合もあり、その間に泣き叫ぶ赤ちゃんの面倒をみる必要もある。

 調乳器では、わずか2分で自動的にミルクをつくることができるというもので、育児の負担を低減できるのが特徴。沸騰後、70℃以上に冷ましたお湯で調乳する、WHOに準拠した作り方も実現しているという。

わずか3秒でお湯が沸くホットウォーターサーバー
カップにドリップ式のコーヒーをセットすると、少しお湯を入れてむらすといった作業も行なう
調乳器。30分程度かかるミルクづくりを2分間で自動的に行なえる

 「静音スイーパー」は、吸引モーターを持たない新たな掃除機で、主に2台目としての用途を狙ったもの。単三乾電池3本で100分間動作し、フローリング上のホコリや髪の毛などを捕集する。動作時は、ローラーの駆動音だけであり、排気もなく、子供が寝ているといった場合にも利用できる。

静音スイーパー。吸引モーターを不要にしてフローリング上のホコリなどを取る。排気がゼロなので空気を汚さず、深夜や赤ちゃんのそばなどでも利用できる
乾電池3本で100分間の動作が可能だという

 「蓄冷剤冷蔵庫」は、2014年6月からインドネシアで発売する製品で、冷蔵室に入れたままで冷蔵温度帯を実現できる保冷剤を開発。約2時間の保冷が可能だ。ASEANなどの停電が多い地域でも、停電時に食材を保冷できるようになるという。

蓄冷冷蔵庫。2014年6月にインドネシアで発売予定だという
停電が多いASEAN市場では、この蓄冷材によって2時間程度の温度維持ができる

 また、パーソナライズ家電や革新ディスプレイでは、鏡にテレビ画像を映し出すスマートミラーテレビ、ディスプレイに各種情報を表示するスマートミラーディスプレイなどを展示。従来のハーフミラーよりも、鏡も映像も明るく表示。内蔵したカメラで静止画や動画を撮影することで、試着した様子も複数の画像を並べて比べるといった使い方ができる。

 アパレルショップなどでのBtoB向け提案のほか、クローゼットへと組み込みなどのBtoC用途での展開も想定しているという。なお、スマートミラーテレビは、すでにアクセサリーブランドのQ-potとコラボレーションしている実績があるという。

高透過ミラーを採用したSMART MIRROR。情報を流しながら空間演出ができるという
スマートミラーテレビ。テレビがついていないときにはインテリアとして利用できる
スマートミラーディスプレイ。カメラとセンサーを組み合わせてコーディネイト提案などを行なう

 一方で、水嶋副社長は、2014年4月に、市場開拓本部を新設したことにも言及。「これまでの1年間は期待以上の成果が出たと考えている。すでにビジネスを開始した新規商材もある。シャープの若い技術者たちが、こんなに技術力があり、新たなものを創出できる力があることも理解できた。

 また、パートナーからも、シャープにはこんな技術があるのか、こんなことをやっているのかという声もいただき、約50社とのコラボレーションによる事業化を進めているところである。

 だがその一方で、課題にも直面した。それは、新たな顧客や新たな商流を開拓することである。新技術によって生まれた製品は、既存の商流やビジネスモデルでは広がりがない。市場開拓本部は、新たなバリューチェーン、新たな顧客創出を実現する組織であり、規模拡大の加速、新規商品の早期創出を加速することになる」とした。

 社内向けに開催している新技術説明会も、従来は「R&D会」と呼んでいたが、今年2月の開催では、「商材会」と名称を変更。単なる技術開発に留まらず、製品化すること、事業化することを前提とした姿勢へと大きくシフトした点も見逃せない。2年目以降の新技術への取り組みは商品化、事業化にこだわっていくことになる。

 最後に水嶋副社長は、「数多くの技術が出てきたが、まだ実際のビジネスにできていないのが実態。新事業によって創出された2013年度の実績、2014年度の見込み数値は公表しないが、新たな技術や製品を、力のある事業に育てあげ、2015年度の800億円という数字は達成したい」と述べた。

大河原 克行