ホンダ、災害時もエネルギーを自前で確保できるスマート住宅を公開

~太陽光/ガス/蓄電池を活用。庭には自動芝刈りロボットも
「Honda スマートホームシステム(HSHS)」を導入した実証実験住宅

 本田技研工業は、熱や電気などの生活エネルギーが家庭で作れる「Honda スマートホームシステム(HSHS)」を導入した実証実験住宅を、埼玉県さいたま市に建設。23日、報道関係者向けに公開した。


太陽光・ガス発電・蓄電池を活用してCO2削減。ホンダの社員が実際に住んで検証

HSHSの設備。左上がスマートイーミックスマネージャー、左下が蓄電池。その右がコージェネレーションユニット、その右が貯湯タンク

 HSHSは、家庭のエネルギー需給を総合的にコンロトールするシステムのこと。太陽光発電システム、蓄電池、ガスによるコージェネレーション(熱電併給)ユニットといったエネルギー機器に加えて、これらの機器をコントロールする「Smart e Mix Manager(スマートイーミックスマネージャー。以下SEMM)」で構成される。SEMMが電力会社からの電力と、各機器からの電力を最適に制御することで、家庭におけるCO2排出量を削減する効果があるという。

 HSHSはさらに、停電や災害時の自立運転にも利用できる。電力会社からの供給がストップした場合は、出力4.4kWの太陽光発電またはコージェネレーションユニットで発電できる。ガスが停止した場合は、外部接続のプロパンガスも利用可能。さらに、容量2kWhの蓄電池や、電気自動車に内蔵された電池も、家庭の電気に使用できる。さらに、コージェネレーションシステムが電気と同時に熱も作るため、給湯も利用できる。同社ではHSHSを「総合的なエネルギーマネジメントシステム」としている。

HSHSには太陽光発電システムも含まれるEV(電気自動車)とも連携する
例えば停電が発生した際は、太陽光パネルからの電気を使用する。また、天然ガスを用いてコージェネで発電・給湯も利用できる天然ガスの供給が止まっても、外部のプロパンガスも利用できるさらに、電気自動車の電力も暮らしに利用できる
電気自動車を充電しているところ。実証実験住宅では、写真のような充電アームも用意されるEVのバッテリーを家庭の電気に供給しているところ

 HSHSの実証実験住宅が設けられたのは、埼玉県さいたま市桜区の埼玉大学の隣接地。ホンダはさいたま市が推進する電気自動車の普及施策「E-KIZUNA Project(イー・キズナ・プロジェクト)」に参加しており、その一環として作られた。

 敷地にはHSHSを導入した一戸建て住宅が2棟建設され、今回はうち1棟の「プレゼン棟」が公開された。もう1棟は、実際に生活し、各データを取得する「居住棟」で、ホンダの社員が4人家族で生活しているという。

 実験中の敷地では現在、3棟目の住宅も建設されており、既にある2棟を繋ぐスマートコミュニティの実証が行なわれる。実証試験は2018年まで続く予定。

実証実験住宅が設けられたのは、埼玉県さいたま市桜区にある埼玉大学の隣接地ホンダによると、埼玉県のエネルギー消費データは全国の平均値で、ちょうど良いシチュエーションだったという。現在は「プレゼン棟」と「居住棟」の2棟が設置されているが、今後は敷地中央にもう1棟居住棟が設置されるという


スマートコンセントで消費電力を測定。カーナビが鍵の掛け忘れを知らせるサービスも

今回使用されるコージェネユニットは、エネルギー利用率が92%という高効率な機器を使用

 実証実験住宅における検証テーマは、各機器ごとに設定されている。

 ガスコージェネレーションユニットでは、蓄電池からの自動起動を研究し、非常時における対応を検証。太陽光パネルでは、現在開発中のパネル「新型CIGS薄膜太陽電池モジュール」を用いて、発電量の優位性を見る。蓄電池では、電気自動車や電動二輪車のバッテリーのリユースなど開発を推進し、システムの効果を検証する。


太陽光パネルは、ホンダグループの「新型CIGS薄膜太陽電池モジュール」を採用CIGSは薄さと製造時のエネルギーの少なさが特徴というまた、天候による発電の影響も少ないという
影による発電の影響も少ないとされる実証実験住宅の中に設置されていた、CIGSと多結晶シリコンの発電効率の比較。CIGSの場合、葉がパネルの上に乗った場合の出力の減り幅が少ない

 SEMMでは、電気自動車やハイブリッド車に電力を供給することによる全体的なCO2削減効果や、最適な充電方法を検証する。

 SEMMではさらに、同社のカーナビゲーションシステム「インターナビ」と連携した、ネットワークを用いたサービスの検証も行なう。具体的には、出発前に照明の消し忘れや鍵の掛け忘れをカーナビで案内したり、外出先からスマートフォンやタブレットで電源のON/OFFをコントロールしたり、使用電力や電気料金、発熱量や給湯温度などを宅内モニターで情報を提供するなどのサービスが行なわれる。

 家電の消費電力は、住宅内に設置されたコンセント「スマートプラグ」で測定し、SEMMに情報が送られる。また、家電のON/OFFがワイヤレスで操作できる学習リモコン「iRemocon」も、各部屋に設置される。

HSHSのネットワークの概略図。SEMMを中心に、無線で繋がっているホンダのカーナビゲーションシステム「インターナビ」と連携することで、カーナビが鍵の掛け忘れや照明の消し忘れを知らせてくれるというタブレット端末に、現在の発電状況、消費電力情報が表示できる
ワイヤレスの学習リモコン「iRemocon」(左)を繋げることで、離れた場所でも家電のON/OFFが操作できるコンセントは、消費電力を測るスマートコンセントが基本だiPhoneなどスマートフォンアプリの操作で、機器の操作や発電状況などの情報が確認できる

 ホンダではこの実証実験により、CO2排出量の削減や、新しい車の在り方、家庭用エネルギーのバックアップ機能の検証などを行なっていくとしている。

 なお、停電時に使用可能なコンセントは一部に限られており、コージェネ用、太陽光発電用、蓄電池用のそれぞれの差し込み口に接続する必要がある。また、電気自動車からの電気を使う場合も、専用のコンセントに接続する。

冷蔵庫のコンセント。複数の差込口が用意されており、停電時にどのエネルギーで発電するかを選択する電気自動車から電力供給を受ける場合専用のコンセントも存在する

「既存の住宅にもリフォーム感覚で設置できる。3~4年のうちに事業化したい」

ホンダ 山本芳春 取締役 専務執行役員

 ホンダの山本芳春 取締役 専務執行役員は、HSHSの事業化について「3~4年のうちに事業化したい。皆様の家庭に早く導入できるよう、実証を進めていく。コージェネ、ソーラーは事業展開中で、電気自動車についても今年発売を予定している。それをベストミックスでコントロールすることが課題」と語った。

 また、HSHSの特徴については「構成機器類をコンパクトにすることで、新築だけでなく、既存の住宅にもリフォーム感覚で設置できる」ことを指摘し、将来的には「複数の家をリンクしたスマートコミュニティへと発展させていきたい」との意向も示した。

 今回の実証実験住宅におけるCO2削減目標については、「2000年比で50%削減する。高気密・高断熱の家と省エネ家電と組み合わせることで、トータルで80%のCO2削減を目標に実証していきたい」と宣言。さらに「暮らしとモビリティをリンクすることで、より豊かな生活『クオリティ・オブ・ライフ』の向上ができるものと考えている」と、暮らしに良い影響を与えることも強調した。なお、クオリティ・オブ・ライフの影響については、さいたま市、埼玉大学、芝浦工業大学との“産学官”で連携し、検証していくという。

コージェネによりお湯を活かした機能も多数搭載される。「クオリティ・オブ・ライフ」への影響も検証されるという写真は温水を用いたファンヒーターお風呂ではインターナビによる遠隔の湯はり機能や、マイクロミスト付きの浴室暖房換気乾燥機も付いている


ホンダの自動芝刈りロボットが庭を駆け回る

ホンダの自動芝刈りロボットも展示された

 実証実験住宅ではこのほか、自動で走行しながら芝をカットする「自動芝刈りロボット」が、実証実験住宅の庭の芝生で公開された。

 同住宅の庭の場合、2~3時間ほどで芝を切りそろえられるという。終わった後は自動で充電ステーションに戻る。芝生の境界には、外側に出ないよう信号を発するワイヤーが張られている。カット後の芝は本体内に回収されず、そのまま庭に残る。カット方法や電池の種類については公表されなかった。


後ろから見たところ。なお、芝生に面した裏側の様子は公開されなかったカットが終わると、自動的に充電ステーションに戻る

自動芝刈りロボットが動いているところ。動画前半は近くから、後半は2階から撮影している





(正藤 慶一)

2012年4月24日 00:00