長期レビュー

パナソニック「ヒートポンプななめドラム NA-VR5600」 その3

~乾燥を使わないなんてもったいない!
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「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



ヒートポンプななめドラム NA-VR5600

 第1回では、現在のドラム式洗濯乾燥機のトレンドと、なぜパナソニックの製品を選んだかについて述べた。そして前回は、洗濯性能と静かさ、振動の少なさについてお届けした。最終回となる今回は、乾燥性能と省エネ性能、そしてナノイー機能について触れたい。

使わないと元が取れない乾燥機能

 私も洗濯機選びについて相談を受ける機会が多いが、多くの人に共通しているのが、ドラム式への興味。と、乾燥機能への興味のなさだ。新しいタイプの洗濯機であるドラム式への興味は当然理解できるのだが、乾燥機能に対しての無関心さが意外と根強いことに驚く。というのも私自身が、2006年に始めてドラム式洗濯乾燥機を導入してからというものの、毎回、乾燥機能を使っている。

 しかし、結論だけを言ってしまうと、高価なななめドラム式洗濯乾燥機を買うのであれば、乾燥を使わなければ元が取れない。なぜなら、第1回で述べたように、技術競争のリソース、つまりコストは乾燥時の省エネ性能につぎ込まれているからだ。積極的に乾燥を使うのでなければ、ドラム式を買う意義は薄れる。

 という話をすると、ほとんどの人が「じゃあ縦型でいいかな……」と“青菜に塩”状態になってしまう。だが待って欲しい。

 私が経験する限りにおいて、“乾燥はいらない”派の主な理由は、大きく3つに分かれる。圧倒的に多いのが、(1)電気代の心配。そして(2)衣類の痛み、シワといった乾燥の仕上がり、そして意外と根強いのが、(3)「機械はイヤだ。お日様に干したい」という心情的な抵抗である。(3)を説得するのはさすがに大変なので、(1)と(2)に絞って、最新のななめドラムの実力を検証したい。


汚れ具合と量によって微妙に変わる消費電力

 4回に渡って、衣類の汚れ具合と量を変えながら、洗濯~乾燥をテストした。実測の消費電力は以下の通りだ。

【洗濯~乾燥時の実消費電力と電気代換算】
-洗濯・乾燥した容量洗濯物の内容消費電力量電気代換算
スペック値6kg-860Wh18.92円
実測値6kg下着、靴下、シャツ、タオルなど。
泥汚れや食べこぼしなどはない
1,060Wh23.32円
4kg920Wh20.24円
6kgしょうゆ、ソース、ケチャップを
小さじ一杯分こぼしたタオルを3枚加えた
1,280Wh28.16円
4kg970Wh21.34円

 まずわかったのは、スペック値である860Whという数字は、かなり条件が良くなければ出ないであろうということ。こうしたスペック値は、決められた一定条件下で測定されるので、その数値が実測で出ることはまれ。特に驚くことではない。

 それより印象深いのは、汚れ具合と量を見ながら運転を制御する、「エコナビ」がしっかりと機能しているのがデータでも読み取れることだ。容量も汚れも少ない好条件下では、1つの指標となる1,000Whを切っており、さすがといったところだ。かなり汚れたタオルを3枚ずつ投入した悪条件では、4kg時で1割、6kg時で2割、消費電力が上がっていた。逆に言えば、汚れがなかったときはその分を削減していることになる。

6kg、目立つ汚れのない衣類を洗濯~乾燥したら、1.06kWh(=1,060Wh)だった乾燥中の消費電力は110W前後を推移していた。これが容量によって2~3時間強続く
 私個人の環境で言えば、今回テストで使用したような、ひどく汚れた衣類を洗う機会はめったにない。普通に使っているときの電気代の目安になるのは、目立つ汚れがない方のサンプルである。量はまちまちなので、1回につき1,000Wh(=約22円)、週2回のペースで洗濯~乾燥をしているので、月8回、多めに見積もって10回としても、電気代として増えるのは1回あたり22円×10回=220円である。仮に家族の人数が多く、毎日使用したとしても、22円×30回=660円と、1,000円に満たない額である。

 これが高いのか安いのか、判断は読者の皆さんにおまかせするが、少なくとも言えるのは、この機種を買っておいて乾燥を使わないのは、高い初期投資をドブに捨てるに等しい行為だということだ。

 実は、毎日乾燥を使っても、縦型洗濯乾燥機との価格差を埋めるのは難しいのが現実だ。たとえば同じパナソニックで縦型洗濯乾燥機の「NA-FR80S2」と比較すると、消費電力量はスペック値で2,190Whと倍以上。だが販売価格も102,600円(16%ポイント還元、ヨドバシ.com 1/28現在)は半額以下である。10万円の価格差を電気代で埋めるには、毎日乾燥機能を使い続けても単純計算で9年以上かかることになる。

 つまり、なにが言いたいかというと、元を取るには乾燥機能を使うことが大前提になる、ということだ。それプラス、ななめドラムの節水効果や、仕上がりの良さといった付加価値が加わって、はじめて投資金額相応のリターンを得られることになるわけだ。

 ところで、実験中、消費電力について驚いた出来事があった。“元を取る”ためにも必ず必要な知識になるので、お伝えしておきたい。

 この製品に限らず、乾燥機付きの洗濯機には、乾燥時に生じたホコリを集める「乾燥フィルター」が存在する。この製品でも本体の天板のところに取り出せるようになっているのだが、乾燥ごと毎回掃除するよう、指示がある。これを一度、怠り、掃除をしないまま、6kgの乾燥をしたところ、消費電力量が1,800Whを超えた。フィルターが詰まり、空気の流れが悪くなったことにより、乾燥の効率が落ちたのだ。

 掃除自体は決して難しい作業ではなく、フィルターを取り出してロックを外し、フェルト状に溜まった埃を捨てるだけ。だが、毎回、となると忘れてしまうことも多い。せっかくの省エネ性能を活かしきれないのでは元も子もない。乾燥する前には必ず、乾燥フィルターが掃除されているかどうかを確認するクセをつけるようにしたい。

 一方で、メーカー側も、毎回掃除をユーザー側に課すのではなく、エアコンのように自動で掃除する仕組みを設けるなど、対策も必要なのではないかと思う。

 

天板にある乾燥フィルターのカートリッジ。「乾燥のたびにお掃除してください」と書かれているカートリッジを取り外すと、フィルターにホコリが詰まっていたフェルトのように布状に固まっている。これが詰まっていたら、当然、効率も悪くなるだろう

驚くほどシワが減った

 次に、乾燥機能への不安の原因となっている、仕上がりについて見てみよう。まず、機能性下着として知名度の高い、(a)ユニクロのヒートテックシャツ(綿48%・ポリエステル44%・ポリウレタン8%)、(b)厚手の生地のタートルネックシャツ(綿100%)、(c)薄手の生地のTシャツ(綿100%)、(d)バスタオル(綿100%)を洗濯~乾燥してみた。いずれも6kg、めいっぱい詰めての運転である。結果は以下の通りだ。

a)ユニクロのヒートテックシャツ(綿48%・ポリエステル44%・ポリウレタン8%)。化繊混紡なのでシワがない。アップにしても、よれている部分はない。化繊混紡は機械乾燥と相性がよい
(b)厚手の生地のタートルネックシャツ(綿100%)。綿100%ということで、たくさんシワができることを予想したが、驚くほど少なかった。アップにすると多少、ヨレが確認できるが、そのまま着ていけるレベルだ
(c)薄手の生地のTシャツ(綿100%)。同じ綿100%でも生地が薄い分、さすがにシワが目立つ。アイロンが欲しい
(d)バスタオル(綿100%)。シワはそれほどないが、アップで見るとパイルが寝ている。柔軟剤を加えたい

 (a)の化繊混紡のヒートテックにシワが寄らないのは予想通り。綿100%で、機械乾燥にとって厳しい条件となる、(b)、(c)、(d)に思った以上にシワが寄らなかったことには驚いた。私が以前使用していた2006年モデルのNA-VR1100より明らかにシワが少ない。特にメーカー側で「シワが減った」という機能は謳っておらず、正確な理由は断定できないが、乾燥運転の様子を見ていると、一般的なドラム式洗濯乾燥機よりも、ゆるやかな回転で乾燥させているのに気づいた。ゆるやかな回転により、衣類同士の絡みが少なくなったことがシワの低減につながったのではないかと考えている。

乾燥時の様子

 さすがに、(c)の薄手のTシャツはシワが目立った。私は比較的ズボラな方なのでそのまま着て出てしまうが、これが薄手のワイシャツだったら、アイロンが必要になるだろう。このあたりは、まだ乾燥運転の限界を感じさせるところではある。

 (d)のバスタオルも、シワは少ない。だが、タオルはドラム洗濯機が苦手とする分野で、叩き洗いの際にパイル(繊維で作られた輪っか)が寝てしまい、ふんわり感が出ない。たしかにマクロで撮影するとパイルが寝ている。何回かに一度は、通常の洗濯洗剤に加え、柔軟剤を加える必要があるだろう。

 この通り、(c)や(d)は決して完璧な仕上がりではないが、この機種の力不足によるものではない。現時点におけるこの製品ジャンルが抱える、限界というべきものだ。薄手のシャツは洗濯後に一度取り出して手干しか、シワを伸ばすだけで仕上がりが違うし、タオルに関しては前述の通り、柔軟剤を使えばよい。一手間かければ完璧に近い仕上がりにはなる。

 個人的には、こうした細かいデメリットよりも、干す手間が省けるメリットのほうがはるかに上回ると思っているし、実際、ななめドラムを導入してから、手干しすることはほぼない。また、同じくドラム式洗濯乾燥機を購入した友人たちも、皆、似たようなことを言う。それくらい、洗濯干しという作業がなくなる便利さは大きい。

 この乾燥機能、「使う前」と「使った後」の評価が、大きく分かれているのが現状だ。電気代と仕上がり、この2点に絞って乾燥機能を見てきたが、私はもはや手放せない。共働きや子育て中の家庭にこそ、ぜひ導入して欲しいと思っている。

ナノイーで靴やコートを手軽に脱臭


ドアには「ナノイー」のマークが描かれている
 ところでこのNA-VR5600、下位機種であるNA-VR3600との違いは「ナノイー」イオンの放出機能の有無となっている。実売ベースでは2~3万円ほどの差があるが、どの程度のものなのか。

 ナノイーイオンは、パナソニックの空気清浄機やエアコン、美容家電など広く搭載されている同社の独自技術で、ウイルスやアレル物質、ニオイ、カビを抑制する効果があるとされている。

 NA-VR5600では、このナノイーイオンを庫内で発生させることで、水を使わずに、入れたものを除菌・消臭できる機能がウリとなっている。

 このナノイー運転には、4つのモードが用意されている。ドラムを回転させずにナノイーを吹きかける「ドラム静止コース」と、ドラムを回転させつつナノイーを吹きかける「ドラム回転コース」、そして洗濯物にあらかじめナノイーを吹き付けて汚れを落としやすくする「プレ洗浄コース」、最後に洗濯槽の黒カビを抑えるために庫内に循環させる「ナノイー槽クリーンコース」だ。

 「ドラム静止コース」は、靴やカバン、背広など型くずれを避けたいものに使用する。私は靴にもっぱら使用していて、およそ35~40分ほどで運転が完了する。水洗いしたときのように、「ニオイがなくなる」というほどではないが、消臭スプレーを使ったときのような、「ニオイがやわらぐ」感じだ。カタログに書かれているとおり、「臭気ワンランクダウン」といった表現がしっくりくる。電気代も1回あたり約0.6円と安価で、気軽に使える。

靴を入れて……ドラム静止モードで運転

 一方、「ドラム回転コース」は、主に衣類に使うモードだ。私の場合、しっかりとしたウール素材のコートには、こちらのモードを使っている。外出した際についた焼肉やタバコのニオイは、かなり低減される。だが、汗のニオイは「染みついている」せいか、「たしかにニオイが薄れたかな」程度の効果がなかった。やはり、「消臭スプレー相当」といったところだろう。
 
ウールのコートを入れたドラム回転モードを選択。静止よりも効果は高いと思われる

 この2つのモード、思ったよりも使用頻度が高い。水も熱も使わないため、とりあえず素材を気にせずに放り込めるのが利点。今では靴、コートに限らず、カバン、枕、自転車用のヘルメット、アクセサリーなど、洗えないがニオイが気になるグッズを片っ端から入れて試している。一般的な洗濯機にはない機能なので、使う側が意識して利用シーンを見いだす必要はあるが、日常的に使える機能だと感じた。

 なお、第2回でお伝えしたとおり、普通の洗濯モードで充分な洗浄力があると感じているので、「プレ洗浄コース」はほぼ使わない。また、毎回、乾燥機能を使うため、黒カビの心配もなく、「ナノイー槽クリーンコース」も使う機会がなさそうだ。ここでは割愛させていただく。

まとめ~スペックを超えた高い完成度に満足

 以上、NA-VR5600について3回に渡ってお伝えしてきたが、私の印象を一言で言うと、「完成度が高い」ということになる。2006年モデルのNA-VR1100と比べて、洗浄能力、省エネ能力、乾燥の仕上がりといった基本性能が明らかに向上している。

 また、細かいチューニングの成果だろうか、「おまかせ」運転でも、乾きが悪いとか不必要に乾燥しすぎ、といった不具合を感じることはなく、スペックだけではわからない安心感がある。まだまだ発展途上のジャンルであることに変わりはないが、代を重ねた成熟が感じられる。もはや、「まだ出始めのドラム式だから」といった心配は不要だ。さらに言えば、「縦型に能力で劣る面は見あたらない」といってもいいだろう。

 「でも高い」と思われるならば、最後に解説したナノイーの機能を省いた、NA-V3600を狙うという手もアリだ。洗う、乾かすといった基本性能にまったく差はない。

 ドラム式洗濯機ならまずこれ、と薦めたい一台だ。



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2010年1月29日 00:00