エネループ10周年特別企画
第3回:海外モデルの本体に、いまでも「eneloop」ロゴが描かれているのはなぜか?
(2015/11/18 07:00)
エネループは、日本で高い認知度を誇るが、その一方で、海外でもビジネスを伸張させている。現在、全世界約80カ国で、エネループが販売されており、パナソニックの二次電池事業における海外比率は約65%。とくに、新興国向けの充電池展開では、エネループが新規市場を開拓する役割を担っている。
そして、日本では電池本体に「Panasonic」のロゴが表記されているのとは異なり、海外では、三洋電機時代と同じ「eneloop」のロゴが本体に表記されている。海外モデルで、本体に「eneloop」ロゴが表示されているのはなぜか?
日本のエネループが「Panasonic」のロゴになったワケ
エネループの本体部に、「Panasonic」のロゴが表示されるようになったのは、現行モデルとなる2013年に発売した第4世代エネループからだった。第4世代のエネループは、正極の材料を改良することで、繰り返し使用回数を約2,100回に増加。第3世代の約1,800回に比べて2割増、第1世代に比べると倍以上となっている。
同じタイミングで発売された「エネループ ライト」は、繰り返し回数が従来の約2,000回から約5,000回へと2.5倍に増えた。さらに単三形で2,450mAhの高容量を実現したハイエンドモデルの「エネループ プロ」では約500回の繰り返し使用を可能に。そして、これらの製品も「Panasonic」ロゴへと変更された。
このとき、日本でeneloopロゴから、Panasonicロゴへと変更されたのには、電池全体のブランドとして、パナソニックが高い認知度を誇っていたという理由がある。
パナソニックのアルカリ乾電池「エボルタ(EVOLTA)」が登場したのは、2008年だが、パナソニックが電池事業を開始したのは、1931年のこと。今年で84年の歴史を持つ。当時は社名が「松下」であったり、「ナショナル」のブランドであったりしたが、電池を担当する事業部門の所在地が、「松下町」であるように、パナソニックにとっても、歴史的観点からみて、電池事業は重要な事業。国内ではパナソニックのブランドを前面に打ち出すのは、ある種当然のことだったといえるだろう。
充電池のブランドとしてのeneloop
海外市場向けに販売するエネループが、第4世代へと進化したのは、日本から約1年遅れの2014年4月のことだった。それまでは、第3世代の製品が流通していたことから、日本ではPanasonicロゴに変更されても、海外で販売される製品がeneloopロゴのままでも違和感がなかった。そして、当然のことながら、第4世代になれば、日本と同じく、本体部分に大きくPanasonicロゴを使った製品が登場すると見られていた。
だが、海外市場では、第4世代に切り替わっても、第3世代までのデザインをそのまま継承。本体部にeneloopロゴを大きく表示した形で販売が開始されたのだ。
海外で、eneloopロゴが残った理由はなんだろうか。これは、国内でPanasonicロゴが電池全体のブランドとしての認知度が高いように、海外では充電池のブランドとして、eneloopが広く浸透していたことがあげられる。
「海外では、eneloopブランドに対する認知度が高い。これまで、エネループを販売をしていなかった地域においても、ネットを通じてエネループを購入するユーザーがおり、口コミでエネループの良さが広がるといった動きも出ていた。第4世代の製品に切り替わるときに、海外販売会社で議論をした結果、エネループのブランドイメージの高さを生かして、そのままeneloopの文字を本体に使用するのが最適であろうという結論に至った」という。
同社のユーザー満足度調査によると、ドイツ、中国、オーストラリア、タイ、インドネシア、ブラジルで90%以上の満足度を得ているという。
とくにドイツでは、96%の人が充電池の存在を認識、67%のユーザーが使用しているという状況。そのなかで、19%の人がエネループを認知しており、9%が実際に使用している。そして、91%のユーザーが満足しており、次にエネループを購入したいというユーザーは47%に達している。
とくに、エネループに対して評価が高いのが、自己放電が少ない点。他の充電池とは異なる特徴が受けている。10年経過しても電池容量の70%が残っていることは、エネループならではの差別点となっている。
パナソニックには、海外展開を行なう際に、その市場において、もともと強い商品があれば、それを生かして売り分けていくという姿勢がある。先に触れたように、海外で実績があり、しかも、これまで販売を行なっていない国においても、エネループが、ネットを通じて認知度が高いということを考えれば、このブランドを前面に打ち出したほうが、今後、新たな国へと展開していく上でもプラス効果がある。そうした判断が働いたというわけだ。
海外の販売会社の判断によって、eneloopロゴが維持されていくことになったのは、日本の判断とは大きく異なるものだといえるだろう。その結果、日本で販売されるエネループだけがPanasonicロゴを採用しているのに対して、海外で流通する製品はすべてeneloopロゴのままという状況になったのだ。
eneloopロゴがもたらした海外展開
海外向け製品に、eneloopロゴを残した成果はすでに表れている。
2006年から海外展開を開始したエネループは、第4世代になる以前は、全世界60カ国で販売されていたのだが、第4世代へと切り替わった2014年度および2015年度上期までの1年半の間に、メキシコやブラジルをはじめとする中南米、さらにはサウジアラビアをはじめとする中近東、アジアなど、約20カ国で新たに販売を開始。現在、全世界80カ国でエネループを販売している。このなかには、ネット販売によって、すでにeneloopロゴが浸透していた地域も含まれている。
これらの新規販売ルート開拓においては、当然のことながら、パナソニックが持つ幅広い販路を活用した点も見逃せないだろう。それによって、三洋電機時代には、エネループが展開してこなかった国にまで進出することができている。
それぞれの市場に向けた独自の展開も活発だ。
インドでは、デジカメ利用者が多いことに着目。写真家とコラボレーションして、写真を投稿できるサイトを用意し、カメラのフラッシュにエネループを活用することを訴求。
タイでは、新たにペット素材のパッケージを用意して、コンビニエンスストアなどの小型店舗でも展示しやすいようにした。中国やシンガポールでも同様にペット素材を利用したパッケージを採用して、エネループ特有の世界を演出している。
また、エネループが好調なのは、新興国をはじめとする新規市場だけではない。欧州市場におけるエネループの販売実績の4割強を持つドイツでは、ここにきて販路拡大に注力。主要量販店の半数以上の店舗で展示販売を行ない、多くのユーザーが購入しやすい環境を整えている。
実際、ユーザーの48%が一年以内に初めてエネループを購入したという。そして、84%の人がエネループに対して前向きな評価をしたという。
そのほかの欧州でも販売は活発だ。英国やイタリア、スペイン、ポーランドなどのほか、環境意識の高い北欧でもエネループに対する注目度は高く、オランダをはじめとする一部の国は、今年から新たに市場導入を図っている。
パナソニックでは、欧州市場向けには、エネループに限定した独自のディストリビュータミーティングを初めて実施。さらに、ベルギーでは、写真関連イベントにエネループブースを出展したり、同社のデジタルカメラLumixとの連動プロモーションなどを実施するなど、欧州全域で、エネループの認知度向上に努めていることも功を奏したといえる。ウェブサイトを通じた訴求にも積極的だ。そして、エネループが発売10周年を迎えた11月14日には、ベルリンでだけ記念イベントを開催した。
また、米国ではコストコが、同店向けの専用パッケージを用意。これを全米の店舗で販売しているという。そのほかにも、日本では発売されていない限定モデル「eneloop tropical colours」を欧州、オーストラリア、香港、タイ、シンガポールで発売。今年に入ってからは、オーストラリアで「eneloop monochrome」を、欧州では「eneloop tones Organic」を、それぞれ限定モデルとして発売してみせた。
さらに、ドイツでは、2008年にiFデザイン賞を受賞したほか、米国やオーストラリアでも、デザインに関する高い評価を得ている。先進国におけるデザインに対する評価はおおむね高いと言える。
海外での市場を拡大していくエネループのこれから
現在、パナソニックでは、エネループだけの出荷数は公表しておらず、パナソニックが以前から販売していたニッケル水素電池「充電式エボルタ」と、エネループをあわせた二次電池としての数字しか公表していない。これによると、2014年度には5,200万個だった同社二次電池の出荷台数を、2015年度計画では、5,800万個へと2桁成長させる考えを示している。
同社では、この内訳にはついては公表していないが、エネループによる海外新市場の開拓が、成長に貢献していることは明らかだといえよう。実際に、充電池の成長市場は海外であり、それを牽引しているのがエネループだからだ。
日本におけるパナソニックの充電池のシェアは、2つの製品をあわせて90%以上。大きな成長が見込めない市場であるとともに、シェアの観点からもすでに飽和状態であり、2桁成長の実現は海外に委ねることになる。
同社では、二次電池における海外販売比率を、2014年度の65%から、2015年度には70%弱へと拡大させる計画であり、その後も海外比率は高まっていくことになる。2014年度からは、日本国内での生産に加えて、中国・無錫の自社工場でも、エネループの生産を開始。新たな市場に向けても安定的に供給できる体制を整えている。
同社では、2018年度には、同社の二次電池全体で年間7,000万個の出荷を目指しており、現在、14%の世界シェアを20%にまで高める考えだ。これにより、充電池市場において、世界トップシェアを奪取するという。海外での新規市場開拓において、エネループは主軸製品に据えられているのは確かだ。そして、今後、海外売上比率はますます高まっていくことになるだろう。
となれば、日本の構成比はますます低くなる。2015年度の見込みでも、日本の構成比は3割強となる。つまり、本体部にPanasonicのロゴを入れているエネループは全出荷量の3分の1以下となり、日本のユーザーはそれを利用していることになる。だが、日本におけるエネループの認知度は約70%であり、パナソニックの充電池使用者は約50%にのぼる。このベースとなっているのは、エネループであるのは明らかだ。
筆者の個人的な意見ではあるが、乾電池はエボルタ(EVOLTA)、充電池はエネループ(eneloop)というようにブランドと製品戦略を切り分ければ、かなりすっきりするように感じる。また、日本で販売しているエネループも、本体ロゴマークを海外仕様と同様に、eneloopロゴに戻してはどうだろうか。日本でも、eneloopロゴを表示した製品の復活を待ち望んでいるユーザーは多いのだから。