藤本健のソーラーリポート
今、ソーラー事業に参入しないのは損!
7月1日から始まる再生エネルギー買取制度を読み解く

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


7月1日の新再生エネ法のスタートに合わせ、さまざまな企業が太陽光発電ビジネスにチャレンジしている。写真は京セラが2012年に着工する鹿児島県鹿児島市のメガソーラー発電所

 7月1日、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」がスタートする。これに伴い、ソフトバンクが京都などでメガソーラー発電所を始動させるほか、さまざまな企業が太陽光発電ビジネスを始めることを表明しており、まさに太陽光発電ラッシュという状況だ。

 今回の制度では、太陽電池で発電した電力を一律42円/kWh(消費税込み)で電力会社が買い取るということになっている。一方、これまで国内で主流であった住宅用の太陽光発電における買い取り価格も42円/kWhで据え置かれることが決まった。

 同じ42円なので混同しがちではあるが、この2つはかなり違うもので、企業・産業向けのほうが圧倒的に有利な制度になっているのも事実だ。また、太陽光発電を設置していない人、またあまり興味のない人にとっても今回の制度は大きな影響を及ぼす。そう、このことによって電気代が上がることになるのだ。

 いろいろなことが動き出して、なかなか分かりづらい状況になっているので、改めて7月1日からの現状について整理してみたいと思う。

一般も事業者も同じ42円、でも「全量買取」と「余剰電力買取」で大きな違いが

 7月1日からスタートする再生可能エネルギーの固定価格買取制度について、経済産業省の資源エネルギー庁のWebページを見ると、その価格が記載されている。これを見ると分かるとおり、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスのそれぞれによって調達価格、発電する側から見た際の売電価格には違いがある。ここでは太陽光が一番優遇されていて、42円と最も高く設定されているのだ。

7月1日からスタートする、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の価格一覧。太陽光発電のほか、風力・水力なども対象となっているが、価格面では太陽光が最も優遇されている

 さらに細かく見ると、10kW以上と10kW未満に分かれているが、一般住宅2、3軒分といった程度の小さなシステムの場合は、この金額で買い取ってもらえる期間が10年。メガソーラーを含め、ある程度以上の規模なら20年となっているのだ。ちなみに10kW未満のダブル発電というのは、燃料電池発電などと組み合わせた場合の価格を意味している。

 また、ここには記載されていないが、売電価格は今後毎年見直され、徐々に下がっていくことになる。そのため、早く導入したほうが有利という制度にもなっている。

 こう見ると、「一般の住宅は10kW未満だから、42円/kWhの売電価格で10年間固定ということなのか、メガソーラーとは期間が違うだけなんだね」と思ってしまう人も多いと思うが、実はここで示されている数値に、住宅用のものは含まれていない。ここにあるのは、工場や事業所などが売電する場合の規定であり、住宅用は除外されているのだ。

 では、住宅用はどうなっているのか? 実はこれも言葉で表すと「42円/kWhの売電価格で10年間固定」であり、先ほどのものと同じ。しかし、その前提になる仕組みがまったく異なるのだ。

 今回7月1日より適用されるメガソーラーや工場、事業所などの売電は、「全量買取」という仕組みとなっている。つまり、発電した電力をすべて電力会社が買い取ってくれるのだ。それに対し、住宅用は「余剰電力買取」という仕組みであり、発電した電力はまず家庭で消費し、それでも余った場合は電力会社が買い取ってくれるという形になっている。では、どちらが得なのか? それは自明のことであり、企業の売電のほうが圧倒的に有利な制度になっているのだ。

同じ「42円」という買取価格だが、事業者は「全量買取」ができる。一方の住宅は、あまった電力だけを売る「余剰電力買取」となる

 もちろん、今回の法律改正に合わせて、住宅用も全量買取にすべきではないか……という議論はいろいろあったようだ。しかし、余剰電力買取から全量買取に変更するには、各家ごとに工事が必要になり、すでに住宅用の太陽光システムが100万戸も設置されていることから考えると、現実的ではなかった。また余剰電力買取の場合、節電すれば節電するほど売電量が増えて収入が増えることから、節電意欲が増すというメリットもあることから、従来の余剰電力買取制度が続行することになったわけである。

 この住宅用の余剰電力買取制度は、太陽電池と商用電源との系統連系が可能になった1991年にスタートしたもので、当初は買電価格と売電価格が同一となっていたが、2009年11月から売電価格が48円に引き上げられ、10年間固定で買い取ってもらえる形になったという経緯がある。実際、筆者も2004年に太陽光発電を導入しているので、48円への引き上げによって恩恵が得られたわけだ。[→ 我が家の導入の顛末はこちら]

 その売電価格は年々下がっていくとされ、2011年度に導入した人は42円となった。さらに2012年度は40円程度になると言われていた。しかし、再生可能エネルギー法が7月1日に施行されることになり、その売電価格がすぐに決まらなかったため、住宅用の売電価格の引き下げはペンディング(先送り)となり、とりあえず2012年4月~6月は昨年度からの継続で42円のまま。結果、前述のとおり、全量買取の単価が当初の予想より大幅に高い42円となったため、結局7月1日以降も住宅用は42円のまま据え置かれたのである。


太陽光発電が高く買い取れるのは、一般の電力利用者から徴収しているから

 ところで、ここで少し気になるのは、太陽光発電を高く買い取る原資がどこにあるのか、ということだ。これは各電力会社が支払うのだが、それによって電力会社の負担にならないよう、電力利用者から徴収することが法律で定められている。

 その金額は太陽光発電が普及すればするほど高くなるわけだが、1年ごとに見直されることになっており、初年度は一律1kWhあたり0.22円の賦課金が加算される。これは企業も個人も関係なく一律。先日、東京電力にインタビューした際の値上げ項目とは別に存在するものだ。

 実は、これまでの48円/kWhや42円/kWhといった住宅用太陽光発電にかかる費用も、太陽光発電促進付加金という名目で徴収されていた。これは各電力会社ごとに違っていたが、今回の0.22円の賦課金は全国一律。ただし、7月1日からは従来の太陽光発電促進付加金と0.22円の賦課金が合算されるとめ、電力会社によって微妙な違いが出てくるようだ。

【2012年7月~2013年3月における
電気料金の単価増加額(1kWhあたり)】

電力会社賦課金+太陽光発電促進付加金
北海道0.25円
東北0.26円
東京0.28円
中部0.33円
北陸0.26円
関西0.27円
中国0.33円
四国0.35円
九州0.37円
沖縄0.33円
全国平均0.30円

 例えば、東京電力の場合は0.28円/kWh。東京電力が掲げる一般的な家庭での毎月の電力消費量「290kWh/月」の場合、毎月81.2円の負担となる計算となる。これは、今後メガソーラー発電所などが増えてくれば、徐々に上がってくるので、それなりの覚悟が必要だろう。


いま太陽光発電事業に参入しないのは損――それほど事業者に優遇な制度

 以上が、7月1日以降の太陽光発電の売電に関する制度の全体像だ。この42円という単価をどう考えるかは人によってそれぞれだろう。筆者個人的にも複雑な思いであることは確かだ。

 もともと太陽光発電の設置量で世界No.1であった日本が、ドイツやスペインなどに抜かれたのは、それらの国々で早くから固定価格買取制度を導入したおかげであり、「確実に儲かる」ということから、さまざまな企業がメガソーラー発電所を設置していった結果だ。遅まきながら、今回日本でこうした制度がスタートしたことにより、メガソーラー発電所の設置や工場の屋根などへの太陽電池の設置が加速することは間違いないだろう。

ソフトバンクの孫正義氏(写真右)が太陽光発電事業挑戦を表明するなど、参入企業はさらに増えそうだ。(写真は孫氏が会長を務める自然エネルギー協議会の2011年会合に撮影。左から、静岡県の川勝知事、長野県の阿部知事、神奈川県の黒岩知事)

 実際、ソフトバンクだけでなく、NTTやJR九州、大阪ガスといった企業がメガソーラー発電所事業に乗り出すことを表明しているほか、ヤマダ電機が店舗の屋上にソーラーパネルを設置していく発電事業を行なうことを発表するなど、参入する企業はどんどんと増えていきそうだ。確かに天候によって発電量が変化するといったリスクはあるだろうが、年間を通して考 えれば、それほど極端な変化はないだろう。また出力50kW以上のシステムの場合は、高圧にするための昇圧機を設置する義務が生じるため、投資額は多少増えるだろうが、そもそも42円での全量買取であるため、儲かることは間違いない。土地代を除外して考えれば、5~6年程度で投資額を回収できる計算だから、いまここに参入しないのは損といっても過言ではないはずだ。

 元を取ることすら難しい状態で太陽光発電システムを設置した個人の立場からすると、この単価設定はズルいと思うほど。一部報道によれば、ソフトバンクの孫社長などから「42円以下だったら、メガソーラー事業はやらない」といった趣旨の発言があったため、この価格になったとされているが、これが本当に適正な価格なのだろうか……とも思う。しかも、その固定金額を20年も継続するという大盤振る舞いも、企業に優遇しすぎではないかとも感じてしまう。

 とはいえ、これだけの優遇策を作り出したことで、これから日本で太陽光発電が大きく普及していくことは間違いないはずだ。とりあえず、工場の屋根に設置スペースがあれば、そこに設置するだけで、大きく利益を出すことができるので、工場地帯の風景も少し変わっていくかもしれない。

 一方で、個人が導入する太陽光発電のほうは、従来から大きな変化はないわけだが、企業用に太陽光パネルが大量に生産されることによる値下げ効果は出てくるだろう。またややトリッキーな方法ではあるが、会社が社宅の屋根に設置する場合、それを事業用として申請することで、全量買取を適用させるという技も出てくるかもしれない。社長ひとりの小さな会社であっても、実質的な自宅に設置するといったことだって不可能ではないはずだ。仕組みが複雑なだけに、多少の混乱は起こりそうな気もするが、これからのシステム価格の動きはぜひ注目していきたい。








藤本健

本職はオーディオ関連ライターだが、実は30年来の“ソーラーマニア”。自宅に太陽光発電システムを導入し、毎日太陽で作られた電力で生活している。太陽光発電ネットワークの「PV-NET」の会員で、神奈川地域交流会の世話人も務める。僚誌AV Watchでは「藤本健のDigital Audio Laboratory」を連載。メールマガジン「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」も配信中。ブログは「DTMステーション」、Twitterは「@kenfujimoto」。


2012年6月29日 00:00