藤本健のソーラーリポート・特別編
どうなる、東京電力の値上げ! 担当者に直接話を聞いてきた 前編

~そもそも電気代ってどうやって決めているの?

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


 5月11日に発表された東京電力の料金値上げ案。平均10.28%の値上げとされてはいるものの、先日、震災前と今回の新料金の比較などを行なったところ、夜間料金では60%以上の値上げになるケースもあるなど、一般家庭にとってもダメージは大きい。また、新聞報道などを見ると、「東電の利益の9割が家庭から得ている」、「料金値上げには冬の賞与分が含まれている」……と気になる話も出てきている。

 そこで、東京電力で料金関係を担当しているお客さま本部営業部節電推進プロジェクトグループの副部長、四ツ柳尚子氏(以下、敬称略)に、今回の値上げの背景や気になるポイントについていろいろと伺ってみた。

 内容が専門的で多岐に渡ったこともあり、前編と後編の2回に分けて紹介していこう。前編ではまず、なぜ東電が値上げに踏み切ったのか、電気料金はどうやって決められているのかという基本的なところについて取り上げよう。

このタイミングで値上げする理由

東京電力 お客さま本部営業部節電推進プロジェクトグループ 副部長 四ツ柳尚子氏

――今回の電気料金の値上げ、かなり大幅なものであると認識していますが、なぜこのタイミングでこれだけ大きな値上げが行なわれるのか、改めてその背景について教えてください。

 この度、やむを得ず電気料金の値上げをお願いさせていただくことになりました。誠に申し訳ございません。われわれとしても最大限のコスト削減を行なっているところではありますが、原子力発電所の稼動が止まっている中、どうしても賄いきれない費用が生じてしまっております。それが平成24~26年度においての年間平均で6,763億円という計算です。このうち、ご家庭や商店などの分が2,535億円となっており、これを値上げ幅で見ると2.40円/kWh、値上げ率で見ると10.28%となるのです。

電力を各家庭に届けるための費用(左)と、現行料金での収入(右)。現状の料金ではまかない切れない費用が6,763億円生じている全体のうち、家庭や商店向け(規制部門)だけでみると2,535億円が足りない計算になる。今回の値上げは、この足りない金額を電気量で割ることで計算されており、その結果値上げ率10.28%、値上げ幅2.40円/kWhの値上げが必要になるという

――先日、新聞報道で、「東電の利益の9割が家庭から得ている」といったものがありました。また「対企業での値上げ交渉もなかなか合意が得られていない」といった報道もあるので、企業がしぶっている分のツケがすべて家庭に回り、大幅な値上げになっているのでは……と勘ぐってしまいますが、その点はいかがでしょうか?

 料金については、なかなか分かりにくい点も多く、誤解が生じているケースも多いので、順を追って説明させてください。まず、電力契約には、ご家庭や商店など、50kW未満の規制部門とビルや工場など50kW以上の自由化部門の大きく2つに分類することができます。そのバランス配分などは我々で勝手に配分できるものではなく、省令によってルールが決まっています。

平成24年~26年度の平均費用内訳。燃料費と購入電力量が全体の6割を占める

 当社として計算しているのは、あくまでも規制部門、自由化部門を含めた全体であり、経済産業大臣には24~26年度の3年分の数値を出しています。その全体の数字からルールに従って計算された結果が先ほどの金額なのです。具体的な原価の構成比としては円グラフのようになっております。

――ということは、その省令で家庭から9割の利益を得られるように定めているということなのですか?

 もちろん、そのようなことはなく基本的に利益率は規制部門、自由化部門でほぼ同じになるようになっています。ところが、燃料費や設備費の変動による影響が規制部門と自由化部門では異なり、年によって利益率に違いが出るケースがあるのです。

 たとえば原子力発電所の停止で火力燃料費が大幅に増加すると自由化部門の利益は相対的に大きく圧迫されるという構造になっております。そして、実際平成14年の原子力不祥事によって平成15年4月に原子力発電所を全号機停止させたことがあり、自由化部門の収支が大きく悪化しています。さらに平成19年7月の新潟県中越沖地震により、柏崎刈羽原子力発電所が停止したため、平成19年度、20年度は大幅な赤字となってしまいました。その結果、ここ5年間だけを抜き出してみると規制部門からの収益が9割ということになってしまったのです。

――なるほど、取れるところから取るという考え方で、家庭から利益を得ているというわけではないのですね? とはいえ、これまでも決して安くはなかった電気料金が大幅に引き上げられるというのは、なかなか納得のいかないところです。

 もちろん、我々も最大限の努力をしているつもりで、コスト削減、資産売却によって電気料金の値上げ幅を抑えております。具体的にはコスト削減額として人件費などを含め平成24年~26年平均で2,785億円、さらに資産売却によって7,074億円を捻出しているところです。

東京電力が平成24年~26年度で実施する。これまでに実施したコスト削減。人件費などを含め年平均で2,785億円を削減予定合計で7,074億円の資産を売却する予定

年収556万円は大企業平均で見ると安い

東京電力の年間賃金は平均556万円に設定されており、これは従業員1,000人以上の企業平均に比べると安いという。(2012年度の賃金は556万円を下回っている)

――人件費削減と言っている一方で、新聞報道などでは値上げ金額の中には冬の賞与も含まれていて賃金アップしているというような話もありましたが……

 電力会社の人件費をどのあたりにするのが妥当なのかというのは、いろいろなご意見もあり難しいところです。有識者会議でも議論いただいておりますが、その指標としているのが従業員1,000人以上の企業を対象とした賃金グラフです。

 ここで当社の年間の賃金を556万円と設定しておりますが、この夏は賞与を見送ったため、24年度は556万円を大きく下回っております。その賞与を冬には戻し、24~26年度平均で556万円の水準にさせていただけないか、というのが今回の内容であり、賃金の値上げというわけではありません。

――ところで、今回の料金値上げ。細かな数値も出ていますが、まだ確定事項というわけではないのですよね?

 おっしゃるとおりです。現在、経済産業大臣に申請を行なっている段階で、値上げの実施日や料金については、認可後に改めてお知らせする予定です。一般の方からの声を聞く公聴会も行われたほか、電気事業分科会にある審査専門委員会でこれまでも4回の会議が開かれており、ここでもいろいろと検討していただいております。

――ということは、これらで検討された結果、たとえば冬の賞与は認めない……などと項目によっては認められないケースもあるということですか?

 そうですね。今はどうなるかまったく我々には分からない状況です。仮にいくつかの項目で、修正の要求があった場合には、それを反映した形で許可いただくことになります。

――先日の新聞報道では、実施時期が1カ月遅れの8月になるとありましたが、結局値上げは8月からということなのですか?さらに、その後の報道では8月に1カ月遅らせる形にするという経済産業省と東電の間での「できレース」であるとも出ていましたが……。

 我々も、どこから8月という話が出てきたのかと驚いております。経済産業大臣に申請しているのは、7月1日であり、そこのこと自体は今もまったく変わっておりません。

原油単価などに変化がなければ燃料費調整は生じない

今回の値上げ申請における電源構成費には、原子力の構成比7%と記されてるが、実際には東京電力管内の原子力発電所は全て止まっている状態。東京電力では平成25年4月から順次再稼働させることを仮定し、構成比を7%にしているという

――もう一度、値上げの背景である燃料費などについてお伺いします。今日現在、国内のすべての原発が停止している状態ではありますが、今回の申請における原価の構成比を見ると、原子力が残っていますね。

 はい、柏崎刈羽原子力発電所を平成25年4月から順次再稼動させることを仮定して試算しております。その結果、原子力の構成比率が7%となるわけですが、もちろん安全、安心を確保しつつ、地元のご理解をいただくことが大前提であると考えております。

――もし、その地元の理解が得られず、柏崎刈羽原発が稼動しなかった場合、原子力の構成比率が0%のままだとすると、燃料費も大きく変わってきますよね? その場合は、燃料費調整で賄っていくということになるのですか?

 そこにも誤解があるようです。この燃料費調整というのは、あくまでも燃料そのものの単価が変わった場合の話であって、構成比は関係ありません。仮に構成比が大きく変わったとしても、原油単価などに変化がなければ燃料調整費は生じないのです。とはいえ、当然発電にかかる原価は大きく上がってしまうため、さらに賄いきれない費用が発生してしまいます。

――その燃料費調整についてもう少しお伺いします。現行の料金には燃料費調整という項目があって、6月の場合、1kWhあたり0.55円となっています。この金額は前回の料金改定である平成20年9月からどれだけ燃料費が変化したかを示すものだと理解していますが、今回料金改定するにあたり、いったんゼロにリセットされると考えていいでしょうか?

 ゼロにはならず、7月は0.29円となります。

――それは、変ではないですか?

 今後は、平成24年6月を基準に見ていくことになります。その意味では6月でリセットされると考えていただけたらと思います。各月分の燃料費調整単価は、3カ月ごとの平均燃料価格(実績)にもとづき算定いたします。そのため、新料金になった時点では前月の6月に比較して0.29円高くなる形になるのです。

燃料価格の調整単価は3カ月ごとの平均燃料価格に基づいて計算される。そのため、6月分燃料費調整はそれ以前の1月~3月の平均燃料価格が反映されることになる

 以上、少々専門的な話ばかりになってしまったが、いかがだっただろうか。実際、電気料金を決めるための仕組みは複雑で難しく、筆者も混乱する場面があった。明日の後編では、今回の電気料金に伴い新しく登場した電気料金プラン「ピークシフトプラン」について詳しく聞いてきた。





藤本健 
本職はオーディオ関連ライターだが、実は30年来の“ソーラーマニア”。自宅に太陽光発電システムを導入し、毎日太陽で作られた電力で生活している。太陽光発電ネットワークの「PV-NET」の会員で、神奈川地域交流会の世話人も務める。僚誌AV Watchでは「藤本健のDigital Audio Laboratory」を連載。メールマガジン「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」も配信中。ブログは「DTMステーション」、Twitterは「@kenfujimoto」。

2012年6月14日 00:00