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理想の店舗照明を作り出す、パナソニック「TOLSOシリーズ」の核心技術

 パナソニック エコソリューションズ社は、店舗演出用LED照明器具「TOLSO(トルソー)」シリーズの新製品を、2017年7月1日から、順次販売する。

 従来製品に比べて、グレア(まぶしさ)を抑制しながら、中心光度を高め、商品などの照射物を、より効果的に引き立たせることができるのが特徴。また、同社独自の「カラーオーダーメイド」サービスに対応しており、店舗などの要望に合わせて、任意の色温度(K)と色偏差(Duv)の組み合わせによる光をオーダーできる。

TOLSOシリーズのスポットライト新製品

 コンパクト化も図っており、天井に設置した際などの存在感を弱める工夫も施している。同社では、スポットライトとユニバーサルダウンライトを合わせて、384品番を用意。8月には、無線での制御が可能なPiPit調光シリーズに、ダウンライトとスポットライトを追加する。また、今年秋にはシステムライトやダウン&スポットなどにも新製品を広げ、約1,000品番を取り揃える予定だ。

 TOLSOシリーズは、基本的には、店舗用の照明器具だが、ダクトレールを使用することで、インテリアにこだわる家庭内の用途でも利用することが可能だという。

理想の店舗づくりをサポートする照明

 そもそもTOLSOシリーズは、2015年7月から、パナソニックがラインアップした店舗演出用LED照明器具。商品名のTOLSOは、「Tool for Lighting Solution」の頭文字をとったものであるとともに、イタリア語のトルソー(TORSO)が、ファッション業界で使われる胴体部分だけのマネキンを指しており、同じ音感を維持しながら、「R」を「Lighting」の「L」に置き換え、店舗用照明器具のイメージに重ねて命名したものだという。

 第1号製品では、パナソニック独自の配光制御技術により、ムラのないグラデーションを実現。店舗デザイナーが望む高品質な“あるべき光”を提供することにより、空間づくりへのこだわりが高いアパレル、カーディーラー、飲食店といった専門店やブランドショップなどをターゲットとしている。

 パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部ライティング機器ビジネスユニット店舗商品部商品企画課・谷村一郎課長は、「LED照明は光のピントを合わせると、LEDの形が出てしまい見栄えの悪い光になってしまう傾向がある。それでいながら、店舗に展示している商品などにはしっかりと集光する必要がある。細部までこだわった光こそが、店舗デザイナーが望む高品質な“あるべき光”であり、それと同時に、店舗空間の雰囲気を壊さない、余分な要素を削ぎ落したシンプルなデザインが求められている。TOLSOシリーズは、そうした店舗空間のための商品を目指している」とする。

 TOLSOシリーズの商品カタログが、上質感を持たせたデザインやレイアウトを採用しているのも、そうしたコンセプトを具現化するこだわりのひとつだ。

 さらに、2016年秋に発売した製品においては、新たにカラーオーダーメイドサービスを開始。現在まで、パナソニック唯一のサービスとして、業界内外から大きな注目を集めている。

 カラーオーダーメイドサービスは、色温度(K)と色偏差(Duv)の組み合わせによって、好みの光色を提供することができるもので、店舗側の様々な要望にあわせて光色を細かく選択でき、理想の店舗づくりをサポートする。

 「色偏差(DUV)とは、黒体放射軌跡からのズレを表したもので、DUV+で表される黒体放射軌跡より上側へズレると、光色は緑味をおび、DUV-で示す下側へのズレは、光色が赤紫味をおびる。つまり、同じ3,000Kの色温度でも、色偏差によって、光色が異なる。その違いをマトリックスで示しながら、どんな光色でも、求めているものにカスタマイズして提供していきます」(パナソニック・谷村課長)としている。

 木目調のテーブルなどが多い店舗では色温度を電球色側にしながら、色偏差をマイナスにしたり、白壁を基調とした店舗では逆に色温度を白色に振りながら、色偏差をプラスにしたりといったことが可能だ。

カラーオーダーメイドの事例。畳に光を当てた状態。色温度が同じでも、色偏差の違いで雰囲気が変わる
こちらは白い壁に光を当てた状態。マイナスにすると白くなる

 また、これまで導入していた従来光源やLED照明を、店舗リニューアルや移転時にも利用したいといった場合にも、従来のLED照明と同じ光色にカタマイズして納められる。実際にこれまでに使用していたLEDをもとに、同じ光色を作り上げるといったことも行なっている。

 「照明を『選ぶ』から、『創る』へと変えることができるのがカラーオーダーメイドサービス。空間や商品の材質、色味に適した光色で照射できる」(パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部ライティング機器ビジネスユニット店舗商品部営業推進課・吉塚千晶主務)というパナソニックの新たな提案だ。

カラーオーダーメイドの店舗での採用事例

 具体的な事例も出ている。2017年3月15日に、大阪・天王寺のファッションビル「and」に、移転オープンしたインンテリアショップ「アクタス・あべの店」は、それまでのあべのハルカスの店舗で使っていた183台のLEDスポットライトおよびダウンライトの183台をそのまま活用。さらに、これと同じ光色を実現する「色温度2,800K」、「色偏差Duv-2」に設定したユニバーサルダウンライト192台を、カラーオーダーメイドにより新たに導入した。

大阪・天王寺のインンテリアショップ「アクタス・あべの店」

 アクタスが、これまでの店舗でこだわった選定した光色を維持しながら、新たな空間演出が可能になったという。

 「標準品では難しかった従来店舗と同じ光色を、カラーオーダーメイドサービスにより実現した」(パナソニック・吉塚主務)というケースだ。

 カラーオーダーメイドサービスは、同社ウェブを利用して、シミュレーションしたり、器具サンプルの提供を申し込んだりできる。

 公式サイトで会員登録後、近い業態を選択して、表示される店舗の雰囲気や展示商品などをベースに、光色をシミュレーション。異なる光色を比較しながら、店舗のイメージに合うものを選択できる。

 実際にシミュレーションした光色を、店舗で試したいという場合には器具サンプルが用意される。光色はひとつずつ作り上げて提供するという。

 「パナソニックの研究開発部門には、光を測定する専用機器が設置されている。この装置があることと、全国をカバーする形で拠点を配置していることによって、カラーオーダーメイドサービスが実現できる」(パナソニックの吉塚主務)という。

 なお、カラーオーダーメイドサービスは、7月から発売される新製品でも利用できる。

カラーオーダーメイドにより新たに導入したユニバーサルダウンライト
こちらは従来店舗で使用していたLEDスポットライト

スポット光としてのフォーカス効果を高めた新製品

 TOLSOシリーズの新製品の最大の特徴は、独自のレンズ設計によって、空間づくりの妨げとなるまぶしさを抑えつつ、中心光度を高め、スポット光としてのフォーカス効果を高めている点だ。

 「店舗デザイナーなどからは、照明による演出効果をより高めたい、空間を阻害するまぶしさを抑制したい、機器の存在感を無くしたいという要望が出ている。新製品では、TOLSOシリーズで追求してきた“あるべき光”と“壊さないデザイン”という2つのコンセプトを継承しながらも、こうした要望に応えることで進化を遂げた」(パナソニック・谷村課長)とする。

 まぶしさの低減と中心光度の向上は、設計を一から見直し、シミュレーションと試作を繰り返して開発した新たなレンズによるものだ。

 「これまでのレンズでは、制御しきれなかった光が、パターン外に漏れ、散乱光となり、これがグレアの光となっていた。だが、新たなレンズではパターン外に漏れている光を減らすことで、中央光度を高めることができ、同時に空間づくりの妨げとなるグレアを低減した」(パナソニック・谷村課長)という。

 実際に光を比べみると、従来製品に比べて、中央光度は明らかに高まっているのがわかるとともに、LED照明器具を見上げて見ても、まぶしさが感じられないのがわかった。

 同社によると、同じLED350形で比較した場合、中心光度は、従来製品が11,317cdであるのに対して、新製品では20,180cdと約1.5倍に向上。一方で、器具光束は3,035lmが、2,375lmとなり、グレアとなるパターン外の光を約20%カットしている。そして、1/2ビーム角内光束は、1,090lmから1,038lmとわずかに減少しているが、明るさは同等規模だといっていい。

 同社では、「演出効果の高いメリハリのある店舗照明空間を実現できる」(パナソニック・谷村課長)と自信をみせる。

 新開発のレンズは、「ハイブリッドフレネルレンズ」と呼ばれ、特許出願中の独自性の高いものだ。

新たに開発した「ハイブリッドフレネルレンズ」。表と裏から見たところ

 ハイブリッドフレネルレンズでは、レンズ自体に反射板効果を持つ「面」を設けることで、光を無駄なく制御。光の拡散面を奥に配置することで、より深いグレイカットを実現した。また、照射面の光ムラを解消するためにディンプルやリブをレンズの内側に設けることで、レンズ表面における光の拡散を抑え、グレアを低減したという。

 「ハイブリッドフレネルレンズの発想は約3年前からあったが、モノづくりに落とし込むのに時間がかかった。試作段階では、職人ともいえるエンジニアが、ミクロン単位で削り、中心光度の向上とグレアの低減を両立するレンズを作り上げた」(パナソニック・谷村課長)という。

左が新製品。中心光度を高めていることがわかる

 さらに、シンプルなデザインを維持する一方、灯具のコンパクト化を実現した点も見逃せない。

 基本的には、1クラス下のサイズへダウンサイジングを実現。スポットライトでは、従来製品に比べて、同じ明るさを実現しながらも灯具容量を半減させたモデルもあるという。

 「効率化によりLEDの発熱量を減少でき、アルミダイカスト部分を減らすことでコンパクト化を図ることができた。空間のノイズにならないシンプルさと、空間の意匠を邪魔しないコンパクトなデザインへと進化した」という。

 なお、新製品の価格は、12,800円~39,800円までとなっている。

付加価値の高い照明技術を家庭向けにも応用

 一方、同社では、店舗用LED照明として、TOLSOシリーズのほかに、同社独自の彩光色を活用した食品スーパー向け製品や、肌の色をきれいにみせることができる美光色を採用した製品などを用意。「光の波長を変えることで、見え方を変えるスペクティング技術によって、高価値の店舗向け照明を提供していく」としている。

スーパーの食肉売り場を想定したデモストレーション。彩光色を使用したもの。見え方が大きく違う
高演色によりパンの見え方も違ってくる
肌の色をきれいにみせることができる美光色

 ちなみに、これらの技術やノウハウは、家庭向けLED照明にも応用されている。

 パナソニックでは、店舗演出用照明事業で、2018年度には100億円の売上高を目指す。

大河原 克行