そこが知りたい家電の新技術

シリコンバレー創業のベンチャー企業が作ったロボット掃除機とは

 2015年度のロボット掃除機市場は、ダイソンやルンバが相次いで10万円以上の高級モデルを投入した。それらの製品のキーワードはSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)だ。SLAMという人工知能の一種を搭載することで、室内を正確に認知、より効率的な自動掃除を実現するというものだ。先進的な技術ではあるが、実は、SLAMを搭載したロボット掃除機というのは以前から存在する。それが、今回紹介する「neato robotics(ネイトロボティクス、以下ネイト)」のロボット掃除機だ。

ロボット掃除機「ネイト Botvac」

 ネイトは、ルンバと同じ米国のベンチャー企業で、2014年10月から日本市場に本格参入。SLAMを搭載した高い技術力のほか、独特のD型の本体により部屋の隅まで残さず掃除できる点が特徴。今回は、日本市場参入1年のタイミングでネイト ロボティクス日本法人の代表取締役社長に就任した竹田芳浩氏に、昨年10月に発売した新モデルと、日本市場での勝算について話を伺った。

ベンチャーではあるが、根っこのしっかりした会社

 竹田氏は、ネイトについて「根っこのしっかりした会社」だと話す。

 「正直、日本市場での知名度はまだまだではありますが、米国では2位のシェアを誇り、その数字は20%に達しています。北欧での人気も高く、フィンランドではシェア25%、スウェーデンでのシェアは1位を獲得しています」(竹田氏)

ネイト ロボティクス日本法人 代表取締役社長 竹田芳浩氏

 そもそも、ネイトは、日本でもよく知られるPC周辺機器メーカー Logitech(ロジテック)の創業者であるGiacomo Marini(ジャコモ・マリーニ)氏がアメリカ・シリコンバレーで創業したベンチャー企業。ロジテックは日本ではロジクールとしてよく知られるメーカーで、竹田氏もロジクールを含むPC周辺メーカーに居た時期が長かったという。

 「日本でロジクールというと、まだ認知度が低いかもしれませんが、インターナショナルな企業としてナスダックでも、スイスでも上場しています。ネイトの本社も、アメリカ・シリコンバレーのロジテックインターナショナルの向かい側にあります。今、店頭には様々なロボット掃除機が並んでいますが、中には名前も知らないメーカーが作った製品も多い。そういった製品とネイトの製品が一緒にならないように、まずきちんとしたバックボーンがある会社だということをもっと伝えていかなければならないと考えています」(竹田氏)

 ロジクールは、具体的にはどのような会社なのだろうか。

 「1981年創業のIT企業で、今は全世界で展開しています。ITの業界で30年残っている会社というのはそうそうありません。スタッフには、Appleやヒューレットパッカード出身など、優秀な人物が多くいます。ネイトは、今のCEOが、ロジテックインターナショナルである程度の利益をあげ、もう一旗あげようと作った会社なんです」(竹田氏)

 実際、スタッフの多くはロジテックインターナショナルにいた人間で、製品担当の堀田 正幸氏もロジテックインターナショナル出身だという。

ネイトはロボットメーカー

製品担当の堀田 正幸氏

 ロボット掃除機を語るときの切り口の1つとして、家電メーカーが作ったのか、ロボットメーカーが作ったのかという議論がある。例えば、ルンバを作ったiRobotはロボットメーカーで、シャープやパナソニックは家電メーカーだ。それぞれ立場が異なることで、製品に対するアプローチや哲学が全く異なるが、ネイトはその点、ロボットしか作っていないロボットメーカーだという。

 「ネイトはロボットメーカーです。創業者は資本の投入という形で経営に参加しているが、もともとのメンバーというのは、スタンフォード大学で研究していた学生が中心。スタンフォード大学には起業家支援制度というのがありまして、そこでやっていた学生3名が創業しています。ただ学生たちには技術やアイディアはありますが、経営手腕はない。そこをサポートする形で、ベンチャーキャピタルもやっていた現CEOのGiacomo Marini氏が経営に参加することになりました。

 スタンフォードというのは、Googleの無人カーを初め、SLAMを世に知らしめた大学としてよく知られています。現時点での製品ラインナップはロボット掃除機だけではありますが、そういった意味で、間違いなくロボットメーカーとしてのアプローチで作られた製品だといえることができます」(堀田氏)

 なお、現時点のネイトのラインナップは、日本では3製品、世界では約10製品ほどを展開している。中には、インターネットと接続することでさらに便利に使える「コネクテッド」モデルもあるという。

SLAMを搭載している強み

 ネイトのロボットクリーナーといえば、初代モデルからSLAM技術を搭載しているというのが大きな強み。その後、ダイソンやルンバの製品もSLAMを搭載してきたが、それらの製品と比べてネイトの製品には、どのような優位性があるのだろう。

 「まず、スラムをやる上でなんの技術を使っているかというと、ハードウェアの技術が一番大きく、ユーザーにわかりやすいものだと思います。ルンバとダイソンというのは、カメラを使っています。デジカメと同じような構造で、画像をキャプチャして、そこからドアの角などを見つけて、三角測量で計測して、自分の位置を測定するという仕組みです。

 一方、ネイトのロボット掃除機は、カメラではなくレーザーを用いて、自分の位置を測定しています。本体からレーザーを出し、レーザーの反射から位置を測っています。本体には、1秒間に5回転し、全方向360度を検知するレーザーセンサーを搭載していて、1秒間に約1,800回スキャニングして部屋の形や家具のレイアウトを確認、記憶して、地図を作成しています。本体でレーザーを発光しているので、外的要因にほとんど影響をうけないというところが強みです。一方、ルンバやダイソンというのはカメラを使っているので、暗い環境になってしまうとどうしても動きが弱くなってしまいます」(堀田氏)

本体からレーザーを発光して、反射から位置を測る(写真は初代モデル)

 掃除するスピードや、方法にも違いがあるのだろうか?

 「掃除にかかる時間は、ネイトの製品の方が若干短いかなという印象です。また、掃除するスタイルは大きく違います。ルンバやダイソンの製品というのは、まず部屋の真ん中から掃除をスタートして、最後にはじっこの方をやっていきます。一方、ネイトのロボット掃除機では、まず一番最初に端の方を掃除するんですね。おそらくフィロソフィー的な部分の違いになってくるとは思うのですが、そこは大きな違いだと思います。

 ホコリというのは、部屋の隅、つまり壁際にたまりやすい。だからこそ、弊社の製品では一番初めに壁際をきっちり掃除します。一番ホコリが溜まっているところを最初に掃除するので、ホコリが立ちにくくなるんですね。一方、他社製品では、まず真ん中を掃除して、最後に一番ホコリが溜まっているであろう部屋の隅にアクセスするという方法をとっています」(堀田氏)

竹田社長

 竹田社長は、他社製品と比べた大きな利点として価格メリットも挙げる。

 「もちろん、SLAMを搭載した本体機能も、大きな利点ではありますが、まだまだ一般の人たちには理解できないところもあります。ネイトの製品は、最初からSLAMを搭載して、掃除スタイルも自分たちの哲学がありますが、その違いっていうのは、まずロボット掃除機を使ってみないとわからないところ。日本のマーケットではまだ、そこまで理解されていないというのが現状です。

 その点、わかりやすいメリットとして挙げられるのが、価格ですね。スラムを搭載した他社のロボット掃除機がいずれも13万円以上の高価格帯であるのに対し、弊社の新しいモデルは79,800円ですから約半額ほどで購入できます。機能をわかっていただければ、かなりのお得感があります」(竹田氏)

国内メーカーのロボット掃除機はあくまで「家電」

 一方、日本市場ではシャープやパナソニックなどSLAMを搭載していない国内メーカーのロボット掃除機も健闘している。それらの製品に対してはどのような印象があるのだろう。

 「家電メーカーが作ったロボット掃除機はあくまで家電っぽいですよね。ロボットの能力というよりは、家電品の考えかたから来ているというのが明らかですね。

 例えば、声でコミュニケーション取るというのは、少なくとも海外のロボットメーカーでは搭載していない機能です。ロボットメーカーが作るロボット掃除機というのは、弊社にしても、ルンバにしても、純粋に掃除機能にフォーカスしています。一方、日本の家電メーカーが作った製品の場合、そこにひとひねりした機能、コミュニケーションなど掃除機能以外のアプローチをしているのが、特徴的だなと思います」(堀田氏)

 今、店頭では様々なメーカーの製品が並ぶが、その中でネイトの製品の強みはなんだろう。

 「まずは、掃除機能が最も優れているというところです。吸引力、そして掃除を隅までするためのデザイン、Dシェイプはほかにはないものです」(堀田氏)

Dシェイプで壁際も残さず掃除する

 「私自身、今の仕事に就く前、ロボット掃除機を使っていたのですが、便利なところもある反面、不便なところも多々ありました。例えば、ロボット掃除機本体が壁や家具にアタックするように動くため、傷がつかないか心配でしたし、ダストボックスの小ささ、壁際のホコリが残っているなど……。ネイトの製品を使い始めてからは、それらの不満が解消されました。

 家具にぶつかりはするものの、ソフトタッチで傷がつきにくいほか、ダストボックスの容量も0.7Lと大きいです。また一番はやはり吸引力ですね。現時点で、ロボット掃除機の吸引力を表す基準、数値というものがないのが、寂しいところでもあるのですが、例えばおはじきなど、ある程度重量があるものを撒いても、全部吸い取ることができます」(竹田氏)

毛足の長いカーペットも掃除可能。使い勝手が大幅に向上

 さらに、新モデルでは、使い勝手の面が大幅に向上しているという。

 「ブラシガードの改良によって、長さ4cm程度までカーペットの掃除もできるようになりました。毛足の長いカーペットやマットでも、引きずってしまうことなく(滑り止めマットなどを使っている場合)掃除できます。また、ブラシの改良によって、運転音が静かになり、ゴミのかきだし能力も向上しています」(堀田氏)

 「機能面で、大きなアップデートはないものの、ユーザーからのニーズに応えた使いやすさの向上というのが大きな変化です。ブラシに絡まった毛をカットできる付属品も今回から新たに搭載したもので、メンテナンス性も向上しました」(竹田氏)

本体裏面
ブラシの改良によって運転音が静かになり、ゴミのかきだし能力も向上した
ダストボックスの容量は0.7L
ブラシメンテナンス用の付属品

 本体のデザインに関しても、前モデルから大きな変更があった。従来モデルは白を基調にしたポップな印象のデザインだったが、新モデルではブラックを貴重とする高級感のあるデザインを採用する。

 「最初のモデルは、北欧でデザインして、北欧ではかなり評価が高かったのだが、社内でも意見が分かれていました。高機能で、価格もそれなりにする製品なのに、なんとなくおもちゃっぽい印象になってしまうという意見もあった。全世界共通のモデルで展開していくのは、どのようなデザインがいいのかと検討した結果、今回のカラーを採用しました。デザインを変えたことで、世界的には、売り上げが5~6倍に伸びたという報告も上がってきているので、デザインチェンジは正解でした」(竹田氏)

昨年10月に発売した新モデル
初代モデルは白を基調としたデザインだった

ホテルなど、自宅以外での活用も

 今後の日本市場での展開については、まず「認知度の向上」が急務だとするほか、具体的なターゲットとしては「30~40代の共働き夫婦」を挙げる。

「30~40代の働き盛り、共働き世帯ですね。特に、2LDK以上、複数の部屋がある家に住んでいる人をターゲットとしています。というのも、ネイトの特徴としてドアさえ開けておけば、次々と複数の部屋を掃除できることがあります。メインのリビングの掃除だけでなく、洗面所や廊下も含めて一気に掃除できます」(堀田氏)

 一方、竹田社長は一般家庭だけでなく、ホテルや病院などを含む施設利用も視野に入れているという。

 「すでに世界では、トライアルでやり始めていることです。たとえば価格帯が安いホテルの場合、どの部屋も間取りが同じなので、ロボット掃除機で充分効率的な掃除ができます。日本市場においても、このような取り組みを進められたらと思っています。個人向けの製品でいうと、インターネットと接続した『コネクテッド』モデルの投入も、近い将来考えています。日本以外の地域では、すでに投入しているモデルですが、日本にはさらに進化したモデルを投入したいと考えています」(竹田氏)

阿部 夏子