そこが知りたい家電の新技術
人はほとんどゼロ! 緻密さと正確さを追求するフィリップスのシェーバー工場に潜入
by 阿部 夏子(2016/3/22 07:00)
オランダにあるフィリップスのシェーバー工場へ
フィリップスと聞くと、何を思い浮かべるだろうか。ノンフライヤーやヌードルメーカーなどの調理家電? あるいは最近は、電動洗顔ブラシも人気だ。しかし、オランダ生まれのフィリップスは、元々は電球を作ったところからスタートしている老舗の家電メーカーだ。現在では、調理家電から掃除機、歯ブラシなど、様々な分野を手がけるが、その中でもシェーバーは重要な製品だ。フィリップスが1939年から作り続けているアイコン的な製品であり、世界ナンバーワンのシェアを誇る。
今回は、フィリップスにとって重要な製品であるシェーバーについてもっと深く知るために、オランダにあるシェーバー工場を訪ねた。オランダの首都、アムステルダムから車で2時間ほどの場所にあるドラハデンという場所にある工場だ。
ここでは、高機能タイプのシェーバーを生産するだけでなく、製品開発のオフィスも備えており、デザイナーや、エンジニアも働く。主に製造しており、ここで作っているのは、主に上位機種のシェーバーで日本を含め、世界中に出荷されている。約1,000人のスタッフが働く。
77年もの歴史を誇るフィリップスの回転式シェーバー
フィリップスのシェーバーといえば、回転式の3ヘッドが特徴。日本では往復式のシェーバーも人気だが、フィット感と使用感を追求した形として、同社では1939年から回転式のシェ-バーを展開している。
アゴ下や頬など、複雑な形状にもフィットするように、可動部分が多く設けられた3Dヘッドを採用した最上位モデル「9000シリーズ」のほか、肌への優しさを追求した「7000シリーズ」を昨年発売するなど、ラインナップも豊富に展開する。
フィリップスのシェーバーの機能と歴史については、こちらの記事でじっくり読んで頂くとして、今回は最先端の工場の様子を中心に紹介しよう。
人がほとんどいない! 合理性を追求した最新工場とは
フィリップスのシェーバー工場を取材して、まず感じたのは「人が少ないなぁ」ということ。ほぼ、全自動化されており、人は生産ロボットの微調整を行なうのみだという。日本の家電製品の工場では「人が最終調整する」、「人の手で」というのをウリにしているところも多いので、アプローチがずいぶん違うな。と感じた。
「ここで生産しているのは、シェーバーのラインナップの中でも特に高機能のタイプ。肌に密着する3Dヘッドや、細かい機構を搭載した回転刃を採用しているため、絶対的な正確さや緻密さが求められる。そのために、工程のほぼ全てを全自動化している」(ルーカス・ブレン氏)という。
実際、最上位機種の9000シリーズで搭載している「ダブルVトラック刃」の構造はとても複雑。ヒゲを捉える外刃とヒゲを剃る内刃の両方がV字型になっており、刃の枚数は24枚もある。
ほぼ全自動化された工場の中で、唯一たくさんの人が座っていたのが、最終的な組み立てラインだ。各ラインで生産された部品を集めて、製品を組み立てていく。ただし、この組み立てラインに関しても、今後、全自動化を進める予定があるという。
人との距離が近い工場
人が少なく、ほぼ全自動化された工場と聞くと、人間味がない冷たい印象を持つ人もいるかもしれない。しかし、実際の工場はそうではなく、むしろアットホームな雰囲気で溢れている。例えば80歳を超えた、おじいちゃんが“生き字引”としてまだ現役で、周りからのリスペクトを集めていたり、彼の名前が付いたストリートが工場の中に設けられていたりする。実際、彼に話を聞いたが、昔扱っていたシェーバーの知識は現役の事業部長よりも上回り、メディア対応もできるほどだ。
そんなアットホームな工場の中でも、ユニークな取り組みが、従業員達が自社の製品でヒゲを剃るシェーバールームだ。
「フィリップスのスタッフは、朝、シェービングをしなくてもいいんだ(笑)。ここでできるからね」(ルーカス・ブレン氏)と語る通り、シェーバールームにはひっきりなしに人が訪れ、ヒゲをそっては出て行く。
シェーバールームには、フィリップスが展開している全ての製品が揃うほか、シェービングクリームや、フォームなども完備。使用後は、併設されているパソコンに、使い心地などを入力する。そのほか、同じオフィス内には女性スタッフがヘアドライヤーやヘアアイロンを試すことができる部屋も用意されていた。
これは、テストの一環でもあるという。
「フィリップスは、消費者志向を貫いており、ユーザーの声を何より大事にしている。全ての製品において、一般の消費者を招いたプロダクトテストを実施しているが、工場内のスタッフにも製品を使ってもらうことで、様々な意見を得ている」(ルーカス・ブレン氏)
工場で働いているスタッフにとっても、自分達が毎日作っている製品がどんなものなのか、理解を深めることになり、自社製品への愛着も増すだろう。シンプルながら、合理的で素晴らしいシステムだと感じた。
技術と使い勝手、両方を重要視する独自のアプローチ
これまで国内外、様々な工場を取材してきたが、人の少なさ、全自動化の進化についていえば、今回のフィリップスの工場は群を抜いていた。ロボットが進化していく中で、工場の自動化は確実に進化はしているが、ここまで人が少ないというのは、今回が初めだった。
その一方、ユニークだと感じたのは剃り心地や、使い勝手に関してはフィッティングをとても大事にしているという点。一般ユーザーだけでなく、工場で働くスタッフが、フィッティングを行なっているというのは、かなり珍しい取り組みだ。
それはある意味とても合理的で、例えばシェーバーを使った時の感覚や、仕上がりの差というのは、人が確認しなければわからないところであり、機械やロボットでは評価できない。一方、快適なシェービングを実現するための複雑な機構をより正確に作ることができるのは、人よりも機械であり、ロボットだ。
フィリップスのシェーバーは、3ヘッドの回転式という独自のアプローチが特徴的だが、技術と使い勝手のバランスを重要視しているというのが、工場取材からもよく分かった。