● エアコンのパワーを自在に制御
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インバーターエアコンは、圧縮機の回転数をコントロールすることで、運転の強弱をコントロールする機構。ほとんどのエアコンに搭載されている(写真は三菱電機「霧ヶ峰」)
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インバーターエアコンとは、エアコンの心臓部である「圧縮器(コンプレッサー)」という部分の制御に「インバーター」と呼ばれる仕組みを採用しているエアコンのことを指します。
エアコンの場合、このインバーターで圧縮機の回転数を操ります。暑いときにはハイパワーで運転して部屋を素早く冷やし、その後は低パワーで運転して室温を涼しいままに保つといったように、温度調節を可能にするエアコンが「インバーターエアコン」です。現在販売されているエアコンのうち、ほとんどがインバーターエアコンと考えて差し支えありません。
圧縮機とは、エアコンの心臓部ともいえるヒートポンプを動かすためのパーツです(ヒートポンプについては前回をご参照ください)。この圧縮機は内部のモーターによって動き、モーターの回転数が多いほど冷暖房能力が強くなります。つまり、エアコンの能力はこの圧縮器に大きく影響されるということになります。
実はインバータエアコンが登場する以前は、この圧縮器のモーターは、単純にON/OFFの制御しかできませんでした。ONではモーターがフルパワーで回転し、一方OFFではモーターが完全に止まります。つまり、インバーターがないエアコンでは、圧縮器は常にフルパワー運転、あるいは停止状態という極端な運転しかできず、室温が設定温度に達した後も、室温の一定に保つということもできませんでした。
そこで、圧縮器の働きを自在に制御するために取り入れられたのがインバーターです。インバーターとは直流電力を交流に変換する装置で、簡単に言えば、周波数を変えてモーターの回転数を変化させる仕組みのことになります。つまり、電源がONの状態でも、運転が細かくコントロールできるようになったというわけです。
圧縮器で利用されているモーターの回転数は、電源周波数(関東では50Hz、関西では60Hz)に比例します。電源の周波数を高めると回転数が速く、周波数を低くすると回転数が遅くなります。インバーターエアコンではこの性質を利用して、電力の周波数を変えて、モーターの回転数をコントロールし、圧縮器の能力を自在に操作します。
これにより、エアコンのスイッチを入れた直後は、圧縮器に周波数の高い電力を供給して強力な冷房・暖房能力を発揮させ、短時間で設定温度に達することができます。また、室内が設定温度に達した後は、圧縮器に周波数の低い電力を供給して低パワーの冷房・暖房運転を行ない、室温を設定温度付近で保てるようになりました。
インバーターエアコンの登場によって、より強い能力と温度設定が可能になり、冷房機能のみのクーラーから暖房機能付きのエアコンへと進化を遂げ、年中使える空調機器として成長したのです。ちなみに、家庭用初のインバーターエアコンは、1982年に東芝から登場した「RAS-225PKHV」となります。
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インバーターは基板のような形をしている(写真左は東芝のエアコン「大清快 BDRシリーズ」で搭載されているインバーター。右は前年度機種のインバーター)
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圧縮機(コンプレッサー)のモーターの回転数をコントロールするのがインバーターの役割(写真はナショナル「CS-X227A」にて使用されている圧縮機「e-スクロール」)
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エアコンのパンフレットを見ると、ほぼすべての機種でインバーターが搭載されているのが分かる(写真はナショナルのエアコンのパンフレット)
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● 現在はより運転の強弱がつけられる「PAM方式」が主流
現在市販されているエアコンのインバーターには、上記のインバーターとは仕様が異なる「PAM方式(Pulse Amplitude Modulation=パルス電圧振幅波形変調)」という方式を採用するものが多数を占めています。このPAM方式によって、従来のインバーターと比べて、より幅広い温度設定ができるようになりました。
従来のインバーターエアコンは、厳密に言えば、交流電力の周波数を変化させ、圧縮器のモーターの回転数をコントロールしていました。それに対しPAM方式は、直流電力の電圧を変化してモーターを調節するという違いがあります。構造的には直流と交流、周波数と電圧を調節するという違いはありますが、最終的にモーターの回転数を制御するという点は変わりません。
しかし、効率とパワーの面で大きな差があります。まず従来のインバーターでは力率(入力電力に対する出力電力の割合)が90%ほどでしたが、PAM方式では99%と、効率の面で大きな差があります。また、従来のインバーターでは電圧は240Vという一定条件でのみ稼働していましたが、PAM方式は電圧そのものをコントロールするため、例えば室内を急速に暖めたい場合は高圧で、省エネ運転の場合はより低圧に、といったような調節ができます。PAM方式は、従来のインバーターよりも強力な冷房・暖房能力と、より優れた省エネ性能を兼ね備えたインバーターというわけです。
PAM方式を採用した初のエアコンは、1997年の日立の「RAS-2510HX」。現在のエアコンではPAM方式を採用するメーカーや機種が非常に多くなっています。
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PAM方式を初めて搭載したエアコンは日立が開発(写真は日立の最新型「白くまくん」Xシリーズ)
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「白くまくん」Xシリーズにて搭載されている「新IQ-PAMエンジン」。室内機・室外機のセンサーが検知した情報をもとに高効率運転を行なう
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【インバーターエアコン】の、ここだけは押さえたいポイント
・圧縮機のモーターをコントロールすることで、エアコンの運転の強弱を操り、室内の温度を調節する機構 ・ハイパワー運転で素早く設定温度に到達させたり、低パワーで室温の変動を抑えた省エネ運転も可能 ・現在は、より幅広い温度設定ができる「PAM方式」のインバータを採用する製品が多い
2008年6月25日 初版
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2008/06/25 00:03
平澤 寿康 1968年、香川県生まれ。1990年代前半にバイト感覚で始めたDOS/V雑誌のレビュー記事執筆を機にフリーのライターとなる。雑誌やWeb媒体を中心に、主にPC関連ハードのレビューや使いこなし、ゲーム関係の取材記事などを執筆。基本的にハード好きなので、家電もハード面から攻めているが、取材のたびに新しい製品が欲しくなるのが悩ましいところ。 |
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