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「スマート家電の未来」これから生まれる製品やサービスは? 海外イベントで見てきた
2023年9月22日 09:05
ドイツ・ベルリンで9月1日から5日まで開催されたエレクトロニクスショウ「IFA 2023」を、筆者は現地で取材してきました。ネットにつながって便利になる最先端のスマート家電や、日本で見ることができないユニークな生活家電にどんなものがあったのか、イベントを振り返りながらレポートしたいと思います。
ヨーロッパ最大の家電ブランドが「Matter」に本格参入
ベルリンで毎年開催されるIFAにはヨーロッパを代表するブランドであるシーメンスにボッシュ、ミーレなどのほか、パナソニック、LGエレクトロニクスなど日本でもなじみ深いブランドが大きなブースを出展します。
シーメンスやボッシュといえば、日本ではあまり家電を手がけているメーカーというイメージがないかもしれません。実は家のネットワークにつながる冷蔵庫や洗濯機など、スマート家電を幅広く展開しています。
シーメンスはボッシュと共同で「Home Connect」というモバイルアプリと、スマートホーム家電、IoTデバイスによるプラットフォームの拡大に2015~2017年頃からいち早く乗り出しました。Amazon Echoによるスマート家電の音声操作をヨーロッパでいち早くとり入れたのも両社です。
そのシーメンスはいま、スマート家電の新しい標準規格として注目される「Matter(マター)」への対応を進めています。MatterはアメリカのConnectivity Standards Alliance(CSA)が策定し、グーグルにアマゾン、アップルなど大手IT企業が標準化に参画しています。Matterが普及することにより、メーカーやブランドの枠を越えた連携で利便性が向上することが期待されています。スマート家電を各社の音声アシスタントでより簡単に使いやすくなることから、スマート家電のメーカーと消費者の双方にメリットがあるといわれています。
今年のIFAではシーメンスによるMatter対応製品のお披露目はまだありませんでしたが、シーメンスのHome Connect部門の最高責任者であるシュテファニー・リップスさんにインタビューしたところ、次のような回答がありました。
「Matterはスマート家電の操作性や互換性の課題をクリアにする、有望な標準規格であると考えています。2024年の前半にシーメンスはMatterに対応するスマート冷蔵庫を発売します」
IFAの会場を歩いているとMatterに対応するスマートプラグやドアセンサーのようなIoTデバイスを数多く見かけました。ブースのスタッフに聞くと、これら製品の多くはドイツの家電量販店などで既に販売もされているそうです。
サムスンは独自のSmartThingsとHCAに注力
CSAにはSmartThingsを買収したサムスンも参画しています。サムスンはMatterに対して“乗り気”なのでしょうか。ブースを取材しました。
スマートホーム関連の展示エリアには、Matterに対応するサムスンのサードパーティのIoTデバイスが並べられています。一方、サムスンブランドのスマート家電にはMatterに対応する計画があるのか、サムスンの担当者に聞きました。
「サムスンのスマート家電をMatterに対応させる計画は今のところまだありません。というのも、まずはHCA(Home Connectivity Alliance/サムスンが2022年に起ち上げたスマート家電の標準規格)を発展させてエコシステムを拡大する戦略が優先だからです。現在サムスンのスマート家電はSmartThingsのプラットフォームを中心に、様々なカテゴリに拡大しています。加えて、AIによりユーザーの生活習慣を学習して好みのレシピ、役立つレシピを提案するSamsung Foodアプリとの連携が今年から始まります。SmartTingsを強化して、HCAのエコシステムを充実させることで人々の豊かな暮らしの実現に貢献したいと考えています」
電気代高騰の波。サステナブルで「電気代を節約できる家電」が人気
ドイツの調査会社であるGfKが集めたデータによると、世界中で新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが拡大をはじめた頃から、いわゆる「巣ごもり生活」を快適にする生活家電や、リモートワークに欠かせないITオフィス機器がヨーロッパでもよく売れたそうです。
今年のIFAではエレクトロニクスの「サステナビリティ=持続可能性」が大きなテーマになりました。
ヨーロッパの人々は以前から「エコな暮らし」に強く憧れています。欧州連合(EU)では家電など特定の製品の電力消費効率などを示す評価基準として「エネルギーラベル」を設けて、製品やパッケージに表示することを義務付けています。2021年3月には従来の「A+、A++……」といったラベリングの表記を改めて、「AからGまでの7段階」として簡易化しました。さらにメーカー等がラベルを表示するためクリアにすべき基準を厳格化しています。
中国のハイアールなど、これからヨーロッパ市場への進出に勢いを付けたい企業は、特に注力するスマート家電にエネルギーラベルを表示して自社商品の先進性を強調していました。
ヨーロッパの人々が生活家電のサステナビリティに注目する理由は「電気代の節約」にも、回り回ってつながるからです。
ヨーロッパではコロナ禍と、これに続いて2022年からのロシアによるウクライナ侵攻の影響が毎日の暮らしに影響を及ぼして、電気料金が大きく高騰しています。IFAを主催するIFA Managementのリーフ・リンドナーCEOによると、ヨーロッパの地域による違いはあるものの、「家庭の電気料金は数年前に比べて40~60%前後も高くなっている」といいます。
生活費を切り詰める暮らしが求められる一方で、家電の買い換えサイクルは否が応でもやってきます。どうせならば次に買い換える冷蔵庫や洗濯機などの生活家電は、生活費の節約につながる「サステナブルな機能が欲しい」という消費者の期待が高まっています。
冷蔵庫の機能でフードロスを防止。ドアの色を変えられるユニーク製品も
日本でもカメラ付き冷蔵庫が2022年ごろから注目されていますが、例えばサムスンの冷蔵庫、Bespoke Family Hubシリーズの2023年モデルは、ドアの内側にカメラを搭載しています。冷蔵庫の中にある食材や缶、ビンの調味料や飲み物を撮影。AIによる機械学習をベースに被写体の内容も認識します。
ドアの外側に搭載する有機ELディスプレイには冷蔵庫の中味が表示できるだけでなく、Samsung Foodアプリと連携して、現在の冷蔵庫にあるもので作れるレシピや、ユーザーの好みに合う料理を作るために買い足すべき食材を提案してくれます。効率よく食材を使ったり、買い足すことでフードロスが減らせるという「サステナブルな機能」をサムスンはイチ押ししていました。
LGエレクトロニクスのブースにも面白い製品がありました。「ドアの色」を好みに合わせて変えられるスマート冷蔵庫です。
InstaViewシリーズはLG独自のスマート家電のプラットフォームであるThinQ(シンキュー)に対応しています。Wi-Fi経由でホームネットワークにつないで、モバイルアプリから冷蔵庫のドアの色が指定できます。下側のドア、またはフレンチドアの場合は3つのドアにフルカラーLEDライトが内蔵されていて、ドアごとに別々の色が設定できます。
冷蔵庫の装いをその時々の気分、またはインテリアの模様替えなどの機会に合わせて「長く楽しみながら使う」ことでサステナブルな暮らしを実現しようというLGによるユニークな提案です。
なお、IFAの会場をまわっていると、日本ではあまり見かけない原色の生活家電をよく見かけます。特にプレミアムグレードの製品については、木目調の家具に組み込んで見せる展示スタイルがよくあります。背景には、ヨーロッパにはシステムキッチンや家具に組み込む「ビルトイン家電」が普及していることがあります。デザインも好みに合う家電を長く使い続けるという考え方がヨーロッパの生活に深く浸透しています。
パナソニックのペットケア家電が充実
日本と同様に、ヨーロッパにもスマート家電が普及したことで「インターネットにつながってアプリで操作できる家電」は、それほど珍しいものではなくなりました。
一方、今年のIFA取材で筆者が興味を引かれたスマート家電が2つありました。
1つはパナソニックのペット向けスマート家電です。日本でも外出先からスマホを使って家にいるペットの様子が見られるHDペットカメラ「KX-HDN215」が商品化されていますが、今年のIFAでは2種類のペット向け新製品が、ヨーロッパ向けの家電として発表されました。発売は年末頃の予定です。
ペットフィーダー(給餌器)は専用アプリからスケジュールなどの条件を設定しながらペットの“お食事時”をサポートします。ドライ、エアドライ、フリーズドライ、パフ粒など直径12mmまで様々なタイプのフードを収納/給餌できます。飼料残渣検知や詰まり防止、飼料を乾燥した状態に保つトレイ、二重電源など、家族の一員であるペットに対して日常使いができる安心機能が充実しているので、ヨーロッパでも評判を呼びそうです。
ウォーターファウンテン(給水器)は4段階のろ過システムと水循環機構により、ペットがいつでもきれいな水を飲めるスマートなペット向け家電です。ペットが怖がらないように25dbの静音設計にも配慮した気づかいがパナソニックらしいです。
各製品はパナソニックが中国で先行販売をして、よい反響を得たことからヨーロッパに進出します。パナソニックは中国とヨーロッパの方の「ペットとの暮らし方」が近いのではないかと見立てたそう。日本にもふたつの製品を求める声はありそうです。パナソニックストアプラスの定額制「サブスクサービス」で扱ってみても面白いと思います。
スマート家電と「生成AI」の関係はどうなる?
もう1つ注目したのは、シーメンスがヨーロッパで発売しているスマートスピーカー「Smart Kitchen Dock」です。Android、またはiPadOS/iOSを搭載するスマートデバイスをスタンドにのせて、Bluetoothで接続。Smart Kitchen Dockアプリを画面に表示しながら使います。
本体にはWi-Fiとマイク、Amazon Alexaを内蔵しています。音楽を聴いたり、音声で宅内のスマート家電を操作したり、または本体正面側に内蔵するジェスチャーセンサーで手の動きを感知して、ハンドジェスチャーによる操作もできます。キッチンに置いて使うことを想定して、スマートデバイスの画面を濡れた手で汚さないように配慮しています。
ヨーロッパの人気メーカーが独自にスマートスピーカーを開発していることは、さもありなんというほどの話題なのですが、実はかつてシーメンスはボッシュと一緒にキッチン用のAIアシスタントロボット「Mykie(マイキー)」を開発していました。筆者がコロナ禍の前、最後にIFAを取材した2019年には両社のブースにMykieの姿がなかったので、その行方が気がかりでした。結局はこのタブレットをドッキングできるスマートスピーカーに形を変えたのでしょうか。
以前にシーメンスを取材した時には、Mykieのユーザーが料理の時間を楽しく過ごせるように「おしゃべりをしたり、料理をつくりながらレシピの工程やアドバイスの声を掛けてくれる機能を持たせたい」と担当者は話していました。
現在はChatGPTに代表される「生成AI」を活用するチャットボットサービスもあります。シーメンスのリップスさんに家電の生成AIへの対応についても聞きました。
「今後、スマート家電が何らかの形で生成AIに対応することはとても有意義だと考えます。使い勝手を一人ひとりのユーザーに合わせてパーソナライズするためにも、シーメンスはAIによる機械学習をより積極的に活かす方向を模索していきます」とリップスさんは答えてくれました。生成AIの力を得て、ふたたびMykieのようなキッチンロボットがシーメンスから登場するかもしれません。
筆者は久しぶりにIFAを取材して、スマート家電の明るい未来を垣間見たように思います。