パナソニック、家庭の空気環境を“見える化”するモデルハウスを開設

~CO2排出量削減も宣言。リサイクル事業も海外展開へ
愛知県春日井市のパナソニックエコシステムズ春日井工場。工場入口に見えるのが「IAQハウス」

 パナソニックおよびパナソニック エコシステムズは、2011年11月9日、愛知県春日井市の春日井工場において、CO2排出量を削減するなどの「エコアイディア宣言」を行なった。また、同工場構内に「IAQ(Indoor Air Quality=空気質)ハウス」を設置し、住宅の空気環境を“見える化”し、最新のIAQ環境が体験できるモデル住宅として公開する。

 パナソニックエコシステムズは、環境を基軸にした室内空気質(IAQ)分野、環境エンジニアリング分野で事業展開を行なっている。IAQ製品では空気清浄機や扇風機、除湿機や換気扇などを商品化し、環境エンジニアリングでは水、空気、エネルギーにおける環境負荷を低減するソリューションを提供している。

2018年よりCO2排出をピークアウト。春日井から世界へ『人と地球に優しい環境』を発信

エコアイディア宣言での具体的な目標

 今回、同社が発表したエコアイディア宣言では、2018年において、製品によるCO2削減貢献量を220万トン以上に、生産でのCO2削減貢献量で3万トンを目標として掲げ、同年にCO2総排出量のピークアウト(ある時点から減少傾向に転じること)を実現するという。また、2018年の再生資源利用率16%以上の達成、春日井市と連携した環境活動の実施および独自の環境活動、教育活動を充実させるといった目標も掲げた。

 具体的には対策としては、まず「くらしのエコアイディア」としては、ファン、モーター、制御、浄化技術をコアとし、換気、調湿、集塵、熱交換技術を融合した、健康、快適、省エネに貢献するIAQ製品を創造する『一歩先のIAQ商品で健康・快適な空間実現とCO2削減に貢献』と、パナソニックの工場で蓄積してきた環境負荷削減のノウハウを生かし、水、空気、エネルギーの全領域に渡る『先進の環境エンジニアリング・ソリューション・サービスで、環境付加低減に貢献』の2つに取り組む。

 さらに「ビジネススタイルのエコアイディア」としては、省エネ、創エネ、高資源循環型モノづくりを行なう“先進工場”としての取り組みを行なう「世界トップレベルの省エネ・ゼロエミッション工場の実現」と、春日井市や地域と連携した環境保全活動や、環境教育の出前授業などを行なう「春日井のみなさまとともに、環境保全、環境負荷低減を実現」の2つに取り組む。

 春日井市との連携では、すでに、春日井まつりや納涼祭への参加を通じた環境学習の提案、小学校などへの出前環境教育、清掃活動などを行なっているという。

2018年度にはピークアウトを目指すエコアイディア宣言による2つのエコアイディアと4つの具体的な取り組み春日井市と連携した環境活動への取り組み
パナソニックエコシステムズの田中昌行社長

 パナソニックエコシステムズの田中昌行社長は、春日井工場について「日本国内では2つめのエコアイディア工場として認定された。このエコアイディア工場・春日井から、IAQ分野と環境エンジニアリング分野で、『人と地球に優しい環境』の実現をグローバルのに展開していく。今日(11月9日)は“いい空気”の語呂から、『換気の日』となっており、空気を事業領域の1つとして取り組む当社にとっては大切な日。その日に環境に取り組むエコアイディア宣言の決意を行なえることは意味がある」などとした。

 式典に来賓として出席した春日井市の伊藤太市長は、「春日井市は1998年に環境都市宣言を行ない、地道な活動にも積極的に取り組んできた。社名にエコという言葉が入る企業が春日井市にあること、その企業が春日井市からエコアイディアを発信し、市民と一緒に環境活動に取り組んでいく姿勢を示したことは光栄である。春日井市としても、企業と一緒になって、環境活動をさらに進めていくことは任務であり、責任を感じている」と話した。

 また、パナソニック電工の社長であり、パナソニックの専務役員を兼務する長榮周作氏は、「創業100周年を迎える2018年に、エレクトロニクスNo.1の環境革新企業を目指すことをビジョンに掲げているパナソニックグループにとって、パナソニックエコシステムズは、IAQ製品、環境エンジニアリング分野において、事業を展開する企業。快適とエコの両立を実現する企業でもある。2012年1月から、新生パナソニックがスタートし、パナソニックエコシステムズは、エコソリューションズ社のなかの1つの企業。エコという手段で、お客様の悩み事を解決する役割を担うことになる。地域に密着した活動を進めながら、世界の発展に寄与してほしい」と語った。

パナソニックの長榮周作専務役員春日井市の伊藤太市長
エコアイディア宣言にあわせて用意されたモニュメント(左から)春日井市の伊藤太市長、パナソニックの長榮周作専務役員、パナソニックの宮井真千子役員、パナソニックエコシステムズの田中昌行社長

パナソニックのIAQ事業なら、有害な物質の侵入を阻止し、健康で快適な気流もできる

パナソニックエコシステムズのIAQ製品の考え方

 田中社長はまた、同社のIAQ事業において、2010年度では800億円だった事業規模を、2018年度には1,200億円以上へ伸ばす成長戦略を明らかにした。現在は約6割が国内事業による売上高だが、2018年度は約7割を海外からの売上げとする。

 「当社では、自然換気を“レベル1”、台所の局所換気を“レベル2”、浴室の局所換気を“レベル3”、家まるごとの全体換気を“レベル4”というように、換気レベルを分類している。環境先進国である日本では、住居への換気扇の設置が義務づけられるなど法制化も進んでいる。世界各国の気候や住環境、文化の違いに対応し、それぞれの国にあわせた展開が必要になる。その一方で新興国では、換気文化が整っていない国が多く、法制化と換気文化の形成にも取り組む必要がある」などと語った。

IAQ製品をグローバルに展開する家まるごとを実現するIAQ製品群。省エネも特徴の1つ

 田中社長はさらに、空気質の重要性について「空気は、人が一日で最も多く体内に取り入れる物質といえる。一日平均18kgの空気を体内に取り入れており、直径3mの球と同じ量になる。これは水や食料の15倍もの量になる。だが、空気には健康に影響を与える因子が含まれており、シックハウス症候群やアレルギーなどの原因にもなる」と説明。続けて、「多くの企業が取り組んでいるのは、排気の部分であり、室内の有害な物質を浄化、排出することが中心となっている。それに対して、パナソニックは、外から有害な物質の侵入を阻止する給気、菌や臭いを抑制し、健康快適気流を実現する循環にも取り組むことで、他社とは異なるIAQ製品の提案ができる。省エネも同時に実現し、家まるごとの提案により、年間62%の消費電力の削減が可能になる」と、パナソニックならではのメリットを述べた。


空気の質を“見える化”する「IAQハウス」をオープン

 また、春日井工場内にある「IAQハウス」の様子も報道関係者に公開された。

 IAQハウスは、これまで「気調ハウス」と呼ばれ、気密性が高い住居での空調関連製品の利用実験を行なっていた。今回はリニューアルし、家まるごと健康・快適、省エネな生活提案の場とした。

構内に設置されたIAQハウスIAQハウスの玄関IAQハウスの概要

 1階は、給気、排気、循環の見える化を行ない、数値化して体感することができるIAQの要素ごとの実演ゾーン、2階はパナソニックが提案するIAQ空間を体験できる居住空間での体験フロアとした。さらに3階は、実際の施工事例とコア部材の理解を促進するフロアとしている。

1階のフロア構成の様子1階の給気浄化実演ゾーンでは各種数値データをもとに分析
給気浄化実演ゾーンでのCO2濃度の実験1,000ppm以下でも不快感を感じる人が出始め、2,000ppm以下で眠くなる人が多くなる。3,000ppmを超えると頭痛やめまいが出るはじめる
気流可視化室の様子。綿が揺れる様子で気流を可視化レーザー光を使った可視化も行なわれている
熱交換機の効果を検証する部屋。熱交換気を使用した部屋と使用していない部屋の2つを同じ環境で用意熱交換機を利用すると冬季では消費電力が30W程度少なくて済む夏季でも10W程度の節電が可能になる
2階フロアの構成図同じ環境で用意2階フロアの電力使用量をリアルタイムで表示する部屋全体の温度を測定して、快適空気環境を模索する
IAQハウスの浴室の様子洗面室には洗濯乾燥機なども設置トイレの様子
寝室の様子子供部屋の様子家事室では洗濯物をエアコンで乾かすという実演も

リサイクルシステムの海外展開を強化。ターゲットはマレーシア、ベトナム、中国

 また、環境エンジニアリング分野では、2010年度実績で350億円規模の事業を、2018年度には1,000億円を目指す計画を明らかにした。

 水や薬液のリサイクルシステム、排ガスの処理システムの提供のほか、創エネ、蓄エネ、省エネソリューションによる工場での環境負荷低減を目指し、水、空気、エネルギーの観点から、まるごとソリューションとしての展開を図る。

 「現在、環境エンジニアリング事業は、パナソニックの国内工場を対象にした展開を行なっているが、これまでに、工場における水の使用量を35%削減するとともに、水のリサイクル率を94%にまで向上した実績がある。水のリサイクル率は、近い将来には100%を目指す。また空気では、排ガス処理装置での空気浄化や、排ガス溶剤リサイクル率を90%にし、エネルギーではCO2の排出量を35%削減するといった実績がある。1,300件もの省エネノウハウが蓄積されている。こうした実績をベースに、海外のパナソニックの製造拠点のほか、外部企業への提案を行なっていく。デバイス工場の進出が著しいマレーシアやベトナム、中国などが主要対象地域になる」(パナソニックエコシステムズ 田中社長)

パナソニックエコシステムズの環境エンジニアリング分野への取り組み各国に合わせた工場まるごとの環境ソリューションを提供するという

 環境エンジニアリングにおける海外売上高は、現在のところ10億円程度だが、2018年度には200億円規模にまで拡大させる考えだ。

 春日井工場ではまた、同社独自の生産工程における薬液場内再生技術により、薬液のリサイクル率を70~95%に高めることに成功。これを外販することで、2018年度には同技術だけで100億円の事業規模を想定。さらに、パナソニックグループの省エネノウハウを生かした省エネ診断を工場診断全体へと広げ、グローバル化を図ることで、2018年度には同診断サービスおよび環境ソリューションの提供で、100億円の事業規模を目指す。

 「省エネ診断では、3月に開設した『eco見える化室』に200社以上の企業が訪れており、すでに30件程度の商談が発生している。9月にはマレーシアにもeco見える化室を開設し、海外展開を強化する」(田中社長)

パナソニックエコシステムズが提案する薬液の再生技術省エネ支援事業への取り組み

 なお同工場では、建物、原動設備、生産設備の全般に省エネノウハウを徹底導入し、積層工法を採用した金属光造形金型工法により、成形時間の短縮など、樹脂成形工程の省エネルギー化を実現したという。塗装工程ではメタリック粉体塗料回収再利用システムにより、廃棄塗料を60%から20%にまで大幅に削減するといった実績も上がっていることを公開した。

各種の環境技術が活用されている生産棟環境に配慮した新たな金型工法レーザーにより積層させる工法で大幅な省エネ化を実現したという
新たな金型工法を活用することで曲面に沿った冷却水管も自在に作れる設備の排熱利用による発電システム。上部の熱電変換モジュールでLEDを点灯する樹脂ランナー自動リサイクルシステム
塗装ラインではメタリック粉体塗料回収再利用システムを導入廃棄塗料が大幅に減少したエコアイディア工場 春日井における環境分野での成果





(大河原 克行)

2011年11月10日 00:00