ニュース

“農業は工業へ”パナソニックが取り組む最先端の植物工場事業

福島工場で生産されたレタス

 パナソニックは、同社が取り組む「植物工場事業」の説明会を開催した。福島県に構える植物工場をもとに、これまで電気製品の開発・製造で培ったノウハウを活かした最先端の栽培システムから、今後の展開についても言及した。

 昨今は、農業従事者の減少や異常気象の頻発などから、安心・安全な農産物を、効率的かつ安定的に生産できる“新しい農業”が求められており、福島工場では1年中、同品質の野菜を生産しているという。現段階で栽培できる品種は、ほうれん草やグリーンリーフ、フリルレタス、みず菜、春菊などの葉野菜が主となる。

農業従事者の減少や異常気象の頻発などから“新しい農業”が求められている
これまで培ってきたノウハウで農業を工業化する
福島工場で栽培できる品種例

オールLEDと特殊冷却技術で、1年中高品質を保った野菜生産

 従来の植物工場は、蛍光灯照明による栽培がメインだったが、栽培している棚の上部と下部で温度差が生まれ、同品質の野菜が作れないという課題を抱えていた。ほかにも、葉が柔らかくて味が薄い、電気代が掛かりすぎるなどの問題も発生していた。

 そこで、同社は完全LEDの栽培環境を構築。赤色LEDと青色LEDを用いることで、高速栽培でき、味や食感の制御も可能なため、美味しい野菜が作れるようになったという。出来栄えにおいても、独自の冷却技術で棚の上部と下部の温度差を抑え、同品質の野菜の生産を実現。工場の隅々まで均質な栽培環境で、場所や季節に関わらず、常に同じ品質・味の野菜を生産する。

赤色LEDと青色LEDを用いることで、高速栽培でき味や食感の制御も可能
特殊冷却技術で温度差が抑えられ、差にバラつきがない
工場の隅々まで均質な栽培環境だという
1年中同じ品質の野菜を作れる
栽培の流れ

 工場で生産した野菜は、福島県内のスーパー30店舗で販売中。露地物の野菜と比較すると価格は高いが、高品質・洗わなくても食べられるということから、富裕層や共働きの家庭に需要があるという。

 福島工場は、東日本大震災の復興にあたって経済産業省が実施している補助金制度の対象となっている。「新しい東北」の創造に向け、被災地で先端技術を活用した先端的農業システムを実証した事業とされている。

 パナソニック AVCネットワークス社 アグリ事業推進室 松葉 正樹氏は、工場で生産される野菜について次のように語った。

 「味や食感を制御できるため、今後は野菜の栄養素も管理可能になる。高カルシウムや、低カリウムのものなど、健康状態に合わせた野菜の開発もしている。味も細かく制御できるため、甘いものや苦いものなども生産できる。肉にA5ランクなどの階級付けがあるように、野菜にもそうしたランクが付けられるようにしたい」

パナソニック AVCネットワークス社 アグリ事業推進室 松葉 正樹氏
生産された野菜。福島県内のスーパー30店舗で販売中
洗わずに食べられる、高品質などのメリットがある

事業者向けに、栽培システムの販売も予定

 現在はBtoCメインだが、今後はBtoB向けの展開も画策中。福島工場で用いられている栽培環境を、システム化して事業者向けに販売を予定している。初期費用は、約2億円(2,000株)を予定しているが、LED化による省エネなどからランニングコストは抑えられるという。

 こうした植物工場事業は、異業種からの新規参入が多いが、同社のシステムであれば栽培ノウハウを組み込んでいるため、農業知識がなくても、誰でも高品質の野菜が栽培できるとしている。そのため、栽培に手間を掛けず、野菜の販売先など出口開拓に集中できるという。

 サポート体制も整えつつあり、BtoB向けのウェアラブルカメラも開発中だ。これは現場にいる人々がウェアラブルカメラを装着することで、パソコンから工場の様子を把握可能にするもの。ネットワークで常時遠隔監視できるため、トラブルにも早期対応できるようにするという。

 松葉氏は、「最先端の栽培システムを開発したが、現在の課題は販路が少ないということ。ビジネス向けの栽培システムの販売とともに、機能性のある野菜など栽培レシピの開発も取り組んでいきたい」という。

栽培システムの事業者向け販売も画策中
サポート体制も整っている
BtoB向けのウェアラブルカメラを開発中。ネットワークによる遠隔管理ができる
ビジネス向けのシステム販売とともに、栽培レシピの開発も取り組むという

西村 夢音