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扇風機の概念を変えた「GreenFan Japan」の製造過程をすべて見た!

バルミューダ「GreenFan Japan」

 自然界の風を再現する扇風機として好評の、バルミューダ「GreenFan」。これまで海外で生産してきたが、今年からは国内の工場に変更し、名前も改めた。そんなバルミューダ「GreenFan Japan」の製造現場を、今回、隅から隅まで見てきた。モノ作り日本の、精確さとスピードを感じさせる工場内。その詳細をレポートする。

 バルミューダから委託され「GreenFan Japan」を作っているのが、山形県の米沢市の2つの工場。主に金型の設計/制作から部品加工までを担っているのが、コアタックの工場。そして主に組み立て製造(アッセンブリー)を担当しているのが、同じ米沢市内にあるサクサテクノの工場だ。いずれもサクサという同じグループの企業であり、互いが密に連携することで、ジャストインタイムで製品を完成させられるという。

サクサグループの一画を担うコアタックで、金型やプラスチックパーツが製造されている

 最初に行ったのが、最上川のほど近くにある、金型と部品の製造を行なうコアタックの工場。製品の完成度を左右する金型は、大きく「設計」と「機械加工」という、2つの工程で作られていく。その機械加工の中の、放電加工という工程を間近に見せてもらった。これは、電極で金属を溶かし、金型の形にしていくもの。

上部に吊るされている形が作りたい製品パーツの形。これと真逆の形を、金属を溶かして作っていく
真っ黒の油の中では電極によって、少しずつ金属が溶かされている。油の中で火花が散っているのがわかる
0.2mmのワイヤカット加工で作られた金型のパーツ。精確にカットされているため、密着感が高い
金型の上に置いてある部品、サブモーターカバーを作るために使う金型。だいたい重さは250kgくらいだという

 こうして形作られた金型のパーツを、磨いたり調整したりする。1つの金型を作るのには150〜300くらいの部品が必要になるという。それらを組み上げて、やっと1つの部品を作るための金型が完成するのだ。

 ちなみに「GreenFan Japan」は、プラスチック部品だけで70前後のパーツがある。それら一つ一つに金型が必要となるのだから、気が遠くなるような話だ。

コアタックの代表取締役社長の遠藤晶氏

 同社の代表取締役社長、遠藤氏によれば「2014年のモデルでは、中国で作られた型を修正しながら使っていたこともあって、最初は3割くらいの部品が使えるものではありませんでした。でも今は日本で作った金型を使い、(中国で作った金型を)そのまま使うものもメンテナンスしているので、現在は98%が使える部品になっている」。歩留まりが劇的に改善されているのだ。さらに「バルミューダは、とても高い完成度を求めてきます。そのお陰で、当社の技術力も高まっている」と続けた。

バルミューダ 広報の阿部洋氏

 「2014年に、GreenFanの金型を中国から持ってきました。それをコアタックでゼロから作るくらいに直してもらったんです。迅速な対応によって、期間がない中でも扇風機の需要期を間に合わせてくれ、機会損失にもならずにすみました」と、バルミューダの広報、阿部洋氏が言う。

 さらに、バルミューダが求める生産台数を作るのに、中国の工場では4年かかったという。一方でコアタックスとサクサテクノの両工場では、同じ台数を作れるようになるまでに1.5カ月、さらに新製品「GreenFan Japan」では、3日めで要求台数に達する製造ラインを構築できたという。

一つの部品を作るのに必要なのは、金型と材料となるプラスチックのチップ。これはカバーの金型の半分
材料となるプラスチックのチップ
この中に金型とプラスチックのチップをセット。射出ノズルから熱したチップを金型に流し込む
製造するパーツによって、成形機のサイズも変わる。これは工場で一番大きなもの
金型は定期的にメンテナンスが必要。ちょうどGreenFan Japanの1部品の金型を分解メンテナンスしていた
金型のメンテナンスは完全手作業。1/100mmの誤差まで見抜けるという
多彩な金型が出番を待って、倉庫に整理されている

徹底した効率化が図られた組み立て工程

米沢市内にあるサクサテクノの工場

 次に向かったのが、基板の製造とアッセンブリーを担うサクサテクノの工場。同じ米沢市内にあり、車で移動すれば10分程度の距離の場所にある。

基板を製造している場所を見学
基板の製造エリアには作業員の姿は少なく、オートメーション化が進められている。ホコリが入るのをできるだけ防ぐため、エリアはビニールで覆われていた
製品のパーツが集配されるエリア。ここから工場内の製造ラインに部品が配られていく
天井からは静電気を防ぐために、加湿器が吊るされている。湿度は40%以上に保たれる

 「GreenFan Japan」の組み立ては、2つのラインで行なっている。1つのラインに15名ほどが組み立て作業に取り組む。2つのラインの間は、係の人が必要な部品を配っていく。

左側の列で組み立てを行なっている。右側は写真奥の人が過不足ないようパーツを配っていく。写真には写っていないが、さらに右側には、もう一つ同じ組み立てラインがある
組み立てを行なっている様子。右から左へと徐々に部品が追加されていき、製品ができあがっていく
すべての部品が間違いなく装着されるよう、必要な個数に揃えて部品が用意される
最初は何を作っているのかわからなかった物が、徐々に扇風機へと仕上がっていく
カバーを装着して完成かと思いきや……
組み立て終わった製品は、異音がしないかどうか聴診器でチェックしてから完成
最後に製品を梱包していく

 手作業で進められていく組み立てラインを見ると、作業員の手際の良さや無駄のない動き、そしてスピードに驚かされる。1つのラインで1日での製品数は約400台超。2ラインで1000台弱が次々に作られていく。

 また、正確かつ多くの製品を組み立てられるように、さまざまな工夫がされているのも印象的だった。例えば、間違えやすく気が付きにくいネジの装着などは、部品を配る際に1台に必要なネジの本数に揃えて置かれていく。モーターから異音が出ていないか聴診器でチェックする係の後ろの通路には「静かに」という看板が立てられている(このエリアは立ち入り禁止にすることも検討中だとか)。

 阿部氏が、まだ工場の選定中だった時の話をしてくれた。バルミューダの社長がサクサテクノを見学に訪れた際、組み立てていく作業員のキビキビとした動きを見て「ここにお願いしたい」と即決したという。

 最後に阿部氏が言うには、「良い製品を消費者に届けたい、商品を届けることでユーザーのライフスタイルを変えたい。こうした思いを共有できる所に、製造の委託をお願いしたいと思っていました。今お願いしているコアタックスとサクサテクノとは、そうした思いを共有できています。だからこそ自信を持ってGreenFan Japanを、お勧めできるのです」

 これまでの中国生産から国内にシフトしたGreenFan。今回その金型製作やメンテナンス、部品製造、そして組み立てという現場を巡り、日本のモノ作りに対するこだわりの強さを見た気がした。

河原塚 英信