ローム、スマートフォンが充電できる小型・軽量の水素燃料電池

~非常用にも使える出力200Wタイプも。発売は来春
mobile Aqua(モバイルアクア) カードケース型

 ロームとアクアフェアリー、京都大学は、スマートフォンや非常用電源などに利用できる固定型水素燃料電池を共同で開発。スマートフォン充電用の「mobile Aqua(モバイルアクア)」、200Wが出力できる高出力タイプの「high power Aqua(ハイパワーアクア)」などの製品を、来春に商品化すると発表した。価格は未定。

iPhoneに装着できる「mobile Aqua iPhoneカバー型」200Wが出力できるポータブル燃料電池「high power Aqua(ハイパワーアクア)」

水素化カルシウムのシートを使って発電。小型で軽量、有害物質も出ない

 水素と酸素を反応させて電気を取り出す「燃料電池」技術を利用した外部電源。エネルギー源として、ロームとアクアフェアリーが開発した、38×38×2mm(幅×奥行き×高さ)に固形化した水素化カルシウムのシートを含んだカートリッジを採用している。同シートに水を入れることで、約4.5Lの水素が発生、5Whの電力が生み出せるという。

【お詫びと訂正】初出時、水素化カルシウムについて「水酸化」と誤った表記をしておりました。訂正してお詫びさせていただきます。また、ご指摘頂きました読者の方に感謝します。

燃料電池は水素と酸素を反応させて電気を取り出す技術固形化した水素化カルシウムに水を掛けることで、電気が発生する

 燃料電池では現在、メタノールから水素を取り出すメタノール燃料電池や、ボンベに水素を貯めておく吸蔵合金のような技術が普及しているという。しかし、今回のように水素化カルシウムのシートを用いることで、小型・軽量化が図れ、さらに水素発生シートを増やせば出力が高くなるため、出力の低いものから高いものまで、1つの技術で対応できるというメリットがあるという。

 このほか、水とカルシウム系燃料という安全な物質を使用しており、発電時の生成物は水(水蒸気)だけで、炭酸ガスや有害物質は発生しない。また、水素発生シートはアルミでラミネートされているため、エネルギーのロスがなく、20年以上の長期保存に対応するという。

固体型水素燃料電池の特徴。ガスを用いた燃料電池と比べて非常に軽いという20年間以上の長期保存にも対応するという低出力から高出力まで、1つの技術で対応できるという

iPhone用カバーや各種スマートフォン向け、200Wの高出力タイプも

mobile AquaのiPhoneカバータイプ

 発表会では、スマートフォン充電器として発売される「mobile Aqua」と、高出力タイプ「high Power Aqua」が公開された。

 mobile Aquaには、iPhone本体に装着して充電するカバータイプと、USB経由で各種モバイル機器に給電するカードケースタイプの2種類が用意される。

 発電に係るスペックはいずれも同じ。発電容量は5Whで、定格電圧はDC5.2V、定格電流は500mAh。本体サイズと重量は、カバータイプが140×65×20mm(幅×奥行き×高さ)で87g、カードケースタイプが86×52×19mm(同)で50g。専用カートリッジはカバータイプが30g、カードケースタイプが23g。

写真のようにiPhoneにそのまま装着する。充電しながら通話もできるというカートリッジは本体下部についている(写真中央)。カートリッジ内には水も含まれている
high power Aquaは、各種モバイル機器に対応。写真のようなUSBを電源とするライトにも使えるhigh power Aquaの内部構造。写真右側がカートリッジで、左側がUSBの出力部分

 high Power Aquaは、レジャーや緊急時、IT装置のバックアップなどの用途として開発された、定格出力200Wの燃料電池。エンジン式の発電機とは異なり、運転音は冷却ファンだけと静かで、また排気ガスも発生しない。

 発電容量は200Wh。定格電圧はDC12Vまたは24V。交流として使用するには、別途インバーターが必要。本体サイズは320×330×160mm(同)で、重量は6~7kg。カートリッジのサイズは260×40×125mm(同)で、重量は750g。

high Power Aquaの本体。運転音は冷却ファンの音だけ家庭用コンセントとして使用するには、インバーターを別途用いるhigh power Aquaでテレビとパソコンを動かしているところ。テレビを連続して使う場合、およそ3時間持つが、カートリッジを付け替えれば永久に使い続けられるとのこと

 一般向けの製品ではこのほか、ノートパソコンや防災無線向けに、出力15~50Wの「PC Aqua」という製品も企画されているという。

 業務用途では、地震計用の大容量燃料電池も公開された。地震計の電源としては、これまでは重い鉛電池を使用していたが、固体型水素燃料電池を電源とすることで、重さを鉛電池の1/4に軽量化できるという。本体サイズは250×150×150mm(同)、重量は3kg。発電容量は400Wh、定格電力は3W、定格電圧は12V。

上記2製品以外にも、ノートパソコンの電源として使える「PC Aqua」も企画中とのこと一般向けの製品ではないが、地震計用の大容量タイプ(左)も公開された。従来の鉛電池(右)と比べると非常に軽く、持ち歩きやすいというこちらは地震計

カートリッジを入れ替えるだけで即座に充電。緊急用充電としても

 開発に携わった3団体の役割分担については、アクアフェアリーが燃料電池の商品開発を行ない、ロームが電子制御回路やアプリケーション、販売を担う。京都大学は、応用分野の拡大や、コスト低減などさらなる技術開発を担当する。

ローム研究開発本部 神澤公副部長

 ロームの研究開発本部の神澤公副部長は、スマートフォン向けの燃料電池の開発に至った理由として、「(モバイルバッテリーなど)スマートフォンの補助電源が売れているが、mobile Aquaなら充電の必要もなく、その場で即座に給電できる。また、地震や水害など緊急時の電源としても、サーバーのバックアップとしても使える」と話した。

 実売価格については、「現在リサーチ中。マーケットの大きさを考えながら出していきたい」としながらも、「スウェーデンでは約2万円のポータブル燃料電池が販売されているが、それではまったく売れない」と、発売時は入手しやすい価格になる可能性を示した。

 アクアフェアリーは、京都府西京区に本社を構える燃料電池メーカー。以前にもNTTドコモと共同で携帯電話用の燃料電池を開発した実績がある。アクアフェアリーの石坂整 取締役 副社長 CTOは、今回の固体形水素燃料電池のポイントとして、「水素化カルシウムは非常に水との反応性が高い。以前(NTTドコモと共同で開発していた頃)は水素化マグネシウムを使用しており、高温になると暴走する特性があったが、本製品では樹脂とコーティングして反応を抑えており、高温になってもコーティングの力で暴走を抑制する」を挙げた。

 京都大学大学院 工学研究科の平尾一之教授は、「いちはやく市場に出そうとしていることは意義がある」と新製品を評価。また燃料電池のメリットについて、大容量、長期保存が可能、長寿命、軽量、環境にやさしい点を指摘し、「非常にすぐれもの。今後の共同研究により、将来性のある水素燃料電池になると期待している」と話した。

アクアフェアリーの石坂整 取締役 副社長 CTO京都大学大学院 工学研究科 平尾一之教授





(正藤 慶一)

2012年9月19日 00:00