パナソニック、津賀一宏氏が新社長として6月に就任

~スピード感のある経営をしていきたい

粉骨砕身がんばり、次の世代につないでいく

次期社長に就任する代表取締役専務の津賀一宏氏(右)と、代表取締役会長に就任する大坪文雄代表取締役社長(左)

 パナソニックは、2012年6月27日付けで、次期社長に代表取締役専務の津賀一宏氏が就任すると発表した。大坪文雄代表取締役社長は代表取締役会長に就任する。

 また、代表取締役会長の中村邦夫氏は代表権のない相談役に、代表取締役副会長の松下正治氏は代表権のない名誉会長に就任する。また、代表取締役副社長の坂本俊弘氏、森孝博氏、代表取締役専務の森田研氏はそれぞれ退任し顧問となる。

 一方で家電関連では、アプライアンス社社長であり、常務取締役の高見和徳氏が、4月1日付けで代表取締役専務に就任。パナソニックコンシューマーマーケティングの社長を務める役員の石井純氏が常務役員に昇格する。パナソニック電工の社長を務め、エコソリューションズ社社長の長榮周作専務役員は、6月27日付けで代表取締役副社長に昇格。三洋電機社長を務めていた専務役員の佐野精一郎氏は常任監査役に退く。三洋電機社長の伊藤正人氏はパナソニックの役員としてそのまま社長職を務める。

 2月28日に大阪市内のホテルで、また29日には都内のホテルで会見した津賀次期社長は、「初めてこの話を聞いたとき、わが耳を疑うばかり、まさに青天の霹靂という思いだった。少し時間がたつにつれ、経営をとリまく環境の厳しさに立ち向かう決意と同時に、本年1月に新たな体制でスタートしたパナソニックの船出の舵を握るという、心踊る思いが芽生えてきた。いま改めて、世界のお客様、株主、取引先、従業員とその家族をはじめとする社会に、大きな責任があることを痛感している。2018年に創業100周年を迎え、同時に環境革新企業の実現を掲げている。微力だが、粉骨砕身がんばり、次の世代につないでいく」と述べた。

会見では、大坪現社長と津賀次期社長が並んだ

スピード感のある経営をしていきたい

津賀次期社長

 社長就任の打診は2月上旬に受けたという。

 大坪社長によると、「私の大きな役割は終わった。将来の方向も明確であると思うので、あとは君にバトンタッチしたい。思う存分、自分の思う通り、新しい経営を進めてくれと話した」と、津賀次期社長に話したという。

 55歳という、創業家以外では最年少で社長就任することについては、「スピード感のある経営をしていきたい。年齢によらず個人差があるが、スピード感がなければ、55歳でも意味がない。私自身のプレッシャーは55歳で若いということではなく、スピード感を持った経営ができるのかが最大のプレッシャー。年齢がどうかという不安はない」と語った。

 津賀氏が2011年4月から担当しているテレビ事業が、赤字を計上していることについては「申し訳ない思いで一杯」としながらも、「この10年にわたって、薄型テレビが成長の中心であり、技術の革新の中心であった。この10年の蓄積したパワーによって、次の時代にさらなる飛躍をする。三洋電機、パナソニック電工の統合でも、社内に大きなエネルギーがたまっており、この出口をうまく設定すれば、必ずや将来の収益改善と、成長性の種になる」とした。

 2018年の目標については、「パナソニックが持っている内部の実力やエネルギーから見れば、売上高8兆円という規模で満足すべきではない。また、現在の売り上げ高を、守ろうとして守れるものではない。これから3カ年の中期計画を2回実行することで、2018年に到達する。このなかでは数字を伸ばしていく視点だけではなく、どこに成長性と独自性を見いだせるのかということを整理していく必要がある。2018年には環境革新企業を目指すとし、今後の成長分野は『環境』と『まるごと』という2つのキーワードであるが、環境ばかりをやるわけではない。私自身は、『エコ&スマート』という言い方がぴったりきていると考えている。

 これは全社共通で活用できる言葉であり、AVC製品においても、『エコ&スマート』を追求すべきである。もし、これができないドメインがあったとしても、ドメイン間の連携によって埋めていけばいい。すべての商品や事業を『エコ&スマート』という観点で見ていけば、世の中に受け入れていただける成長分野が作れ、成長性、収益性につながるのではないかと考えている」とした。

 また、「座右の銘はない」としたものの、「心がけている言葉は『自責』。自分の責任と言う意味での自責である」としたほか、「衆知を集めた全員経営は、経営者としては基本中の基本だと考えており、私が好きな創業者の言葉である。ただ、経営という前に、企業は人の集団。『松下電器はモノを作る前に、人を作る会社である』ということがベースになっている。また、私は創業者の言葉で好きなのは、合理性を示す言葉。『雨が降れば傘を指す経営』、『ダム式経営』というようなわかりやすい言葉で、当たり前のことを、経営のなかでもう一度振り返ることを語っている。こうした言葉を大切にしたい」と語った。

 自らについては、「もともと私は技術者だが、技術を盲信せず、物事を論理的に考え、仮説、検証を大切にして、物事を見るようにしている。サムスン、トヨタといった成長している企業ほど危機感は大きい。われわれは現在、それ以上の危機感を持って臨んでいるが、それを全員が共有しているかという点ではまだまだかもしれない。復活に必要なものは、人の能力をどれだけ引き出せるかであり、そうした経営をしていきたい」と語った。

社長としての自己採点は0点どころか、マイナス――大坪社長

大坪社長

 一方、大坪社長は、「後継者選びは常々意識していた。2012年2月3日に発表した2011年度の連結業績見通しにおいて、7,800億円の赤字になることを公表した。その後、心の整理をして、中村会長に、『私の役割は終わったので退任します』と伝えた。中村会長からは『本当にご苦労さんでしたね』といっていただいた」とし、「2018年に、環境革新企業を目指すという新たな企業の形に向けてスタートを切ったこのタイミングが、退任にはベストであると感じた。津賀氏は、常に経営課題の奥にある問題をつかもうというマインドがある。複雑な時代のトップとして、極めて相応しいと考えた。また、目線も、心も、常に外を向いており、社内よりも社外に学ぼうというマインドがある」と評した。

 さらに大坪社長は、「今年度の創業以来の巨額赤字ということだけにフォーカスすれば、私の社長としての自己採点は0点どころか、マイナスである。しかし、将来に向けての布石を打ったということで考えれば、何十点か、何点からはわからないが、点数はいだたけるのではないかと思っている。評価はみなさんにお任せしたい。自分としては、将来に向けて打つべき手を打ったという点では、心の中で満足している。だが、それで今年度の大きな赤字が打ち消されるとは思っていない」と厳しい採点を課した。

 大坪社長は、「7,800億円という巨額の赤字は、従業員に大きな痛みを伴った改革の結果。また、社会の皆様に大きな心配をおかけしたことを、大変申し訳なく思っている。責任を痛感している。会社として、毎年、利益をあげることは当然であるが、将来に渡って企業が発展していくためのベースをどう作り込んでいくのかも重要な仕事である。もし三洋電機の自動車用電池や太陽光がなければ、あるいは、もし電工の電材や住建、家まわり、ビルまわりの商材がなければ、テレビおよび半導体の構造改革は成し得なかった。

 大きな赤字につながったが、2018年に向けてなにをやるべきか、どういう方向で行くべきかを、外部の大きな混乱要因のなかで、それに負けない構造改革を連続してきた。企業を存続させるための大きな土台は築けたと思う。パナソニックへの社名変更、三洋電機買収、エネルギー・環境に軸足を置く会社へと進むべき方向を決め、自分としては、将来の成長の布石を明確にし、社長の責任は果たせたと思っている」と語ったほか、「創業者は、社会の課題を解決するために企業は存在すると創業者は語っていた。環境との共存は人類共通の課題である。その課題に対して、環境革新企業としての土台を作ったことに成果は集約される」とした。

 また「あまりプレッシャーになるといけないが」としながら、「2012年度からは確実な利益回復を図る。そのために必要な施策だった」とした。

パナソニック電工、三洋電機とは入り交じることを徹底した

 大坪社長は、社長就任時に「衆知を集めた全員経営」を掲げた。これについては「『衆知を集めた全員経営』という創業者の言葉を大事にしたいと思ったのは、社長というのは、就任して初めて経験できる立場であり、パナソニックの規模になると、それまでの自分のドメインの経験だけでは知っていることが限られたものであることを感じ、謙虚な気持ちになって、お互いの仲間を信じて、経営をするということだった。これは創業者自身も考えたことであった。

 パナソニック電工、三洋電機が一緒になったときには、入り交じろうということを徹底した。人と人が顔をみて、話をして、握手をして、議論をして、初めて入り交じる。知恵を出して、シナジーを高めることができたといえる。例えば、東日本大震災後、充電式単三乾電池2本で動くソーラーランタンを、三洋電機とパナソニックとが一緒になって作り、大変なヒット商品になった。

 また、三洋電機が開発したGOPANも、お米でパンを作るというユニークな製品であり、私も三洋電機の開発部門を訪れた時に、その発想に驚いた。しかし、市場へ出せる量が少なく、対象は日本市場しかみていない。そして、稼働させると音が大きかった。そこで、すぐにパナソニックの開発部隊が入り交じり改良を加えた。今年度、パナソニックからGOPANが出て、大ヒットしている。知恵の入り交じりで衆知を集め、みんなで力を併せて、仕事をするという点では、大きなシナジーが生まれている。さらに本格的なシナジーを生むための体制が、この1月からスタートした。今後、よりスケールメリットのあるシナジーが期待できる。衆知を集めるということは、パナソニックの誰が責任者になっても、どの部門の責任者であっても尊重すべき言葉であると思っている」と語った。

 一方で、大坪社長は、「いまは、国家経済戦争の時代である。企業の努力は当然だが、それを国としていかに支えて産業発展につなげるかという点に各国が知恵を絞る、厳しい競争のなかにある。そのなかで、日本のモノづくりの力は弱まりつつある。いまの状況が10年、20年続けば、日本のモノづくりは根本的に土台を失う可能性があると危惧している。

 工場だけでなく、日本のモノくりの場で付加価値をどう高めるのか、ということを、生産活動に関わる人たちが知恵を使わなくてはならない。安いものを集めて、作るだけでは日本のモノづくりは成り立たない。新たな付加価値を乗せることが世界に通用することになる。そのためには、部品をつくる人たちから、自ら新たな付加価値とはなにかを徹底して考えるべきである」と語り、「パナソニックは、まるごとソリューションという商材や、システムのなかに、新たな付加価値を作り込むことで、会社としての収益性を向上させていくことになる」とした。

津賀次期社長のもと、海外売り上げ比率を55%、60%と高めていく

 大坪社長は、ソリューション展開にも言及。「パナソニックは、テレビやエアコンなどの単品型ビジネスを行なってきたが、今後は、あらゆる事業を、ソリューション型のビジネスとして展開することを考えたい。その究極の形が、街まるごと、ビルまるごと、家まるごとということになる。生活者の困っていることを解決するために、あらゆる商材を駆使し、あらゆるソリューションを提案していくものになる。モデルとなる企業があるわけではないが、パナソニックはトップランナーとして走っていける位置にあり、2018年には、この事業が大きなウエイトを占めると思っている」と語る。

 津賀次期社長は、「BtoCにおいても、BtoBの成功事例に倣うといったことを進めており、ソリューションビジネスにおいて、DNAの垣根はない。ただ、販売現場では、BtoCからBtoBへのシフトにおいて、いろいろな問題が出てくるかもしれない。しかし、それも顧客価値を提供できているのかということが最大の尺度になってくると考えている。そうした尺度で物事をみていきたい。とくにAVC(オーディオ機器やテレビを扱うパナソニックの部署名)では、高画質、高音質といったトラディショナルな機能が評価され、テレビはあくまでもテレビとして捉えられていた。つまり、顧客価値を本質的に捉えなくても、よい商品を投入すればシェアが取れた。しかし、なんのためにカメラが欲しいのかということを提案型で高めていくと、自ずとBtoCの形が変わり、BtoBと融合したり、ハードとサービスが融合するということになる。もう一度価値を見直すことが重要である」と、新たなビジネスモデルの構築に意欲をみせた。

 大坪社長が掲げてきた新興国攻略については大坪社長が回答。「私が、社長就任以来、もっとも意識していた事業領域の1つが新興国攻略。既存のAV商品の展開だけでなく、現地の生活者に密着した白物商品を展開しており、インド、インドネシア、ベトナム、ブラジルなどで大きな成功事例が出てはじめて、手応えを感じている。為替の影響もあり、海外売り上げ比率で50%を突破することはできていないが、これは裏を返せば、国内でシェアを着実に上げている結果でもある。ただ、まるごとビジネスでは海外の方が案件が多い。創業100周年に向けて、新社長のリーダーシップのもと、海外売り上げ比率は55%、60%と高まっていくだろう」と語った。

 そのほか、白物家電事業については、「欧州のほか、中国、インド、ベトナム、インドネシアなどの新興国で成果が出ている。新興国では、エネルギーの供給が不安定であり、1つの家庭で消費できる電力量にも制限がある。商品の基本的性能として省エネが求められている。従来はパナソニックの自社工場で作るということにこだわっていたが、ODM、OEMを活用してラインアップを充実して、パナソニックブランドの市場展開を一気に進める」(大坪社長)とした。





(大河原 克行)

2012年3月1日 00:00