ホンダ、太陽光発電やコージェネシステムなど「創エネ」事業を推進

~ソーラーカーレースがきっかけで太陽電池を独自開発

 本田技研工業は13日、太陽電池やコージェネレーションユニットなど「創エネ」事業に関する説明会を13日実施。今後は自動車やバイクなどの事業に加えて、創エネ事業を積極的を推進していく方針を明らかにした。


車やバイク以外を扱う「汎用事業部」は、創業者・本田宗一郎の思いから誕生した

 ホンダでは、ソーラーパネルや発電機など、自動車やバイク以外の製品を「汎用事業本部」という部門が扱う。取締役で同事業本部の山田琢二本部長によれば、汎用事業が発足したのは1953年で、農業機械用のエンジンが初めての製品だったという。

 「農村や漁村での厳しい労働条件にさらされていた人たちを、技術で幸せにしたい、機械化して労働を軽減してさしあげることができないのか、という創業者・本田宗一郎の思いから(汎用事業部は)生まれた。以来、耕運機、発電機、船外機、除雪機などを開発し、世界中のお客様にご愛用いただいている」(山田本部長)

本田技研工業 取締役 汎用事業本部 山田琢二本部長ホンダの汎用事業がスタートしたのは1953年。農業機械用のエンジンが初めての製品だった

ソーラーカーレース優勝で研究がスタート。「CIGS薄膜太陽電池」のメリットとは

現在発売されている、住宅用のCIGS太陽電池モジュール「HEM130PCB」

 創エネ事業の1つとして、会ではまずソーラーシステムについて紹介された。

 同社がソーラー事業を開始するきっかけになったのは、1993年にオーストラリアで行なわれた、世界的なソーラーカーレース「ワールドソーラーチャレンジ」に優勝したこと。この際、社外から買ってきたソーラーパネルを使ったものの、技術者から「ホンダ独自の先進的な技術で世界に類の無い太陽電池を開発したい」ということで、研究が開始された。その後も研究は続けられ、2006年には、ホンダの太陽電池の製造と販売を担う100%子会社「ホンダソルテック」が設立され、翌2007年には、一般住宅用のシステムの全国販売が開始された。

 ホンダの太陽電池では「CIGS薄膜太陽電池」というモジュールが採用されている。CIGSとは、銅(元素記号はCu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を原料とした化合物半導体を発電層に使っていることを表す。

 CIGS薄膜太陽電池のメリットとしては、製造面ではシリコンを使わずに薄膜状にできる点、製造時の消費エネルギーや排出CO2を少ないため、環境にやさしく製造できる点があるという。また発電に関しては、曇や朝・夕方など太陽の光が弱い時でも発電する、高温時の電圧低下が起こりにくい、などがあるという。

ホンダの太陽電池事業の取り組み。きっかけは1993年のソーラーカーレースの優勝ホンダの太陽電池の技術進化CIGS薄膜太陽電池は、製造時のエネルギーが少なく、CO2排出量が少ない点がメリットという
CIGS薄膜太陽電池の厚さは2.4μm。髪の毛の1/40という薄さだ多結晶タイプと比べると、発電量も高い

 さらに、モジュール内のセルが、すべて全並列に接続されているため、パネルの一部に葉っぱが載るなど影で覆われた場合でも、全体の出力には影響がないという。他社のシリコン結晶系の太陽電池の場合、直列に繋がれているため、電気が通る道が塞がれて、出力が低下することがあるという。

 このほか、デザインは黒色のため、“どんな屋根にもベストマッチ”するという。景観規制のある景勝地での設置も認められており、実際に景観規制が実施されている京都市内でも、設置が許可されている。

パネルの一部に影ができても、出力低下の恐れもないというパネルは黒色で、“どんな屋根にもベストマッチ”するという。景観規制が実施されている京都市内でも設置できるとのこと一般住宅、および公共・産業用の設置例。甲子園球場の屋根にも設置されているという

 現在、販売されている住宅用のCIGS太陽電池モジュール「HEM130PCB」のスペックは、公称最大出力が140W、モジュール変換効率は12.5%。外径寸法は1,417×791×37mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は14.3kg。

新型のCIGS太陽電池モジュール。表面にはラインなどが一切なく、ツルッとしている

 会場では、2011年中に発売が予定されている新型のCIGS太陽電池モジュールも公開された。サイズは926×738×37mm(同)とHEM130PCBよりも小さいが、モジュール変換効率は13%と0.5%向上している(公称最大出力は89W)。

 なお、同社の太陽光発電システムは、停電時の自立運転にも対応。パワーコンディショナーに設けられたコンセントに接続することで、電化製品が使用できる。消費電力は最大で1.5kW(1,500W)まで。


ガスで発電、発熱を給湯に利用する「コージェネレーションユニット」も開発

5月に販売が開始された「MCHP1.0K2」のコージェネレーションユニット(左)。右は貯湯ユニット

 続いて、家庭用発電・給湯システム「エコウィル」に使用される、家庭用ガスエンジンコージェネレーション(熱電併給)ユニットに関する説明も行なわれた。

 「エコウィル」とは、家庭に供給されたガスをガスエンジンで発電し、その際に発生する排熱を、熱エネルギーとして給湯などに利用する、家庭向けの発電・給湯システム。家庭で発電できるため、送電による電力のロスが少なく、また発電時の熱を無駄なく利用できる特徴がある。ホンダでは、エコウィルの熱源・発電ユニットとなるコージェネレーションユニットを開発している。

 ホンダでは2003年よりコージェネレーションシステムをエコウィルに提供しており、現在は、5月に販売された「MCHP1.0K2」で3世代となる。MCHP1.0K2は、「EXlink(エクスリンク)」という、少ない吸気でガスの力を最大限に活用することを狙ったエンジンシステムを採用した点が特徴。少量の燃料と空気を圧縮して燃焼させたガスを、より大きな体積に膨張することで、膨張比を圧縮比の1.4倍にできるという。

コージェネレーションユニットのカットモデル。中央にある銀色のユニットが、新エンジンシステム「EXlink(エクスリンク)」エクスリンクの全体写真従来型エンジンと比べると、ピストン移動量が大きくなった

エクスリンクのピストンが動いているようす

 これにより、出力1kW当たりの発電効率は、従来モデルの22.5%に対し、26.3%となった。また、熱回収率は65.7%となり、定格熱出力は2.5kW。この定格熱出力2.5kWとは、貯湯タンク内にある水温15℃の水を、約2時間半で満熱(75℃)にする能力を表している。さらに、家庭での熱や電力使用時間に合わせたオンデマンド稼働を行なうことで、放熱ロスが少ない、無駄のない運転ができるという。

 MCHP1.0K2に投入されたエネルギーの利用率は92%となり、同社では、従来の火力発電とガス給湯暖房システムを使用した場合と比較すると、CO2を38%削減できるとしている。

エクスリンクの採用により、発電効率は従来の22.5%から26.3%に向上した熱回収率は65.7%投入されたエネルギーのうち、92%が利用できるという

 このほか、本体サイズは従来機と比べて容積で33%低減、重量で10kgの低減となった。また運転音は43dBで、家庭用エアコンの室外機と同レベルという。

 なおMCHP1.0K2については、停電時の自立運転はできない。ホンダでは「今後は検討の余地がある」としている。

 ホンダのコージェネレーションシステムは、海外展開も予定されている。ドイツの暖房・給湯器メーカー「パイラント」社と共同で、家庭用のコージェネレーションシステム「エコパワー1.0」を開発。2011年なかごろに、ドイツ市場へ投入するという。ドイツでは主に地下室に設置されることを想定しているという。

本体サイズや重量も軽減された運転音は43dBで、エアコンの室外機並みというドイツの給湯・暖房メーカー「バイラント」社とコージェネレーションシステムを共同開発。2011年なかごろに、ドイツ市場に投入するという

蓄電やエネルギーコントロールする家「ホンダスマートホームシステム」も創設

 ホンダでは、これら太陽光発電システムやコージェネレーションユニットといった創エネ機器に、蓄電やエネルギーコントロールなどの仕組みを取り入れた住宅「ホンダスマートホームシステム」を、来年春までにさいたま市内に創設し、実証実験を行っていく。同住宅では、総合的な停電時や災害時にも、家庭単体で自立が可能な、総合的なエネルギーマネジメントの検証も実施される。

 また6月には、新たな環境ビジョン「Blue Skies for Our Children(ブルー・スカイズ・フォー・アワー・チルドレン)」も策定。全世界で販売する製品のCO2排出量を、2000年比で30%削減するという。

 山田本部長は、太陽光発電やコージェネレーションユニットといったホンダの創エネ事業について「エネルギーを家庭で作り、家庭で消費する『家産、家消』を行なうことで、低炭素社会の実現に貢献したいという汎用事業の理想を具現化したもの」とし、今後については「(汎用事業の)スタート以来の志である、“人に役立つ喜び”という原点を見据えながら、関連する事業と連携し、創エネ事業を強力に推進していきたい」とした。

 さらに、ホンダ全体については「『自由な移動の喜び』と『豊かで持続可能な社会の実現』を目指して、積極的な事業活動を行なっていく」とした。

さいたま市内に、コージェネレーションユニットや太陽光パネルに加え、ホームバッテリーも搭載した住宅「ホンダスマートホームシステム」を、来春までに創設、実証実験を行なうというホンダスマートホームシステムが創設される予定の地域
ホンダスマートホームシステムに搭載されるバッテリー同じく、ホンダスマートホームシステムに搭載される貯湯ユニット使用した電力や充電した電力などは、モニターで確認できる





(正藤 慶一)

2011年7月14日 00:00