ニュース

パナソニックのジアイーノ「次亜塩素酸」は本当に除菌できるの?

群馬パース大学が、次亜塩素酸の有効性を確認。左から群馬パース大学 大学院保健科学研究科の木村博一教授、同大学 学長の藤田清隆さん、パナソニック 空質空調社 常務 技術担当の岡本剛さん

消臭や空間の除菌に有効とされている「次亜塩素酸」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。病院やグループホーム、ペットショップや畜産業での除菌・消臭、さらにはスーパーで売られている野菜の洗浄や水道の浄化にも使われている。

しかし「次亜塩素酸」の効果の検証は、これまで実験室の中でのみ行なわれていた。そのため実空間で行なうレビューなどでは、「効いている気がする」という感覚的な評価しかなく、明確な有効性が数値で示されていなかった。

今回、コロナウイルスやインフルエンザウイルスの抑制を研究する群馬パース大学が、同大学の教室を使った実験を行ない、次亜塩素酸の有効性を確認したと報告している。

なにもしない状態(黒線)に比べ、次亜塩素酸+フィルター(赤線)を使った空間除菌により、実空間で2.25時間で浮遊菌を85%減少できた。次亜塩素酸を使わないフィルターのみによる除菌(青線)は除菌効果が緩やか
次亜塩素酸+フィルターを用いた独自の空間除菌機を使い、空中に浮遊するさまざまな菌に対して実空間での有効性が確認できた

漂白剤の次亜塩素酸ナトリウムとは別物で安全な次亜塩素酸

ヒトへの害もなく利用後の残留物もないので安全とされている「次亜塩素酸」は、パナソニックの空間除菌脱臭機「ジアイーノ」にも利用されている。筆者も何度も体験しているが、糞尿やカレーのニオイがほとんど感じられないほどの消臭効果があり、医療機関などでも好評だという。

一方で「次亜塩素酸」と似た名前で、一般には同じものと誤解が多い「次亜塩素酸ナトリウム」というものがある。コロナの集団感染当初には、消毒用のアルコールが不足したため、台所や洗濯用の「次亜塩素酸ナトリウム」こと漂白剤の「ハイター」などを水で薄めたものでアルコール代わりにする方法が紹介されていた。「次亜塩素酸」と「次亜塩素酸ナトリウム」はどちらも除菌効果があるため、「同じもの」と誤解されやすいのだ。

しかし語尾に「ナトリウム」があるかないかで、科学的な性質や危険度が大きく異なる。どちらも「水に溶かした状態」で利用するため「次亜塩素酸」の別名を「次亜塩素酸水」、「次亜塩素酸ナトリウム」(漂白剤)を「次亜塩素酸ナトリウム水溶液」と呼ぶ場合がある。その違いを簡単にまとめると、次のようになる(出典:厚生労働省「次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性に関する資料」)。

名称次亜塩素酸(次亜塩素酸水)次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)
化学式HOClNaOCl
性質酸性〜中性強いアルカリ性
漂白効果なしあり
安全性高い低い(皮膚を溶かす作用あり)
時間経過での効力弱まる持続する
ニオイ無臭強い塩素臭
皮膚への影響ほぼ無害皮膚を溶かす可能性あり
残留物なし(水と塩に分解)あり(乾燥後に再び水に溶けると危険)
金属への影響錆びさせる(酸化作用)錆びさせる(酸化作用)
使用後の処理噴霧後の水拭き不要噴霧後は水拭きが必要
吸引時の影響なし(通常の使用範囲では問題なし)吸引するとめまいや吐き気の可能性
次亜塩素酸は「ニオイ」や「菌」を酸化(錆び)させて、物質そのものを化学変化で「ニオイ」や「菌」から別の物質に変えて(ニオイや菌の構造を壊して)しまう(出典:「感染制御空間実現に向けたパナソニックの取り組み」)

このように語尾に「ナトリウム」が付くか否かで大きく異なる性質を持つ。漂白剤の「次亜塩素酸ナトリウム」は危険性が高く残留物があるため、空中に噴霧すると危険を伴う。しかし「次亜塩素酸」は危険性が低いので空中に噴霧して、空気中の菌やニオイの成分を分解しても安全と言われている。

条件のいい「実験空間」でなく「実空間」でも効果が実証された

今回実証実験が行なわれたのは、安全性の高い「次亜塩素酸」。これについて群馬パース大学の教室を使い、いくつかの実験をしている。

群馬パース大学は、看護学科やリハビリテーション学部、放射線や臨床工学などの医療技術学部を持つ医療系総合大学。同大学の大学院保健科学研究科教授・同附属研究所先端医療科学研究センター長の木村博一さんは、コロナやインフルエンザウイルスをはじめとしたPCR検査や診断用試薬の開発、院内感染を防ぐための「感染制御」の研究を行なっている。

群馬パース大学(学長 藤田清貴) 大学院保健科学研究科 木村博一教授

1.人がいる空間に持ち込まれた浮遊菌はどれだけ除去できるか?

まず教室に生徒がいる状況で、生徒が外から持ち込んだ浮遊菌をどれほど除去できるかという検証だ。

パナソニックと共同研究を行ない、同社が持つ次亜塩素酸発生器と空気清浄用のフィルターを合わせた独自の空間除菌装置を約70畳の教室に設置(市販の「ジアイーノ」ではない点に注意)。学生同意のもと、40〜50人が在室する状態かつエアコンも稼働した状態で3週間に渡り実験を繰り返したという。

実験は実際に学生がいる空間に独自の次亜塩素酸+フィルターの空間除菌機を導入して行なっている

実験は教室の空気から採取した菌を、シャーレ(ペトリ皿)の培養寒天培地で繁殖させ、空間除菌装置の有無による菌数の違いを比較している。つまり学生が教室外からどのような菌を持ち込み、次亜塩素酸を使った空間除菌機を運転することで、どれだけ除菌できるかを調べたというわけだ。

結果は次の通り。写真は閲覧注意だが、空間除菌機の動作直後の空気と、2時間25分運転したあとの空気の菌数の違いを示している。

左の「初期」は、運転直後の空気に含まれる菌を培養したもの。左の「2.25時間後(2時間25分後)」は運転後の空気に含まれる菌を培養したもの。明らかに菌が減っているのが分かる

直後の空気は多種の菌が生き残っているため、シャーレに培養した菌数も多くなっている。しかし講義が終わった2.25時間後は、各種菌が5〜1%に減っており除菌効果が実証される結果となった。

2.培養寒天培地に付着させた菌の除菌効果

56畳の無人空間で、あらかじめ培養寒天培地に付着させた菌を、次亜塩素酸を拡散した空間に24時間放置した結果も示されている。大腸菌の場合は94.6%が不活性化(除菌)、緑膿菌は99.6%、黄色ブドウ球菌は99.9%不活性化できたという結果が出た。

先ほどより少し狭い無人の教室で、付着菌に対する次亜塩素酸の効果を検証
左から大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌の実験結果。それぞれ94.6%、99.6%、99.9%の除菌が可能という結果になった

今回実験に使ったのは、市販の「ジアイーノ」ではなく、実験のために作った「次亜塩素酸」と「フィルター」を搭載したオリジナルの空気清浄機。しかし実験室という好条件ではない、厳しい実空間でも次亜塩素酸はかなりの効果が得られると感じた。

ただし、パナソニック 空質空調社の常務 技術担当の岡本剛さんによれば「6畳程度の実験空間と比べると、実空間はなかなか厳しい環境だ」としていた。

ビル空調などにも組み込める次亜塩素酸で感染制御を目指す

パナソニックには同様の効果を持つ「ナノイー」があるが、こちらは民生器を中心とした空気清浄機の位置づけだ。次亜塩素酸+フィルター空気清浄機は、ジアイーノのような家庭用モデルに加え、ビル空調のように天井にビルトインが可能になっている。病院やグループホーム、ペットショップや公共施設などの大規模施設にも対応できるので、ナノイーと次亜塩素酸の二刀流で家庭から広い空間まで除菌すれば感染抑制が可能になるだろう。