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サイバーパンクな近未来の夜景を実現!? 「マイクロLED照明」見てきた

様々な表現ができてプロジェクターより圧倒的に明るい「マイクロLED照明」を取材してきた

かつて「スターウォーズ」や「ブレードランナー」でも表現されていたように、未来都市の夜景では、信号や分岐を指示する交通システムのイルミネーションが中空や道路に写し出され、自動運転の車が行き交っている様子が印象的だ。そして「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」や「TIGER & BUNNY」などのアニメでも、動くサインボードや空に投影されるサイネージなどが描かれている。

これまでアニメーションできる照明といえば、液晶パネルかプロジェクター、レーザーが主だった。今回はSFで描かれているデジタルサイネージを現実に近づけるような、画期的な照明「マイクロLED照明」がお披露目されたのでお伝えしたい。

次世代の照明器具として登場

開発中の試作機でのデモンストレーションを見ると、照明本体は固定したままなのに、さまざまな形のスポットライトをアニメーションで移動させたり、その形を●から▲、または文字などにモーフィングしながらライティングしていた。最大輝度にするとプロジェクターよりも圧倒的に明るく、明るさやスポットの大きさも自由に変えられる、まさに次世代のLED照明だ。

1つの小さな照明でここまで明るく、精細な表現ができていた

この次世代照明は、世界で初めて青色LEDを開発したことで一躍有名になった「日亜化学工業株式会社」(日亜)と、業務用の照明の大手「パナソニック エレクトリックワークス社」(パナソニックEW)が共同開発した。

自動車のヘッドライト用に開発した「マイクロLED」

次世代照明のキーとなるのが「マイクロLED」というデバイス(部品)だ。私たちがよく見るLEDは、テレビなどの電源がONのときに光るランプで、2mm四方の部品が多い。家庭用の照明に使われている明るいLEDだと直径5mmほどになる。

今回、日亜が開発したマイクロLEDは、一見すると1cm×3mm(幅×高さ)の平面LEDに見えるが、実はこの中に256×64ピクセルの小さなLEDが並べられている。その密集度は高く、1mm四方の中に400個も配置されている。つまり1素子の大きさは髪の毛の太さよりさらに小さい。

つまり解像度は低いが、画素がめちゃくちゃに明るい極小LEDパネルといっていい。しかもサンプル回路を見る限り5V(乾電池4本)で駆動できるほど省電力だ。

中央の黄色い部分がマイクロLED。12.8×3.2mm(幅×高さ)の中にLEDが256×64ピクセル(1.6万個)並べられている。その下にある白い部分はインフィニオン社が開発したLEDドライバー。各画素のON/OFFなどを制御する

実はすでにこのマイクロLEDは、自動車用のヘッドライトとして採用されている。たとえばハイビーム(遠くまで照射)で走行中に、対向車や人を感知すると、その部分の照明を暗くして眩しさを抑え、対向車と自車のライト間にいる人が見えなくなる蒸発現象を抑え、事故防止につなげる。

蒸発効果の防止や対向車への自動防眩対策用としてポルシェのヘッドライトに採用されている。また現在は法律上実現できないが、道路への投影など汎用性は高い

配光パターンを自由に変えられることから、左右ハンドル用のヘッドライトを個別に製造する必要がなく、運転する人のポジションに合わせて光軸(どこを中心に照らすか)を、電動ドアミラーのようにスイッチで移動できるようになる。同様にしてハンドルを切るとヘッドライトの光軸を進行方向に向けるなどの利用方法がある。

そのため、自動車のナビゲーションシステムや自動運転システムと連動することにより進路を道路面に表示するなど、まさにSFの世界が現実に近づくことになるのだ。

このように見た目は1つの平面LEDパネルだが、全部で1.6万個あるLEDの1素子ごとに明るさを制御することで、液晶パネルのように図形や文字を表示することが可能になるのが特徴だ。

黄色い部分(12.8×3.2mm)の中に256×64ピクセル(1.6万個)のLEDが並べられている。1個のLEDの大きさは45μmで髪の毛より細い

このマイクロLEDは共同開発のインフィニオン社(ドイツの半導体メーカー)製コントローラに日亜製のLED発光部を背負わせた形になっており、ドライバーと発光部が一体化されてパッケージになっている。

日亜の先進商品開発本部 黒田浩章さんによれば「自動車のヘッドライト用なので横長1:4の比率や多色化、カラー化などは現時点では考えていない」という。現時点ではテレビなど映像を映し出すデバイスではなく、照明専用のデバイスとして展開していくようだ。

インフィニティ製のドライバーICの上に、日亜のマイクロLED1.6万個を背負わせて一体化している点にも注目

マイクロLEDを応用し照明機器として実装したパナソニック

車のヘッドライト用の部品を転用したとはいえ、解像度256×64ピクセル、サイズ12.8×3.2mm、アスペクト比1:4の白黒ディスプレイとも考えられる。ただ液晶やOLEDディスプレイと違うのは、画素1点の圧倒的な明るさだ。

液晶テレビのバックライトを500cd(カンデラ)/m2が標準とした場合、単純計算でm2→mm2に換算して0.0005cd/mm2となる。一方マイクロLEDの場合は83cd/mmなので約17万倍明るいという計算になる。極端な計算だが、液晶テレビに比べると桁違いの明るさということだ。

液晶テレビのバックライトを照明にすることはできないが、マイクロLED照明なら明るく文字を投影できる

パナソニックはここに目を付けてマイクロLEDを照明に適用した。解像度が256×64ピクセル(約16万個のLED)あるため、照明なのに図形や文字が描ける。さらに画素ごとに明るさに階調を付けられる(PWM制御)ので明暗の調整も可能。LEDは反応速度が速いので、高速でLEDをON/OFFすることでアニメーションすることも可能になる。

パナソニックが発表した「次世代照明器具(ダクトタイプ)」の開発中製品
マイクロLED照明で様々な表現が可能になる
マイクロLED(左)は必要な部分のみを光らせレンズも少ないので明るくエネルギーロスが少ない。プロジェクター(右)は光源に多数のレンズと遮光板を使うため暗くエネルギー効率が悪い

現状でもプロジェクターを使うと、図形や文字、アニメーションを描画できる。しかしプロジェクターは光源全体を光らせ、画像や文字を映し出すマスク(遮光板)を使うため、元の明るさより暗くなり、遮光した部分はエネルギーロスになる。

一方でマイクロLEDは、光らせたい部分だけLEDを点灯するため明るくエネルギーの効率もよい。加えて不要な部分はLEDをOFFにするので排熱も少なくなるメリットがある。実際にマイクロLEDの照明機器を触ってみたが、ほんのり温かい程度で冷却用のファンもない。つまり自然冷却できる程度しか排熱がない。かたやプロジェクターといえば、ご存じの方も多い通り電源ONからファンがまわりだし、しばらく使っていると温風が出てくるほどだ。

右側のスクリーンが専用ソフト。どのLEDをどんな形で、どのぐらいの明るさで表示するかを設定できて、アニメーションも付けられる。左側には実際のマイクロLED照明で投影したものが表示
ソフトの設定に応じて光が投影される

パナソニックの次世代LED照明は、本体にマイクロLEDとレンズ、電源と外部から操作できるインターフェイス(試作機ではWi-Fi)を組み込んでいる。また専用ソフトを開発し、画面に描いた図や文字、線をそのままマイクロLEDに投影できる。これによりお絵かきソフトで絵を描くように照明の形をデザインし、さらにアニメーションで動きを付けられるようにしている。

部屋の照明として使う場合は、水面に反射した光が揺らぐような効果を付けたり、廊下などで使う場合は避難経路の道案内を矢印とアニメーションで床に投影するといったこともできる。

いろいろな投影パターン

パナソニック公式の「マイクロLED技術応用照明」デモンストレーション映像

ここまで説明したように、1台の照明ながら光を複数に分割したり、照射範囲を変えたり、またそれに動きを付けたりといった、これまでに見たことがない照明で演出が可能になっていた。

パナソニックEW社 ソリューション開発本部 山内健太郎さんの話では「試作段階で想定価格は何とも言えないが、2024年の発売時には他の照明機器とのバランスや、購入していただける額を考慮すると20~50万円にしたい」とのことだ。

映画やアニメの世界だけだった近未来の照明が2024年に発売

今回見たのは試作機だったため、スポットライトにすると外周の色がわずかに青くなるという色収差も見られたが、デジカメなどの高い光学ノウハウも持つパナソニックなら製品化までに解消できるだろう。

試作機の映像

また、ヘッドライト用のデバイスなので発光は白しかできなかったが、赤緑青のフィルターを掛けたマイクロLED照明を3台合わせれば、カラー化も十分に考えられる。

マイクロLEDの輝度も相当に明るいが、照明器具の未来も明るく楽しいものになりそうだ。