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京セラ、長寿命で低コストな”クレイ型"リチウムイオン蓄電池を採用した、住宅用蓄電システム

 京セラは、世界初となるクレイ型リチウムイオン蓄電池の開発に成功した。合わせて、同蓄電池を内蔵した住宅用定置型蓄電システム「Enerezza(エネレッツァ)」を、2020年1月以降に少量限定で販売予定。ラインナップは、定格容量5.0kWh、10.0kWh、15.0kWhの3機種。発表会では、1月以降にパイロット生産を始動した後、同年10月には年2万台ほどの生産ラインを整えるとした。

住宅用定置型蓄電システム「Enerezza(エネレッツァ)」

 世界で初めて開発に成功したクレイ型リチウムイオン電池を搭載した蓄電システム。

 クレイ型リチウムイオン電池は、正負の電極が粘土状であることから、製造プロセスを大幅に簡素化でき、長寿命、高安全性、低コストという大きく3つの優位性を持つという。

 同システムのリモコンには、5インチのカラー液晶タッチパネルを採用。使いやすさを重視し、蓄電池の残量や太陽光発電システムの発電量など、頻繁に確認する情報が見やすいようメリハリの効いた表示を目指したとする。

リモコン
5インチのカラー液晶タッチパネルを採用
蓄電池の残量や太陽光発電システムの発電量などを見やすく表示

 また、LTE専用回線と通信モデムを標準で用意。専用サーバーへ直接接続し、個別動作の状況を把握する見守りサポートを行なうという。また、ソフトウェアのファームアップが必要になった際にも、遠隔での実施が可能とする。

 蓄電池ユニットの本体サイズは485×280×562mm(幅×奥行き×高さ)で、重さは64kg。パワーコンディショナは495×197×554mm(同)で、30kg。リモコンは170×24×151mm(同)で375g。

開発の背景

 発表会では、同社のソーラーエネルギー事業本部副本部長・小谷野 俊秀氏が、同製品の開発背景について、次のように語った。

 「大規模停電が最近の例だけでも繰り返しております。直近の千葉の例のように長期化するケースも出てきています。太陽光発電だけでも非常用電源として利用可能ですが、夜間や悪天候の時には、蓄電池との組み合わせが必須です。

 現在、30万件を超える住宅用リチウムイオン蓄電池ユーザーの多くは、東日本大震災を機に停電対策として設置いただいているのが実態です」

ソーラーエネルギー事業本部副本部長・小谷野 俊秀氏
最近の大規模災害と停電件数

 実際にリチウムイオン蓄電池の出荷台数の推移を見ると、2011年度から出荷数が急増していることがわかる。特に2017年度と2018年度を比較すると、約1.5倍となっている。同氏によれば、今年度も同じような推移が予想されているという。2020年には年間15万台、25年には25万台、30年には30万台近くまで導入が拡大されると予想する。

 また、卒FIT住宅の年度ごとの件数にも言及。住宅用の太陽光発電設備の固定価格買取制度(FIT)における、買取期間の満了に伴い、従来の売電型の市場から、エネルギー自家消費型の市場へと転換されつつあるという。

リチウムイオン蓄電池の国内出荷台数の推移
FIT買取期間終了の件数の推移

 同社の太陽光発電ユーザーの多くもこの対象となり、そうした顧客の囲い込みも重要な戦略となると語る。そして、こうした市場背景とニーズの多様化に対応した商品として、非常電源として使える高い安全性、長期利用が可能な長寿命性、発電電力を確実に充電可能な容量などをあわせ持つ、「Enerezza(エネレッツァ)」を開発したという。

非常電源として使える高い安全性、長期利用が可能な長寿命性、発電電力を確実に充電可能な容量を備えた蓄電池が求められているとする

クレイ型蓄電池とは何か? その特徴の詳細

 発表会では同社の研究開発本部エネルギーシステム研究開発部・竹下 良博氏も登壇し、今回のクレイ型蓄電池の詳細、その特徴、また今後の開発目標を語った。

 「クレイ型リチウムイオン蓄電池とは、スタックセル48枚で構成され、スタックセルの中には電池の最小単位であるユニットセルが入っています。

 このユニットセルの断面を拡大すると、正極と負極という2層の電極層があり、この2層を分けるセパレータがあります。そして正極と負極それぞれの電極材料が粘土状であることが新製品の特徴です」

 また従来型蓄電池では、バインダーという結着剤が使われているが、これが蓄電池の電極性能を阻害するという。一方のクレイ型はバインダーが不要なため、電極性能が高くなるとする。

研究開発本部エネルギーシステム研究開発部・竹下 良博氏
クレイ型蓄電池の構造
従来蓄電池との違い

 電極材料が粘土状であるために、中央のセパレータと外装フィルムだけで、正極と負極を完全に分離できるユニットセル構造が可能になった。完全に分離したことで、万が一にクラッシュ等で変形した場合でも、電極が内部でショートすることがないという。あわせて安全性の高いリン酸鉄リチウムを用いたことで、従来よりも安全性を高められたとする。

 「ユニットセル構造やリン酸鉄リチウムの採用により、高い安全性を確保できます。また、住宅用に特化した独自の電解液の設計開発を行なったことで、長寿命も実現しました。具体的には従来10年保証だったのを15年に伸ばしています」

クレイ型蓄電池の安全性について

 さらに低コスト化については、部材と製造工程の2つの低コスト化を実現する。

 「まず部材の低コスト化についてですが、従来型蓄電池では、集電箔が6枚、セパレータが5枚、さらにバインダーが必要でした。これがクレイ型蓄電池では、集電箔が2枚、セパレータが1枚、バインダーは不要となっています。その他の部材も合わせると、全体で30%の部品コスト削減が実現します」

 さらにシンプルな構造であるクレイ型蓄電池は、従来型よりも工数の削減が可能。厚塗りの電極を作る技術や工程のシンプル化を実現し、従来型よりも設備投資額を抑えられ、低コスト化に寄与するという。

蓄電池の構造比較と低コスト化

今後の開発

 開発の竹下氏は、次世代のクレイ型蓄電池の開発にも言及した。

 「今回のクレイ型蓄電池は、製造時に電解液を先混ぜします。また電極が厚く、ユニットセル構造を持っています。これに、あと1要素を加えると、非常に画期的な次世代クレイ型蓄電池が出来る可能性があります」

 具体的にあと1要素とは、今回のクレイ型蓄電池に採用しているセパレータを、「固体電解質セパレータ」に置き換えることだという。固体電解質セパレータを用いると、正極側と負極側で電解液を分けられる。そして電解液を分けられると、正極と負極、それぞれに特化した材料が使え、これまで使えなかった材料が使えるようになるとする。

次世代クレイ型蓄電池の展開

 「固体電解質セパレータにより、正極と負極のそれぞれで、電解液と電極を最適化できます。こうした技術を開発できれば、これまで実現できなかったような非常に密度の高い電池を、比較的に安価に作ることが可能になります。

 そのため、今後もクレイ型蓄電池を継続的に発展させていき、多くの製品で使われるようにしていきたいです」