ニュース

京セラ、過去最高の売上高を発表、ソーラー事業は急速なモデル転換が必要 ~決算発表会

 京セラは4月26日、2019年3月期の決算発表会を行なった。2019年3月期の売上高は前期比約3%増加の1兆6,237億円となり、2期連続で過去最高を更新した。一時損失を計上した影響があったものの、売り上げ拡大とコスト低減によって増益となった。「設備投資と、研究開発は部品事業を中心に各事業で積極的に進めた結果、前期に比べて大幅に増加した」と京セラ 代表取締役社長の谷本秀夫氏は語る。

京セラ 代表取締役社長の谷本秀夫氏
2019年3月期の決算概要

 ソーラーエネルギー事業の受注減によって生活・環境セグメントの売り上げが減少したものの、産業自動車用部品や電子デバイスの売り上げが増加。半導体関連部品および生活・環境事業が一時損失を計上したことで減益となったが、産業自動車用部品や電子デバイスの売り上げが増加し、グループ全体で増収・増益となった。

2019年3月期の事業セグメント別売上高
2019年3月期の事業セグメント別利益

2020年3月期の業績は1兆7,000億円を見込む

 2020年3月期の売上高は3期連続で過去最高となる1兆7,000億円、税引き前利益は前期比約3割の大幅増となる1,800億円を見込む。税引き前利益率は10%への回復を予測している。

 設備投資は、部品事業やドキュメントソリューション事業での生産能力増強や、生産性向上に向けた積極的な投資を継続していることから、過去最高の1,200億円を予想している。減価償却費は積極的な設備投資継続により26%増加の560億円となる見通しだ。

2020年3月期の業績予想
2020年3月期の事業セグメント別売上高予想
2020年3月期の事業セグメント別利益予想

 研究開発費は、新事業の創出や開発スピードアップに向けた体制強化を図ることから今期は約14%増の800億円となり、こちらも過去最高となる見通しになっている。

 「今期は全セグメントで増収となる見通しだが、スマートフォン市場の伸び悩みが予想されることから増収率は1桁前半にとどまる見通しだ。一方で機器・システム事業では特にドキュメントソリューションや生活・環境事業の伸びを見込んでおり、急成長が見込まれる」(谷本社長)

 今期の業績予想のポイントについて谷本社長は「市場環境の変化への対応」、「有機パッケージ、ソーラーエネルギー事業の採算改善」、「ドキュメントソリューションのさらなる事業拡大」の3つを掲げた。

2020年3月期 業績予想のポイント

 市場環境では、同社の部品事業をけん引してきたスマートフォン市場が落ち込んでいる。今後も受注は見込まれるものの、大きな成長は見込めない状況だ。しかし一方で5G(第5世代移動通信システム)がサービスインを控えて国内外通信キャリアによる投資が始まっており、「通信インフラ向けにコンデンサーなどの需要増が見込まれる」(谷本社長)という。

 また、光通信用セラミックパッケージなどは今期後半に向けて伸びる見通しで、ADAS(先進運転支援システム)関連では今期もカメラモジュールや有機基板などの需要が見込まれるとのことだ。

 有機パッケージやソーラーエネルギー事業については、前期に約685億円の一時費用を計上したが、有機材料の固定費減少やソーラーエネルギー事業における材料費低減が見込まれるだけでなく、「新たな需要創出を図ると同時に、伸びる市場に注力していく」(谷本社長)という。

 ドキュメントソリューション事業では、2019年3月期に機器・ソリューションの販売を着実に伸ばしており、谷本社長は「今期も製品ラインアップの拡充による売り上げ拡大やソリューション販売の強化、引き続き新規のM&A獲得にも注力して拡大していく」と語った。

 株主還元強化の一環として、配当方針の改定も発表した。配当は過去から段階的に引き上げており、2017年3月期以降は40%程度だったものを約10%引き上げ、2020年3月期以降は50%程度にするという。

配当方針の改定によって株主還元強化も図っていく

今後の事業拡大に向けた戦略の基本方針

 京セラは2021年3月期に売上高2兆円、税引き前利益率15%の達成を目標に掲げており、それに向けて「生産性向上やプロセス改革を進めると同時に、社内外でのシナジー追求による既存事業の拡大と新規事業の創出に務めていく」(谷本社長)という。

 2021年3月期での目標達成に向けた重点施策として、谷本社長は「事業投資に向けた積極投資の継続」、「生産性倍増プロジェクトの一層の推進」、「ソーラーエネルギー事業の事業モデルの転換」の3つを柱に掲げた。

今後の事業拡大に向けた戦略の基本方針

事業拡大に向けて積極的に投資を進める

 事業拡大に向けた積極的な投資については「注力分野でのM&Aの積極化」、「設備投資・研究開発への積極投資」、「生産拠点の拡充による生産能力増強」、「ソフトウエア、材料・デバイスの研究開発体制再編」の4つが柱になる。

 「特にM&Aは成長が期待できる注目分野で案件を獲得できている。前期にはドキュメントソリューションに加え、ファインセラミック部品では初となるM&Aや医療関連事業の海外市場への展開に着手した。ドイツのファインセラミックメーカー分野の買収では、これまで当社が保有していない製品や製造技術に加え、欧州の生産拠点を獲得できた。また、米国の医療機器メーカーから脊椎製品などの事業を譲り受けた。世界最大市場である米国での事業拡大のスピードアップを図っていく」(谷本社長)

2019年3月期に実施・決定した主なM&A案件

 M&Aに加え、設備投資や研究開発も積極的に行なっていく。設備投資額と研究開発費を合わせた事業への投資額は3年前の1,200億円台から大幅に増加し、今期は2,000億円を予想している。

設備投資・研究開発費の推移

 設備投資の一例として谷本社長は、ベトナムの工場と鹿児島県の工場の2拠点を例に挙げた。

 「京セラドキュメントソリューションズのベトナム工場はプリンターおよび関連部品の主力工場の一つとして拡張を進めており、4月には第3工場の稼働を開始する。鹿児島川内工場ではSMD(表面実装部品)セラミックパッケージやイメージセンサー用セラミックパッケージの需要増に向けて建設を進めており、本年8月に稼働を開始する予定だ」(谷本社長)

事業拡大に向けて生産拠点の拡大も図っている

 研究開発の効率化に向け、ソフトウエア研究開発拠点を神奈川県横浜市の「みなとみらいリサーチセンター」(2019年5月以降順次稼働)、材料・デバイス研究開発を京都府相良郡の「けいはんなリサーチセンター」(2019年4月名称変更・再編)の2拠点に集約する。

 「当社の多岐にわたるリソースを両拠点に集約することで総合力による新規事業の創出を図るとともに、立地の良さを生かしてオープンイノベーションと人材確保に務める」(谷本社長)

ソフトウエア、材料・デバイス研究開発の研究開発拠点を再編

生産性倍増プロジェクトをさらに推進

 2019年3月期には、ファインセラミック部品事業では自動化やAIを用いたモデルラインの構築を、ドキュメントソリューション事業では自動生産ラインの構築を進めてきた。

生産性倍増プロジェクトの進捗状況

 「前期までの取り組み成果を確認できたことから、次のステップとして他の事業部や工場へ展開していく。ファインセラミック部品では自動化やAIを活用して3つのラインを構築した。今期はさらなる部品事業への展開を進めており、現在電子部品、プリンティングデバイス、機械工具での応用展開が決まっている。ドキュメントソリューション事業では前期までに三重県の玉城工場、中国工場、大阪枚方工場で自動生産ラインを構築し稼働を開始した。今期は各工場でのラインの増設や増産体制を強化していく」(谷本社長)

 生産性倍増に向け、スマートファクトリーの早期実現に向けた取り組みも進めている。2020年4月には、生産性倍増プロジェクトを加速させる重要拠点として滋賀野洲工場に新工場棟を新設する。

自社設備の開発・製造の新拠点を2020年4月に設立し、よりスピーディーな開発体制の確立を図る

 「当社ではロボットやAIを活用した高度な生産設備を自社で開発・制作していく。新棟建設によって設備の開発・制作スペースを現在の2倍に拡張することで、別々の場所にある各部門を集約し、よりスピーディーな開発体制の確立を図る」(谷本社長)

ソーラーエネルギー事業の事業モデルの転換を図る

 2期連続で大きな損失を計上したソーラーエネルギー事業については「収益体制のために急速な事業モデルの転換が必要だ」と谷本社長は語る。

ソーラーエネルギー事業のモデル転換を図る

 「これまでの成長ドライバーは太陽電池パネルとその周辺機器だったが、需要の牽引役がFIT(太陽光発電の固定価格買取制度)から自家消費へ移行する機会を採算改善の好機として捉え、事業の再生を目指す。機器やシステム販売の拡大に加え、長期的な保守管理などのサービス事業の拡大による採算改善を図る」(谷本社長)

 その1つとなるのが、関西電力と合同で設立した京セラ関電エナジー合同会社によって2019年秋にスタートする予定の自家消費向け発電サービス事業だ。

 「お客様は初期費用なしで太陽電池を設置でき、太陽電池で発電したクリーンエネルギーが使えるという新たなスキームだ。産業用では企業の再生可能エネルギー導入を支援するサービスを開始する。さらに実証実験を進めているVPP(仮想発電所)の事業化やさらなる新製品・新技術の開発による自家消費型の事業を支えるシステムやサービス事業へと領域を拡大していく」(谷本社長)

 決算説明会では、コーポレート・ガバナンスの強化における企業経営向上に向けて「透明性の向上」、「ダイバーシティの強化」、「株主との価値共有」の3点における取り組みも説明した。

コーポレートガバナンスの強化に向けた企業経営向上における取り組み

 透明性向上においては、2018年末に役員の指名、報酬の諮問機関として過半数を社外取締役で占める指名報酬委員会を新設。ダイバーシティの強化については従来から2人の外国人取締役がいたが、今期から女性役員を任命することで、「ジェンダーでの多様性が今後経営に反映されると見込んでいる」と谷本社長は語る。併せて、ダイバーシティの推進に向けた「ダイバーシティ推進室」を2019年4月に新設した。

 株主との価値共有においては、現状では取締役報酬が基本報酬と取締役賞与による現金報酬制だが、これに加えて譲渡制限付き株式報酬制度を新たに導入することとした(2019年6月の定時株主総会に付議予定)。

コーポレートガバナンスの強化に向けた企業価値向上における取り組み

 企業価値向上に向けては株主還元強化として配当性向を従来の40%程度から50%程度へ引き上げること、キャッシュフローの一定の範囲内で自社株買いを実施することなども発表した。

 「経営指標としては従来から売上高と税引き前利益の持続的な二桁成長を目指しているが、今期より経営の効率性の判断について重視されている『ROE(自己資本利益率)』についても重要な指標と捉え、その向上を図っていく。今期も引き続き業績拡大を図るとともに、企業価値拡大を図っていく」(谷本社長)