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IFAで見た「スマートキッチン」の少し先の未来

 クックパッドで、スマートキッチンに関するプラットフォームサービス「OiCy」や関連するプロダクトの開発に取り組んでいる金子です。仕事柄、スマートキッチンに関する世界中のカンファレンスや見本市を視察しています。今回は、8月31日~9月5日に開催された欧州最大の家電見本市「IFA」を見てきましたので、その中のスマートキッチンに関するプロダクトをご紹介します。

Precision Cookingが普及へ

 今回のIFAでは、調理中の食材の状態をセンサーで把握しながら、自動で正確に火加減をコントロールする「Precision Cooking」のできる調理機器が多く出ていることが印象的でした。火加減が自動化されることで、調理経験がない人でも失敗せずに美味しい料理を作れる点が特徴です。また自動調理があれば、傍らで並行して別の料理も作れるようになります。

<AEG>

 IHクッキングヒーターと無線でつながった温度計を食材(肉)に挿しておくと、食材の温度を計測しながら最適な温度で調理してくれる調理器具です。

<パナソニック>

 こちらは温度計を挿さず、IHクッキングヒーターの表面で温度を計測する調理器具。ホットケーキ用の自動火加減コントロールを体験できました。

<Cuciniale>

 Cucinialeは、カウンタートップ型のセンサー付きIHクッキングヒーターを展示。

<Caso Design>

 Caso Designも同様に、カウンタートップ型のセンサー付きIHクッキングヒーターを展示していました。

<真空低温調理器も類似製品が登場>

 自動温度調節機能についてはこれまで、真空低温調理器は Anova、火加減を自動制御するIHクッキングヒーターはHestanやTastyが出していましたが、今回のIFAでも同様の製品が多く見られました。さらに大手家電メーカーでは、これらの製品をビルトインタイプとして展開を始めています。大手家電メーカーが参入してきたことは、これから普及していく兆しとも言えるでしょう。

 また自動調理の価値は、単に「調理を失敗しない」ということだけではありません。料理を失敗しないという前提があると、調理する肉の種類やソースの材料などを変えてみたりと、新しい料理にチャレンジする楽しさが広がるのです。

冷蔵庫の再定義

 冷蔵庫の役割は、これまで食材の保存が主でしたが、今後は食材情報をもとにして料理の体験をつなげてくれるハブへと変わりつつあります。各メーカーの冷蔵庫を見てみると、カメラを搭載しているモデルが多くあり、主にスマートフォンとの連携が訴求されていました。食材が集まり料理の起点になる冷蔵庫と情報がつながることで、未来のキッチンが変わる多くの可能性を感じました。

<ボッシュ>

 搭載するカメラで冷蔵庫内の食材を認識し、食材ごとに長持ちする保管場所をスマートフォンアプリで教えてくれる冷蔵庫。おすすめされる保管場所は、冷蔵庫内での場所にとどまらず、冷蔵庫外の場合もあるそうです。画像認識のデモが展示されていなかったため、認識精度は分かりませんでした。

<ハイセンス>

 こちらは、庫内のカメラで撮った画像から、食材を自動認識する冷蔵庫です。認識の精度については、デモ用に用意された食材も間違える場合があったので、まだ改善の余地がありそうです。

<サムスン>

 こちらの冷蔵庫も、庫内にカメラが付いていますが、食材の認識はしていません。代わりに、画面に触れて操作することで、付箋を貼るように画像に重ねて賞味期限の情報を追記できます。さらにスマートフォンアプリで、外出先からも冷蔵庫内の情報を見ることができるようになっています。

<smarter>

 「FridgeCam」は、後付け用の冷蔵庫内専用のカメラ。冷蔵庫を買い換えずに、カメラを搭載できる点は魅力ですね。専用アプリを使えば、外出先からでもスマートフォンで冷蔵庫の中を見ることができるようになります。

<冷蔵庫の今後>

 これまで見てきたように、冷蔵庫内の様子が分かり、庫内の食材をデータ化できるようになると、そのデータをもとにレシピを検索し、さらにはそのレシピの通りに調理機器を操作できるようになってきます。

 すでに、レシピにもとづいて食材を発注できるサービスも始まっていますが、届けられた食材は、現在、人の手で冷蔵庫に保管されているのが現状です。今回、私が見た範囲では1台の冷蔵庫で、庫内の食材をデータ化して、レシピ検索をしたり、調理器具を操作したり、食材を発注できるような、全てを包括した製品はありませんでしたが、冷蔵庫が新しい調理体験を作るハブになりつつあると言えるでしょう。

進むパートナーシップ

 また海外では、大手家電メーカーとレシピサービス会社との連携が進んでいるのも印象的。調理機器とレシピを連携させたデモを行なっているブースがいくつか見られました。レシピアプリで"料理の作り方ガイド"を見ながら、調理機器もレシピと連動して自動調理してくれるものまでありました。

<ボッシュは、Kitchen Stories、Drop、Innitなどと連携>

 ボッシュは家電を操作するためのAPI(Application Programming Interface)を既に公開しているため、各サービスとの連携で他社よりも一歩進んでいる状況でした。既にKitchen Storiesはボッシュに買収されていますし、DropやInnitとの連携もスタートしています。

<LGエレクトロニクスは、InnitとGoogle Assistantと連携>

 LGエレクトロニクスは、画面付きGoogle Homeデバイスに話し掛けると、Innitで検索して、レシピや作り方の動画を見ることができるサービスを展示していました。また、オーブンの操作を音声で行うこともできます。

<エレクトロラックスは、Innitとソニーと連携>

 エレクトロラックスのブースでは、ソニーのXperia Touchで調理台にInnitアプリを投影し、調理台でアプリを操作し、レシピを選んだり、オーブンを操作したりできるデモを展示していました。

未来のキッチンコンセプト

 またボッシュのブースでは、少し未来のキッチンのコンセプトも展示されていました。

<プロジェクションを活用した料理体験>

 PAI(Projection And Interaction)という名の展示は、訳すと「プロジェクションを活用した料理体験」ということになるでしょうか。Amazon EchoやGoogle Homeなどのスマートスピーカーにも、ディスプレイ付きのモデルが登場しつつありますが、ディスプレイは表示できる位置や表現が限られるのが難点。このデモは、ディスプレイの代わりにプロジェクションを使うことで、調理台にレシピを表示したり、食材の上に直接情報を表示したりして料理をサポートしてくれるというものでした。

<画面付きスマートスピーカー「Mykie」>

 こちらは、画面付きスマートスピーカーの「Mykie」。スマートキッチンのコーナーに展示されていたキッチンアシスタントとのことですが、実際に動作するデモはありませんでした。Mykieがアシストしてくれる調理体験がどんなものになるのか、実現する日が楽しみですね。

その他の注目技術・新アイデア

<ミーレ>

 高周波(Radio Frequency)の電磁波を使ったオーブンレンジ「ダイアログオーブン」。従来の水分子を振動させる電子レンジと異なり、食材ごとに適切な電磁波を当てることができるため"ダイアログ"の名が付いています。そのため、加熱しすぎや加熱ムラのない調理が可能となります。庫内にアンテナを搭載し、異なる周波数の電磁波を送信するだけでなく、各食材の受信レベルを検知することでエネルギーの吸収率を判断し、最適な周波数の電磁波を見つけて照射するのだそうです。

 調理デモが行なわれていたので、試食してみました。魚も野菜も、適温で美味しく調理されていました。とはいえ価格は8,000ユーロ(約100万円)で、一般家庭に入るのはまだまだ先になりそうです。

 こちらは、天板のどこにでも鍋を置けるIHクッキングヒーターです。調理器具の置き場所が自由なことに加えて、途中で鍋を移動させても熱源が追従してくれるのも特徴。写真右側の細長いグリルパンは、斜めにおいても問題なく加熱してくれます。仕組みとしては、センサーで鍋の形と温度を読み取って識別しているとのこと。温度も測っているため、同じ大きさの鍋が複数あっても個別に追従することができるということです。

<ハイアール>

 ハイアールのこちらは、一見「食器洗い機」ですが、なんと食材も洗えるという「食材洗浄機」兼用もの。確かに同じ仕組みで洗えそうですね。中国では食材を洗剤で洗うと聞いたことがあるので、食洗機で食材を洗うニーズはあるのかもしれません。

<総括>
 「家庭で料理をしない」という選択肢も広がる中で、料理のスキルや経験がなくても調理できるように支援してくれる製品が着実に増えているという印象を、今回のIFAでは受けました。「スマート調理機器」というと、美味しい料理を楽に作れるようにすることが目的に見えますが、同時にこれは手段でもあり、新しい料理にチャレンジしたくなる、ワクワクする環境を創り出しているとも言えるでしょう。調理機器による物理的なサポートに加えて、アプリやサービスとも連携することで、今後どのような料理体験が生まれるか、引き続き注目していきます。