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ロボット義足や複数人でVR映像を楽しむスクリーンなど。ダイソンの学生アワード受賞作が勢揃い

 ダイソンは、同社が提携している教育慈善団体 ジェームズ ダイソン財団(英国ウィルトシャー州マルムズベリー)主催の、「日常の問題を解決するアイデア」をテーマにした、国際エンジニアリングアワード「ジェームズ ダイソン アワード 2017」(James Dyson Award、以下JDA)の選考結果を発表した。同コンテストは、2006年から毎年開催され今年で12年目を迎える。

国際エンジニアリングアワード「ジェームズ ダイソン アワード 2017」日本国内の審査を通過した受賞者

 JDAは、エンジニアリングやデザインを専攻している学生(専門学校、高等専門学校、短期大学、大学、大学院)、または卒業後4年以内の人を対象にした、国際エンジニアリングアワード。国際最優秀賞の受賞者には賞金3万ポンド(約435万円)が贈られ、未来のデザインエンジニアを称え、育成支援するという。

 テーマは毎年共通で、「日常の問題を解決するアイデア」としている。今年は23カ国から、過去最多となる1,027作品のエントリーがあった。国際選考は、参加23カ国からそれぞれノミネートされた上位5作品が審査され、国際審査においてTOP20が決定する。

今年は23カ国から、1,027作品のエントリーがあった

国際最優秀賞はカナダの学生4名。皮膚がんの一種であるメラノーマ診断機器を開発

 国際最優秀賞に輝いたのは、カナダのマックマスター大学工学部の学生4名が取り組んだ、皮膚がんの一種であるメラノーマを低コストで診断できる携帯機器「sKan(スキャン)」。最終審査員である、ダイソン創業者のジェームズ ダイソンによって選出された。

 メラノーマは、悪性黒色腫とも呼ばれ、欧米人に多く見られる皮膚がんの一種。通常は早期の診断と治療によって治癒できるが、毎年何万人も命を落としているという。早期診断は目視による検査が多いため精密ではなく、先進的な診断法の場合は時間が掛かる上に高額といった問題を抱えている。

国際最優秀賞は、メラノーマ診断機器「sKan(スキャン)」

 今回、最優秀賞を受賞したメラノーマ診断用携帯機器「sKan」は、精度が高く安価な温度センサーであるサーミスタを搭載。がん細胞は正常な細胞に比べて代謝率が高く、より多くの熱を放出するという特性を持っている。例えば氷のうなどによって熱衝撃を加えた場合、がん組織は非がん組織よりも速やかに熱を回復するという。

 sKanはこの特性を利用し、サーミスタを対象部位に当てて温度変化を見ることで、メラノーマが存在するかを判定する。サーミスタによる読み取りはデジタル化され、ヒートマップおよび温度差の時系列プロットとして表示され、メラノーマを識別する。

 低コストを実現した点も特徴。現在、医療現場で使われている高解像度の熱探知カメラを用いたメラノーマ診断の費用は20,000ポンド(約26,766ドル)以上だが、sKanに掛かるコストは1,000ドル未満と予測されている。今後、開発チームは獲得した賞金を用いて、機器の改良を続け、世界中の医療現場で使われることを目標にするという。

皮膚がんの一種であるメラノーマは、悪性黒色腫とも呼ばれている

国内最優秀賞は、電動アシスト機能を備えたロボット義足「サニー」

 12月6日には、日本国内審査においてTOP5に選出された作品の表彰式を開催。受賞者のほか、審査員を務めたフリージャーナリストの林信行氏と、デザインエンジニアの緒方壽人が登壇した。

国内審査を通過した作品の表彰式を開催

 国内最優秀賞は、歩行に合わせて独自制御するロボット義足「SuKnee(サニー)」を開発した、東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 孫 小軍氏を中心とした3名のチーム。

 開発の中心となった孫氏は、9歳のときに病気で右足を切断し、現在は義足で生活。その中で、既存の義足は動力を持たず、膝関節の自律的屈伸ができない、疲れやすい、つまずいたときに反発できず転びやすいなど、日常の問題を抱えていたという。

 開発した「サニー」では、生体メカニズムに基づき、ロボット技術と人間の筋肉を模倣する独自のアクチュエータを開発・融合。これにより、軽量・コンパクトかつ電動アシスト機能を備えた義足を実現し、ひざの伸展・屈曲・椅子からの規律、階段の昇降などをアシストできるという。転倒防止や疲れにくい、自然で安全な歩行が可能になるとしている。

ロボット義足「SuKnee(サニー)」
従来の義足(左)は椅子から立ち上がるのも一苦労、ロボット義足(右)はアシスト機能を備え、疲れにくいという

 表彰式に登壇した孫氏は、今回JDAに応募した経緯について次のようにコメントした。

 「応募した理由は3つあります。1つは、大学で研究をしていると論文を出して終わりということがよくあり、実際にモノを作って世の中に出したいという思いがあったからです。2つめは、2013年にJDAで国際準優秀賞を獲得した義手『exiii(イクシー)』の存在です。日本チームが開発し、その後も普及に取り組む姿を見て、義足も同じように世の中に広めていきたいと思いました。そして3つめは賞金です。モノづくりはお金がないとできないので、国際最優秀賞の435万円という賞金はとても魅力的でした」

東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 孫 小軍氏
孫氏自身も義足で生活している

 このほか、国内審査を通過した4作品は以下の通り。

窓に取り付けられるソーラーパネル「Digital Garden」

 国内第2位は、窓に取り付け可能な折り紙工学ソーラーパネル「Digital Garden」。東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 修了 オーストラリア出身のプロダクトデザイナー ベン バーウィック氏が開発した。

 都心に多い集合住宅は、ソーラーパネルを使用する選択や動機がなく、なかなか普及しないという問題を解決するために開発したという。窓に取り付け、太陽光が跳ね返るごとにエネルギー資源として発電できる仕組みで、パネルの照り返しによって部屋の内部まで照らすという。

窓に取り付けられるソーラーパネル「Digital Garden」
雪上で走行できる電動スケートボード「Cuboard」

 国内第3位は、雪上で走行できる電動スケートボード「Cuboard」。長岡技術科学大学大学院 在籍 兼 (株)CuboRex 代表取締役社長 寺嶋 瑞仁氏を中心にしたチームで開発した。

電動スケートボード「Cuboard」
電動クローラ機構とボードで構成

 雪国にある長岡技術科学大学に在籍する寺嶋氏は、積雪の影響で自転車やバイクが使えず、移動手段が車しかないことに着目。雪が積もった歩道での走行を可能にする電動クローラ機構を備えた電動スケートボードで、雪国での車移動への依存度を減らし、快適な移動を実現するという。

 雪が積もった歩道以外にも砂利道や階段、さらには水中まで走行可能で、雪国以外にもさまざまな場所での使用を想定。また、クローラの上にはスケートボード以外に、キャリーバッグや雪ぞりにも装着可能としている。

砂利道や水中でも走行できる
クローラユニットの上に、キャリーバッグや雪ぞりも装着可能
遠隔操作できる電動車椅子「Telewheelchair」

 国内第4位は、360度カメラを搭載し、遠隔操作機能とAIを備えた電動車椅子「Telewheelchair」。筑波大学大学院 在席 橋爪 智氏を中心としたチームで開発。

 360度カメラと遠隔操作、AI搭載により、介護者が不在でも車椅子を安全に走行できるという。人や障害物を検知すると停止し、運転補助機能を備える。

電動車椅子「Telewheelchair」
運転補助機能を備え、介護者が不在でも安全に走行できるという
ゴーグルを装着しなくてもVR体験できる「Reverse CAVE」

 国内第5位は、VR体験をリアルタイムで他者と共有できる「Reverse CAVE」。筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 石井 晃氏を中心としたチームで開発した。

 開発背景として、VR体験はディスプレイ装置となるゴーグル(HMD)を頭部に装着した人間のみ楽しむことができ、周囲にいる人間とその体験を共有できないという問題に着目。

 Reverse CAVEは、半透明スクリーンと多数のプロジェクターなどで構築されたシステムで、プレイヤーとVR空間の位置関係を保ったまま、リアルタイムにプライヤーが見ている映像がスクリーンへと投影される。半透明スクリーンは、蚊帳や網戸を使ったという。

VR体験システム「Reverse CAVE」。半透明スクリーンとプロジェクターを設置し、ゴーグルを装着しなくても映像を共有できる
通常のVR体験は、ゴーグルを装着した人しか楽しめないという点に着目
蚊帳などの半透明スクリーンとプロジェクターで構成

 なお、国内選考を通過した5作品の中で、国際TOP20に選ばれたのは、ロボット義足「SuKnee」、電動スケートボード「Cuboard」、電動車椅子「Telewheelchair」の3作品。