デザインの祭典「ミラノサローネ」が開幕

~ミラノ市内では日本関連の展示が1日早くスタート

世界最大級、デザインの複合イベント

 世界最大のデザインの祭典、ミラノサローネ(正式名称「I Saloni Milano」)が現地時間4月22日から開幕する。

日本関連の展示が集まったトリエンナーレ美術館

 ミラノサローネは毎年30万人前後が参加する世界最大規模のデザインイベントだ(2008年の参加者は35万人)。一口にミラノサローネと言っても、実際には多数のイベントの複合イベントになっている。

 中心となるのは、ミラノの郊外、ロー市にある東京ドーム11個分の広さを持つ巨大展示会場、「新見本市会場」(Fiera Milano Nuovo Quartiere)で行なわれる「サローネ国際家具見本市(Salone Internazionale del Mobile)」と「サローネ国際インテリア小物見本市 (International Furnishing Accessories Exhibition)」、そして多くの新人デザイナーが展示を行なう「サローネ・サテリテ(SaloneSattelite)」という3つのイベントだが、それに加えて今年は隔年開催の照明機器のイベント「Euroluce(サローネ国際照明機器見本市)」も開催される(昨年はサローネ国際キッチン見本市やサローネ国際オフィス見本市、サローネ国際バス・トイレタリー見本市が開催された)。

 これだけでも、すべてを見ようとするとまるまる1週間はかかる、かなり大規模なイベントだが、実はミラノサローネの目玉はこの見本市会場の外にある。

 FuoriSalone(場外サローネ)と呼ばれるイベントが、ミラノ市内の500カ所近くのインテリアショップ、美術館、空きビル、展示会場などで行なわれているのだ。

 多くの場外サローネ、イベントはイタリアのデザイン雑誌「INTERNI」が、まとめて公式ガイドに記しているが、このガイドに載っている展示会場だけでも450個近くある。

 最近ではビジネス色が濃い見本市会場よりも、企業やデザイナーのプレゼンテーションの場として、自由で面白い展示が見られる場外サローネの方が注目度が高いことから、場外サローネを中心としたイベントを指して「Milano Design Week」と呼ぶ人も多い。

 ちなみにミラノ市内では、Euroluceの開催にあわせてか、街のいたるところで光のオブジェが飾られており、普段はクリスマスのときくらいしか行なわれないスフォルツェスコ城もライティングされている。

 蛇足だが、今年のINTERNI誌は、世界のインターネットトレンドにのっとって、パソコン用Webサイトだけでなく、iPhone/iPod touch用Webサイト、そして世界で2番目に大きいSNS、facebookのコミュニティーでもイベントの案内を行なっている。

トリエンナーレに日本デザインが集結

 ミラノサローネ本編の開催は22日からだが、ミラノ市内では、既にいくつかの場外サローネイベントがスタートしている(ミラノ市内を歩いていると、明日の開幕にあわせて準備を急いでいるインテリアショップが目立つ)。

 もっとも、大掛かりな前日イベントが行なわれていたのは、ミラノ市民の憩いの場、センピオーネ公園内にある美術館、トリエンナーレだ。同会場、昨年はフランスのデザインの展示が中心に行なわれていたが、今年は日本勢の展示が目立った。

 「グッドデザイン賞」を主催する財団法人日本産業デザイン振興会が、49社によるグッドデザイン受賞製品80点を集めた「Japan Design Selection 2009」というイベントを開催していたほか、キヤノンが毎年恒例となっている新しい感性の世界を追求する「NEOREAL」展、そして日本を代表するデザイナーらが日本の人口繊維のさまざまな応用を提案する「TOKYO FIBER '09 SENSEWARE」の3つの日本関連の展示が行なわれていた(他にイタリアのタイル会社の展示などもある)。

 また、同美術館から2Kmほど東にあるムゼオ・デッラ・ペルマネンテでは、トヨタの高級ブランド「レクサス」が毎年行なっている「L-finesse」展のプレス内覧会が開催された。

 以下で、上記各イベントの様子を簡単に紹介しよう。

トリエンナーレ美術館。昨年は庭なども使って多数のミラノサローネ関連の展示が行なわれていたが、今年は1階は「Japan Design Selection 2009」以外の展示が3つ、2階が「NEO REAL展」、「TOKYO FIBER '09」の他の展示が3つで、後は通常の美術展が行なわれているようだ

日本の最先端と伝統が垣間見える「Japan Design Selection 2009」

 世界のトップデザイナーらが腕を振るうミラノサローネだが、ここ数年は日本のデザインが特に高い注目を集めている。

 日本産業デザイン振興会主催の「Japan Design Selection」も、2006年、2008年のミラノサローネでのべ3万人を集めた超人気のイベントの1つだ。今年はトリエンナーレ美術館1階の大きな展示室Galleria Architectture Bと、その横の長い廊下を使って、ハイセンス・ハイテクノロジー・ハイブランドに裏打ちされた日本発の価値あるプロダクトを「イノベーション」と「トラディション」という視点で紹介している。

入り口からギャラリーまでの長い廊下に過去のGマーク受賞作品が並べられたJapan Design Selection '09展。日本のこれまでの歩みと最新の日本を同時に知ることができる

 総合ディレクターは、グッドデザイン賞審査委員長としても知られる喜多俊之氏。

 日本でも発表されたばかりのKDDIの「G9」を含むIIDAシリーズや昨年のCEATECに展示されたau design projectのコンセプトモデルを展示していた他、FUJITSUも間もなく商品化予定の商品を展示。またアノドスの「anobar」も出品されていた。これはテレビの脇に置いて、テレビの放送と2ちゃんねる実況中継板によるテレビの実況中継を同時に楽しめる(ニュースやTwitterなども表示可能)家庭用電光掲示板商品で、こうした展示会への出品は初めて、とのこと。

 日本を代表する最先端のテクノロジー展示があると思えば、伝統的商品の中に工夫を盛り込んだ展示も多い。

 TOTOは、どんなシーンにもマッチする洗練されたデザインの自動水栓「アクアオート・エコ」を展示。吐水の水流を利用した「自己発電システム」の搭載している。

 トヨタは、環境・エネルギー問題に向け開発した全長2,985mmのコンパクトなボディに4人乗車可能な超高効率パッケージの車「iQ」を展示していた。

 ほかにもアイシン精機の家庭用ミシン「SPAシリーズ」、TOA株式会社の「メガホン」、三洋電機の「ソーラー充電器セット N-SC1S」なども展示され、ヨーロッパのプレスから大きな関心を集めていた。

テレビの脇に置いて、インターネットから送られてくるさまざまな情報を表示してくれるアノドスのanobar。これまで積極的な広報活動は行なっておらず日本の雑誌でも紹介されたことがないというが、ミラノサローネでいきなり海外デビューを果たしたKDDIは昨年のCEATECで展示されていたau design projectのコンセプトモデルを中心に展示。もちろん、先日発表されたばかりのiidaプロジェクト「G9」も展示されている富士通は昨年のCEATECで展示されていたマグネットでくっつけたりバラシタリしたりできるstyle free携帯の他にもいくつかのコンセプトモデルを展示
吐水の水流を利用した「自己発電システム」を備えたTOTOの自動水栓「アクアオート・エコ」アイシン精機株式会社の家庭用ミシン「SPAシリーズ」

非現実と現実の境目が消失、NEO REAL展

 キヤノンは世界をリードするデジタルイメージングカンパニーとして、新進の日本人クリエイターとともに、新しい感性の世界を追求する「NEOREAL」展を開催した。

 同展では「animated knot」、「Aquatic Colors」、の3つの展示を用意。

 平田晃久氏による「animated knot」は、1本の紐をねじり、くぐらせしてできた幾何学的形を200平方mの空間に展開。そこに布を張り、松尾高弘氏の映像作品「Aquatic Colors」を映し出していた。

 部屋にあるのは、幾何学的図形とそこに映し出された鑑賞者の身体動作に共鳴するように近づくクラゲの映像とどちらも人工物ながら、まるでクラゲの泳ぐ水槽の中に入って行ったかのような幻想的な雰囲気を楽しむことができた。

200平方mの部屋に1本の紐をねじり、くぐらせ、その間に布を貼ってつくったanimated knots。ここにAquatic Colorsのクラゲの映像が浮かび上がると、まるで海の底を歩いているような気分になる

 一方、キヤノンデザイン製作の「_O_N_L_I_N_E_」はキヤノン製のプロ用ビデオカメラで撮影した鑑賞者を瞬時に線画のアニメーションに変換してしまう作品で、まるで自分が影が壁の中で勝手に動き出したかの用な錯覚を覚えた。

ビデオカメラで撮影された自分のシルエットが、リアルタイムで加工されアニメ表示される。来場するイタリア人は、ノリよくカメラの前で踊ってくれるそうだ

日本を代表するデザイナー集結の注目イベント、TOKYO FIBER '09

 トリエンナーレ美術館の2階のかなり広い展示会場を使って開催されているのが「TOKYO FIBER '09 SENSEWARE」だ。

 参加企業・団体は旭化成株式会社、株式会社クラレ、帝人株式会社、東洋紡績株式会社、東レ株式会社、三菱レイヨン株式会社、ユニチカ株式会社、サカセアドテック株式会社、日本絹人繊織物工業組合連合会と大手だらけなら、それらの企業の製品を楽しめる作品にしあげた参加作家も建築家の青木淳氏や隈研吾氏、坂 茂氏、デザイナーで建築家のグエナエル・ニコラ氏、アートディレクターの佐藤可士和氏、アーティストの鈴木康広氏、デザインオフィスのnendo、フラワーアーティストの東 信氏、ファッションデザイナーの津村耕佑氏といった有名人ばかりで、デザイナーの原研哉氏が展覧会ディレクターを務めている。

 広い展覧会場には人の影が浮かび上がるファイバーブロック「CON/FIBER」(隈研吾氏×三菱レイヨンの光ファイバーエスカ)や人が歩く方向を検知してそれと逆方向に動く(つまり人はどんなに歩いても、ずっと定位置に立っていることになる)「ROBOT TILE」(筑波大学大学院教授の岩田洋夫氏×クラレの導電繊維クラロンEC)、近寄ってきた人に反応して光る「MIST BENCH」(グエナエル・ニコラ×三菱レイヨンの光ファイバーエスカ)、そしてなんといっても圧巻の真っ黒の布に水滴でSENSEWARE 09のロゴが浮かび上がる「WATER LOGO '09」(日本デザインセンター原デザイン研究所+アトリエオモヤ × ユニチカ株式会社の超撥水織物)と、おもしろい展示が目白押しだ。

 家電Watchの本来のテーマである照明に関する展示も多いので、本展に関しては後日、さらに詳しくレポートをしたい。

ただの光ファイバーでつくられたブロックに人の影が浮かび上がる。裏側を覗いてみても誰もいない。あえて平面ではなく立体的なブロックに影を投影することで、影の存在感が際立っているタイルの上に立って、前にあるタイルに足を踏み出すと、進んだ分だけタイルが後ろに戻る。例えば仮想空間を歩き回るインターフェースなどに応用できそうだ。
「MIST BENCH」。人が近づくと、近づいた部分が明るく「どうぞお座りください」と囁きかけるように灯る、光ファイバーのベンチ「WATER LOGO '09」。黒い布にどこからともなく水滴のロゴが浮かび上がったかと思うと、今度はその水滴が転がり落ちるように流れて消えて行く。水滴のマジックショーのようで見ていて飽きない

風のようにしなやか、L-finesse展

 トリエンナーレから歩いて約30分、ムゼオ・デッラ・ペルマネンテでは、LEXUSが2005年から行なっている展覧会、L-finesseが開催された。

 「L-finesse」とは、最先端(Leading-Edge)であると同時に、洗練された深み(finesse)を併せ持つというLexusのデザイン哲学。

 今年の「L-finesse」展はL-finesseの二律双生の哲学と、レクサスの研ぎすまされたダイナミズムを「結晶化した風(Crystallised Wind)」というコンセプトで表現した。

暗闇に浮かび上がるスポーツカーコンセプトLF-Aの1/1モデルと、その勇士を見守るように並べられた波打つような表面のベンチ

 コラボレーションアーティストは新進気鋭の建築家、藤本壮介氏。

 展示場は波打つような形状のガラスでつくられたベンチで囲まれた奥にレクサスのスポーツカーコンセプトLF-Aをモチーフにした1/1サイズのオブジェが置かれ、そこに時折、音と連動した青い照明が当たっては車体のディテールを浮かび上がらせていた。

 ガラスのベンチは、バラバラのガラス板をあわせたようで、なぜかしっくりと自然な印象を与えるが、実はこれ元々は1枚の波打つガラス板だったものを5つのピースに分断し、それを組み合わせてベンチにしている。つまり、1つ1つのベンチは同じガラス板から取られたピースでつくられているために、別々の5枚の板のように見えて、どこかしっくりと来る一体感が得られていたようだ。

5枚の波打つガラス板でつくられたベンチ。バラバラなようでいて、どこかしっくりとくる一体感をかもしだしているのは、これらが元々1枚のガラス板だったからだ

 本前日レポートは、現地時間の午前4時頃に書いているが、ミラノ市内では、まだそこかしこで後、数時間後に迫ったミラノサローネ開幕の準備で突貫工事をしている音が聴こえてくる。

 デザインの力が世界を襲う不景気に風穴を開けてくれるのか。明日は本会場、Rho Fieraからのレポートをお届けしたい。



(林 信行)

2009年4月22日 19:02