【特別企画】

5分でわかるイマドキの空気清浄機事情

by 大河原 克行


この冬注目の「空気清浄機」、果たしてどれを選べば良い?


一部店舗では品薄も続く空気清浄機。どれを選べば良いか迷うところだ(写真はビックカメラ有楽町店)
 空気清浄機に対する関心が日増しに高まっている。量販店店頭でも空気清浄機売り場を拡張する店舗が増加。一部製品では、品薄が続くという状況だ。

 だが、数多くの機種がラインアップされるなか、果たしてどれを選んだらいいの迷うところだ。

 空気清浄機の基本的な機能を簡単に説明すると、空気中のホコリや花粉、ダニのふんをはじとめするアレル物質、たばこの煙などを吸塵、これをフィルターで漉して、きれいな空気として放出するというものだ。この点については、フィルターの方式や吸い込み口の場所などに若干の違いはあるものの、基本構造は一緒だ。吸引するダクトを拡大したり、空気の流れを利用して吸引しやすくするなどの工夫が凝らされている。

 最近では、こうした空気清浄機の基本機能に加え、加湿機能を搭載したモデルが増加、主流となっている。各社ごとに加湿用フィルターの設計や、加湿コントロールのノウハウには違いがあるが、いずれも風邪予防に効果があるという観点から、注力している技術といえる。


独自の“ウイルス抑制技術”が製品選びのポイントに

空気清浄機選びのポイントとなるのが、ウイルスを抑制する技術(写真はシャープのプラズマクラスターイオンが、ウイルスを分解する仕組み)
 その一方で、最近ではメーカー各社の差別化ポイントとして、イオンなどによってウイルス表面のたんぱく質を破壊し、ウイルスを抑制する技術が重要な機能となりつつある。

 このウイルス抑制技術は、各社がそれぞれに独自の技術を採用している点が特徴となる。シャープであれば「プラズマクラスターイオン」、パナソニックは「nonoe(ナノイー)」、三洋電機は「ウイルスウォッシャー」、ダイキン工業の「光速ストリーマ」といったように、技術の名称とそれぞれのロゴマークを用意。訴求力向上に向けたブランディング戦略にも余念がない。

 空気清浄機で最大のシェアを誇るシャープでは、プラズマクラスターイオンという技術を採用している。これは、放電電極にプラスとマイナスの電圧をかけ、空気中の水分子と酸素分子を電気的に分解し、水素のプラスイオンと酸素のマイナスイオンを作りだすというもの。このプラスとマイナスのイオンが、浮遊ウイルスの表面を取り囲み、浮遊ウイルスの表面で反応。強力な活性物であるOHラジカルに変化することで、ウイルス表面のたんぱく質から水素を抜き取り破壊。同様に、菌やニオイ成分に対しても除菌/脱臭効果をもたらすという仕組みだ。

 パナソニックの「ナノイー」技術は、空気中の水分に高電圧をかけることで、水に包まれた5~20nm(ナノm。1nmは 0.000001mm)の微細なイオンを生成、放出するというもの。マイナスイオンに比べて水分量が1,000倍と多く、寿命も約6倍も長いことから、酸素や窒素とは結合せずにウイルスに届きやすいという。こちらもプラズマクラスターイオンと同様、ウイルスや菌の表面の水素分子を抜き取り、除去するというものになる。

シャープのウイルス抑制技術は「プラズマクラスターイオン」。プラスとマイナスのイオンを放出し、ウイルス表面の水素を抜き取る。今年はパーソナルルーム向けの製品も投入したパナソニックは、水に包まれたイオンを放出する「ナノイー」技術を採用。ドライヤーや美顔器など、理美容製品にも採用されている

 三洋電機の「ウイルスウォッシャー」は、水道水を電気分解することで「次亜塩素酸」と「OHラジカル」という2種類の活性酸素を含む電解水を生成。この電解水を空中に放出することで、2つの活性酸素がウイルスを取り囲み、ウイルス表面のたんぱく質を分解、無力化する。一般家庭で使用される空気清浄機は、電解水のミストを空気中に放出する「除菌電解ミスト方式」だが、業務用など大型の機器では、電解水を含ませた「除菌エレメント」というフィルターに空気を通す構造を採用しているという違いがある。

 ダイキン工業の「光速ストリーマ」技術は、空気中にイオンなどを放出せず、本体内で除菌する“吸い込み型”となる点が特徴。本体内部の「ストリーマ放電」により放出した高速電子が、空気中の窒素や酸素と衝突・合体することで、強力な活性種に変化。この活性種が、本体内に吸い込んだ空気中に含まれるウイルスや菌、アレル物質の表面のタンパク質を分解するという仕組みだ。今年の空気清浄機では、ストリーマユニットの電流値を37μAから55.5μAへアップしたことにより、ウイルスの分解・除去スピードが従来と比べて約4倍にアップしている。

三洋は、水道水を利用した「ウイルスウォッシャー技術」を採用。業務用の製品では、病院や映画館でも採用例があるダイキンの「光速ストリーマ」は、唯一本体内で除菌するタイプ。カラーにはホワイトのほかピンク、ブラウンも備えている

“新型インフルエンザに対する効果”が相次いで発表

各社とも、新型インフルエンザウイルスに対する効果を、第三者機関と連携して発表している(写真は三洋電機)
 ここにきて空気清浄機が注目を集めている背景には、これら各社のイオン技術が、相次いで新型インフルエンザウイルスに対して効果があると、第三者機関の実証実験で証明されているからだ。

 これらのウイルス抑制技術は、その効果について各社が第三者機関と協力して調査を行なっている。

 シャープは第三者機関により効果を明らかにする手法を「アカデミックマーケティング」と呼び、2000年より、H5N1型トリインフルエンザ、H1N1型ヒトインフルエンザ、ネココロナウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、SARSウイルスの抑制効果を実証している。付着した場合の抑制効果だけでなく、浮遊しているウイルスの抑制効果にも踏み出しているのが特徴だ。パナソニックや三洋電機、ダイキン工業も同様に、各種ウイルスに対する抑制効果について、第三者機関と協力した実験結果を公表している。

 そんな中、三洋電機は8月18日、ウイルスウォッシャー技術が新型インフルエンザウイルスに対して99.9%の抑制効果があることを、群馬県衛生環境研究所との共同で世界で初めて実証したと発表。翌月の9月15日には、ダイキン工業がストリーマ放電技術において100%の分解・除去効果を、ベトナム国立衛生疫学研究所と共同で実証したと発表した。

 さらに10月20日には、パナソニック電工がナノイー技術で99%の抑制効果があると、帯広畜産大学大動物特殊疾病研究センターと共同で実証。11月2日には、シャープがプラズマクラスター技術において、浮遊するウイルスを約10分間で99.9%分解、除去することを、英ロンドン大学のジョン・オックスフォード教授が設立したレトロスクリーン・バイロロジー社にて実証した。


実験結果通りの効果が、製品そのものの実力ではない

 ただし、ひとつ注意しておかなくてはならない点がある。それは、今回の新型インフルエンザウイルスの抑制の効果や、これまでに第三者機関と共同で実験した鳥インフルエンザやノロウイルスの抑制効果は、そのほとんどが空気清浄機の製品そのものの性能を、直接表したものではないといことだ。

 例えば、実験に使用されているデバイスは、実際の製品に使われているものよりもイオン放出濃度が高いものであったり、実験用に使用されている空間が、1立法メールや3畳程度の広さに限定されており、日常的に空気清浄機が設置されるリビングなどの実使用環境とは異なるケースがほとんど。カタログやWeb、あるいはニュースリリースでもその点は表記されているのだが、つい忘れがちなところではある。

 また、当たり前のことだが、新型インフルエンザウイルスに100%や99.9%の抑制効果が唱われていても、各社の空気清浄機を購入すれば、新型インフルエンザにはかからないということはない。当然ながら、ワクチンや手洗い、隔離といった新型インフルエンザ対策の1つの手段であることを知っておくべきだ。

 もちろん、空気清浄機がインフルエンザに無力であるということではない。その性能の限界を知った上で、インフルエンザのひとつの対抗策として、正しく利用するように心がけたいものだ。


2009年11月30日 00:00