やじうまミニレビュー
ソニー「ICF-51」
■大切なのに軽視されるラジオ機能
ソニー「ICF-51」 |
今日は防災用品としてのラジオについて、ちょっとお話させていただきたい。
東日本大震災の影響で、家電量販店やディスカウントショップでは、防災グッズコーナーを常設するところが増えた。それ自体は良いことなのだが、そのコーナーに置かれているグッズで1つ気になる点があるのだ。
それはラジオの品質だ。こういう防災用品のコーナーで売られているラジオは、海外メーカー製の手回し発電機能付きラジオが多い。いわゆる避難セットのようなセット商品に入っているラジオも同様だ。しかし、この手の安価な手回し発電機能付きラジオの多くは、ラジオ自体の機能を重視していない。中には、ラジオはLEDライトのおまけぐらいに考えているんじゃないかと思いたくなるような製品もある。
これまで多くの手回し発電機能付きラジオを試してきたが、こんな例があった。
1)そもそも受信感度が低い。
周辺状況が良いのに、NHK第一放送とTBSの2局しかAM放送が受信できないという例もあった。
2)FM放送が受信できるのにロッドアンテナ(伸びるアンテナ)が装備されていない。
受信感度が低く、ビル内などで受信できない場合がある。
3)アナログ式のチューナーで、バンド全体が選局ダイヤル1回転以下に割り付けられていて選局が難しい。
細かい選局ができず、目的の放送局を受信するのに苦労する
選局ダイヤルの例1。FMの受信周波数である76~90MHzの部分が狭い角度に割り当てられているので、選局しにくい | 選局ダイヤルの例2。こちらは更にダイヤルの角度が限られている |
4)充電式の電池を使っているが、電池の容量が少なく、満充電時でもラジオ放送が6時間しか聞けない。
長期的に停電していて充電できないと、ラジオが受信できなくなる。かと言って、手回し発電に頼ると、ハンドルを長時間回さないとラジオが聞けない。
ラジオが懐中電灯と共に、防災用品の主役である理由は、情報源を確保するためだ。しかし、多くの製品では、ラジオの基本性能が軽視されていると感じる。すでに、お手元に防災用ラジオを用意している方は、一度、使ってみて確認することをお勧めしたい。
というわけで、手回し発電機能付きラジオとは別に、もう1台イザというときに、ちゃんと頼れるラジオがあった方が良い。今回は、現時点で推薦する機種としてソニーの「ICF-51」を紹介したい。
メーカー | ソニー |
製品名 | ICF-51 |
希望小売価格 | オープンプライス |
購入場所 | Amazon.co.jp |
購入価格 | 1,590円 |
■手のひらサイズだが、スピーカーでも聞ける
今回紹介する「ICF-51」は、手のひらに載るぐらい小さくて、市場価格で2,000円を切る。会社の机の引き出しに放り込んで置ける大きさであり、万が一に備えての投資金額としても許容できる範囲だと思う。
本体幅は約10cmほどと小さい | 手のひらに載る大きさだ |
携帯電話との大きさ比較 | 重さは乾電池込みでも110gと軽い |
小さくて安いラジオというのはたくさんある。それらに比べて、ICF-51が優れているのは、分かりやすい操作とデザインだ。
ICF-51では、電源スイッチ、選局ダイヤル、FM/AMバンド切り替え、音量ダイヤルが、すべて独立している。1つの操作部に、1つの機能が割り当てられているので分かりやすく、操作に迷わない。
パッケージはブリスター型 | パッケージの台紙。1つの操作部分を単機能に絞っているので、小さいボディのあちこちに操作部分がある |
例えば、ある製品では、電源スイッチとFM/AMバンド切り替えが1つのスイッチになっている。そうすると、電源を切るたびに、どっちのバンドを聞いていたのかを覚えて置かなければならない。これがICF-51であれば、電源をオンにするだけで、前に聞いていた放送局がそのまま聞ける。音量ダイヤルも動いていないので、音量もそのままだ。
デザインについては好みもあるだろうが、いわゆる「おじさんラジオ」に比べれば、ずっと広い年齢層に受け入れられやすいデザインだと思う。本体色もおじさんラジオに多いシルバーではなく、ホワイトとレッドの2色が用意されている。全体にかっこいい感じに仕上げているのに、表記は日本語なのも好感が持てる点だ。
アンテナを全部伸ばすと30cm弱の長さがある | 底面の表記も日本語だ |
肝心のラジオとしての性能も、実用になる水準は超えている。東京都・千代田区にある家電Watch編集部は、ビルに囲まれていて、電波が入りにくい環境だが、東京の主要な局はFM/AMとも聞ける。
FMで言えば、FM東京、J-WAVE、NHK FMは常時聞ける。夜間だとFMヨコハマも入るという状態だ。ただ、局によっては、ロッドアンテナを最大に伸ばす必要があった。本体に大してアンテナは長く、30cm弱もある。アンテナの角度を変える範囲は広いが、回転しないのはちょっと残念だ。
AMでは、NHK第一、NHK第二、TBS、文化放送、ニッポン放送は常時聞ける。AFN(旧FEN)もほぼ大丈夫。ラジオ日本は条件によって聞けたり聞けなかったりという状態だ。なお、AM放送の受信は、本体内のアンテナで行なうので、ラジオの方向によって、かなり左右される。
ICF-51は、選局がうまくいくと、赤いLEDが点いて教えてくれる。これが、とても有効だ。ただ、FMバンドの方は、ちょっと選局ダイヤルの角度を変えただけで、かなり受信周波数が動いてしまう。もう少し細かくチューニングできるとありがたい。
なお、ICF-51の電源は単四乾電池2本だ。新品のアルカリ乾電池を入れ、1日24時間、FM放送をスピーカーで流している状態で、丸2日半持った。アルカリ乾電池を使ったカタログ値では、FMが44時間、AMが52時間とされているが、それに近い実力はある。これだけ長く動作すれば、イザというときでも、一定の期間は情報を確保できるだろう。
マンガン乾電池だと、FM19時間、AM22時間とされているが、推奨はアルカリ乾電池だ。エネループなどのニッケル水素充電池については、特に記載されていないが、手元で試した範囲では問題なく使用できた。自己責任でお試しいただきたい。
スピーカーの音質は、このサイズの製品としては良い方だ。ただ、スピーカーの口径が小さいので、低音は弱く、高音を中心にすっきり聴かせるというタイプだ。スピーカーの音量は、2~3人で聞ける程度は確保できている。本体の大きさを考えれば、健闘していると思う。
付属品は本体と乾電池のみで、イヤフォンやストラップは付属しない。取扱説明書は紙1枚だ。なお、イヤフォンはモノラル対応で、ミュージックプレーヤー用のステレオイヤフォンを差すと左側しか聞こえないので、注意してほしい。
ストラップホールに手元にあったストラップを通してみた | 少し長めのストラップではあるが、本体が小さいのでさらに長く見える |
ICF-51は、ラジオとしての基本的な機能が高いので、万が一の時に頼りになる。また、各操作部分が独立していて分かりやすく、緊急時に初めて使った場合でも、操作に迷いにくい。FM放送がモノラルでしか聞けないなどの制限もあるが、価格とのバランスでいえば、十分な性能を持つ製品だと思う。
■ラジオとラジコ
というわけで、小さく安いラジオとして良くできている「ICF-51」だが、最近は「radiko(ラジコ)」というライバルがいることを忘れてはならない。
radikoは、NHKを除く民放ラジオ局をインターネット上で聞けるというサービスだ。特に、スマートフォン用のアプリケーションが登場してから、使い勝手がとても良くなった。指先1つで簡単に選局できる操作は、アナログラジオになじみのないユーザーでも親しみやすい。インターネット接続が確保されていれば、雑音も入らず、音質も良い。
正直に言って、ラジオというものに慣れていないユーザーにとっては、radikoの方が魅力的なサービスだと感じるだろう。
ただ、防災用品という点で見ると、radikoには3つ欠点がある。1つはスマートフォンの消費電力が大きく、単体のラジオのように長い時間聞くことができないこと。
2つ目は、震災時などに、携帯電話網によるネットワーク接続が確保できるかどうかという問題がある。音声回線に比べると、接続制限が少なかったパケット通信網だが、まったく影響を受けなかったわけではない。
最後の1つは、災害時の情報提供に強いNHKが含まれていないことだ。ただし、こちらはNHKが提供するネットラジオ「らじる★らじる」のスマートフォン用アプリを併用すれば良い。
というわけで、普段ラジオ放送を聞くというだけであれば、radiko & らじる★らじるでも良いが、万が一の場合に対して、ICF-51などの単体ラジオを備えておくことは、無駄ではない。確実に情報が確保できるという安心感に対して、2千円弱の金額は高くないと思う。
できれば、防災セットに放りこむだけではなく、普段でもラジオを使ってみてほしい。ラジオは単なるTVの音声版ではなく、ラジオならではの、ちょっと変わった広い世界がある。ICF-51なら、そういう世界への入門機として十分な性能で応えてくれるだろう。
2012年 10月 26日 00:00
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