家電製品ミニレビュー

タイガー魔法瓶「おとなのtacook(タクック)」

~料理が苦手な一人暮らしに。ごはんとおかずが同時に作れるIH炊飯器

タイガー魔法瓶「おとなのtacook JKU-A550-W」

 主食が米だけあって、日本には多くの炊飯器が存在する。10万円以上する高級器から、数千円で買える激安品まで、大小さまざまな製品が家電メーカー各社から発売されている。

 しかし、「ごはんとおかずが同時に作れる」という特徴を持った炊飯器は、タイガー魔法瓶の「tacook(以下、タクック)」シリーズに限られるだろう。タクックはごはんを炊きながら、その蒸気で蒸し料理が作れてしまうという“一石二鳥”の炊飯器。2012年2月に発売されたシリーズ第一弾の「JAJ-A550」は、メーカーによれば購入者のうち20代が3割、50代以上も3割と、幅広い年齢層から支持される人気商品になったという。

 そしてこの冬、タクックの第二弾商品として「おとなのtacook JKU-A550」が発売された。新製品では、従来モデルよりも炊飯方式を強化した点が特徴。電熱ヒーターで釜底を加熱するマイコン式ではなく、電磁力で釜全体を加熱する「IH式」を採用。高級モデルの炊飯器に搭載されているような圧力炊飯機能はないが、従来モデルよりおいしいごはんが炊けるという。

 最近は自炊をほとんどしていない自分だが、これならラクに料理が作れるのではと思い、使ってみることにした。

メーカータイガー魔法瓶
製品名おとなのtacook JKU-A550
購入場所Amazon.co.jp
購入価格16,180円

専用トレーが付いている以外は、基本的にフツーのIH式炊飯器

 おとなのtacookは“ごはんとおかずが同時に作れる”点が特徴とはいえ、基本的にはフツーの炊飯器だ。炊飯容量は少人数家庭向けの3合炊きで、本体サイズの234×287×203mm(幅×奥行き×高さ)は、3合炊きのIH式炊飯器としては特に大きくも小さくもない。約16,000円という実勢価格も並みだ。

 付属品としては、おかず調理に使用する専用のトレー「クッキングプレート」が同梱される。それ以外は、内釜としゃもじ、米の計量カップと、これも普通の炊飯器と変わりない。なお内釜には、土鍋で炊くごはんのおいしさに近づけるよう、土鍋コーティングが施されている。

タクック本体
付属品一覧。写真中のオレンジ色の器が、本製品の特徴であるおかず調理用のクッキングプレート
電源コードはマグネット式
内釜には土鍋コーティングが施されている
本体の内釜をセットする凹み部分。炊飯方式はIH式
付属のしゃもじは、写真のように立てられる
液晶画面は大きく見やすい。画面内の矢印は「白米」モードを指しているが、これがおかず調理時に使用するモードとなる

 炊飯モードは8通り用意されており、通常炊飯の「白米」、通常よりも消費電力量を約2~13%削減して炊く「エコ炊き」、通常よりも時間を掛けておいしいごはんを炊く「極うま」、早くごはんを炊く「早炊き」、あとは「炊き込み」「おこわ」「おかゆ」「玄米」で全8種類だ。これ以外にも、煮込み料理にも対応する。“おかず同時調理”用のモードは特に用意されていないが、通常の「白米」モードを使用する。

 なお、本体の時計は購入時にセットされており、ユーザー側で設定する必要はない。もちろん予約炊飯にも対応している。

親子丼がホントにできた!

 このままフツーにごはんを炊いても良いが、それでは普通の炊飯器と何ら変わりない。さっそく本製品の特徴である、ごはんとおかずの同時調理機能を使ってみよう。パッケージには説明書のほかに、全40通りのレシピが用意された冊子が付いており、このうち30メニューがクッキングプレートを用いた料理となる。

おかず調理メニュー用のレシピ本も同梱される
「おとなの」という名を冠すだけあって、メニューはオシャレなものが多い

 最初の調理に選んだのは、これまで作ってみたいとは思っていたものの、きっかけがなくて一度も調理したことがない「親子丼」。作り方は、クッキングプレートに鶏もも肉と薄切りにした玉ねぎを入れ、そこに醤油・みりん・砂糖を混ぜあわせた調味料、溶き卵をかける。内釜には洗米した米を入れ本体にセットし、内釜の上にさらにクッキングプレートを載せ、「白米」モードで炊飯する。これで調理準備は完了。非常に簡単だ。

 おかず同時調理時の炊飯量は、0.5カップ、または1カップだけと、少量に限られる。無洗米の利用もOK。炊飯時間は約40分程度で、炊飯中の本体は特にこれといった変化はなく、蒸気がモクモクと昇ることもないが、蒸気孔付近は非常に熱いのでご注意。

親子丼を作るための材料。当たり前だが、通常の鍋で親子丼を作る際と同じ材料を使う
鶏もも肉と薄切りした玉ねぎをクッキングプレートにセットし、そこに醤油・みりん・砂糖を混ぜあわせた調味料、溶き卵をかける
内釜に米と水を入れ、その内釜にクッキングプレートを載せる

 できあがりのブザーが鳴り、フタを開けると、おおっ! ちゃんと親子丼の具ができている。クッキングプレートの下にあるごはんも、ちゃんと炊けている。

炊飯完了後のクッキングプレートのようす。色は薄めだが、これはどこからどう見ても親子丼だ
その下のごはんもちゃんと炊けている。写真は1合
盛り付け時に崩れてしまったが、親子丼のできあがり。ちなみにレシピ本には、この上に卵黄を載せると指示されている

 器に移して食べてみると、これはもう完全に親子丼。レシピ通りだと味はやや薄めに仕上がるが、鶏肉はしっかり柔らかくなっており、玉ねぎもちょうど良いしなり具合。フタをして炊飯ボタンを押しただけなのに、ここまで仕上げてくれるとは!

 ごはんもおいしかった。もちろん10万円近い高級モデルのようなおいしさが味わえるわけではないが、ごはん1粒1粒に火が通っているようで、粒が潰れていることもない。十分満足できる味だった。このあたりは、IH式ならではの良さだろう。

 驚いたのが、炊けたごはんにおかずの味が移っていないこと。クッキングプレートは下方向に穴が開いていないため、おかずを温めた蒸気がごはんの方向に戻らない仕組みになっている。調理後の蒸気はそのまま本体外に放出されるので、炊飯中はおかずの良い香りがする。

 気をつけたいのが、調理後のプレートには煮汁が多く出る点だ。蒸気を大量に使うせいか、クッキングプレートの中にたんまり残っている。これをすべてごはんに掛けると、ごはんがジュルジュルになってしまう。もったいないけど、半分くらいは捨ててしまった方が良いかもしれない。

肉料理もバッチリ。牛丼だって作れる

 続いては肉料理の「牛肉ときのこのピリ辛蒸し」を作ってみた。これも材料を切ってクッキングプレートに並べるだけと非常に簡単だ。

 できあがりはこれまたおいしい。先ほどの親子丼は薄味だったが、今回は調味料が豆板醤・酒・醤油・砂糖・酢・ごま油と多いため、味がしっかり付いている。ピリリとした辛さがごはんにピッタリだ。

続いて挑戦するのは「牛肉ときのこのピリ辛蒸し」。材料は牛肉の薄切り、きのこ、白ネギと各種調味料。プレートには材料を入れるだけ
炊飯後のプレート。肉もネギもきのこも、味が染みこんでそうな色をしている
ごはんも問題なく炊けた。写真は0.5合。水加減を間違えないように
調味料が豆板醤・酒・醤油・砂糖・酢・ごま油と多いためか、味がしっかり付いていておいしい

 肉料理の続きとして、「牛丼」にも挑戦した。ちなみにレシピでは牛丼にトマトとパセリを添えた「フレッシュイタリアン牛丼」として紹介されていたが、オシャレ過ぎて自分に似合わなそうなので、敢えてこれらを省いて、スタンダードな牛丼にした。また、具材に「エリンギ」とあったが、先ほどの牛肉ときのこのピリ辛蒸しで使ったしめじを流用した。

 できあがりは、またもウマイ! 牛肉、玉ねぎ、きのこに調味料が染みこみ、絶妙なハーモニーを醸し出している。それでいて、玉ねぎときのこの食感も残っている。アレンジ次第で、自分好みの牛丼を作ることもできそうだ。

次は牛丼に挑戦。これまた材料を切ってプレートに並べるだけ
できあがり。煮汁がかなり多い
これぞ牛丼といった仕上がりに。ウマイ!
炊飯器に入れてスイッチを押しただけで牛丼ができるなんて!

味噌との相性は抜群に良い

 牛肉がまだまだ残っているので、翌日はこれを使って「牛フィレ肉の金山寺味噌蒸し」に挑戦してみることにした。肉は牛フィレ肉じゃなくて牛薄切り肉、味噌は和歌山県名産の金山寺味噌じゃなくて、スーパーで買った普通の味噌だけど、ちゃんと作れるのか?

 今回も調理方法は相変わらずで、食材の牛肉とネギを切ってクッキングプレートにセットするだけ。ただ、牛肉に味噌とみりんを混ぜ合わせるというひと手間が加わる。

 結果は大成功だ! 味噌の濃い味が、先ほどの牛丼以上に、牛肉とネギにしっかり染みこんでいる。これをコンロで作ろうと思ったら、火加減の調節が大変そうだ。

続いては「牛フィレ肉の金山寺味噌蒸し」に挑戦。牛フィレ肉の代わりに、余った牛肉の薄切りを使用した
できあがり。炊飯中から良い香りがしていたため、期待度は高い
味噌とタクックの相性は抜群
これがごはんに合うんだ

 どうやら味噌とタクックの相性が良さそうなので、今度は鯖の味噌煮を作ってみたが、これまたおいしかった。細かいことを言うと、もっと中身まで味噌が染みこんでほしいところだが、それでも味はれっきとした鯖の味噌煮。しょうがの味が利いた煮汁と絡めれば、炊飯器で作ったものとは思えないほどの素晴らしい完成度だ。しかも炊きたてのごはんまで一緒に炊けている。これには感動してしまった。

鯖の味噌煮も作ってみた。鯖は2切れ投入できるので、2人分の調理が可能。
できあがり。これまた良い香り
炊飯器で作ったと思えないほどおいしい。中身まで味噌は染みこんでいなかったので、煮汁と一緒に食べた
炊きたてのごはんと鯖の味噌煮が一度に食べられる幸せについ感動してしまった

卵料理はクッキングプレートから取り出し辛い

 ここまでは料理をベタ褒めしてばかりだったが、もちろんすべてが成功したわけではない。中には失敗したものもあった。

 それが、スパニッシュオムレツだ。レシピ通りに作ればとてもおいしいものができたが、じゃがいもを大きく切りすぎたせいで固く仕上がってしまった。また、レシピでは醤油や酒など調味料が一切入っていないため、味はかなり薄く、“ごはんのおかず”という面では明らかに物足りなかった。

 さらに、クッキングプレートから取り出す際も苦労した。オムレツがクッキングプレートから簡単に取れないため、我が家のフライ返しを使ったものの、フライ返しに対してクッキングプレートが小さいためうまく取り出せず、結局はグチャグチャな状態で皿に並べることになってしまった。親子丼の時にも取り出しに困ったが、専用の器具があれば、もっと便利に盛り付けられそうだ。ちなみに、しゃもじを使ってもうまく取り出せなかった。

スパニッシュオムレツに挑戦。卵、ベーコン、じゃがいも、玉ねぎ、チーズを入れて炊飯
できあがりは見事にスパニッシュオムレツ
取り出しに手間取り、グチャグチャになってしまった。また味も薄め。じゃがいもも大きく切りすぎて固めだった

 ちなみに、ちょっとした裏ワザを使えば、何も調理の度に必ずごはんを一緒に炊く必要はない。実はごはんなしでも蒸し料理は可能なのだ。その方法は、内釜の目盛り1まで水を入れ、その上にクッキングプレートをセットし、「煮込み」モードで20~30分運転する。これで、クッキングプレートだけの調理が可能になる。

自炊が苦手なひとり暮らしにこそお勧め

 ひと通り使ってみたが、とにかく簡単に調理できる点に驚いた。基本作業は、食材を切って調味料を入れて炊飯ボタンを押すだけとシンプル。たったこれだけの作業で、いろいろな料理が作れてしまう。焦げるなどの失敗も起らないので、レシピどおりに作れば、ミスをすることもない。また、IH式ということもあって、ごはんもちゃんとおいしい。炊きたてのごはんで作りたてのおかずが食べられるのは、それだけで幸せだ。

 特に感動したのが、牛丼や鯖の味噌煮、親子丼など、“簡単に作れそうだけど、どうにも気が進まない”メニューがすぐに作れた点だ。しかも、味もバッチリおいしい。「自炊したいけど、どうにも気が進まない」という私のような人にはピッタリの製品だった。説明書には、レトルト食品の温めにも使用できるとあったが、それだけの用途にしておくのは勿体無い。

 何度か使ってわかったことは、味噌や調理酒を使うレシピは、味がしっかり出るということ。逆に調味料が醤油やみりん程度のレシピは、かなりあっさりに仕上がる。ごはんのおかずとするならば、レシピの指示よりも味付けは濃い目にしておくのが良いだろう。

 面倒だったのが手入れ。使う度に内釜、内蓋、クッキングプレート、本体蓋部分のスチームキャップを洗う必要があるので、炊飯の度に一苦労してしまう。しかもクッキングプレートはスキマが多いので、洗うのが難しい。さらに説明書には、食器洗い乾燥機の使用は“変形する恐れがあるため使用しない”と指定されている。せめてクッキングプレートくらいは食洗機に対応してほしい。

内蓋は毎回洗う
蓋の中にある「スチームキャップ」というパーツも毎回洗う。ここは特におかず調理時の臭いが付きやすい
当然ながら、クッキングプレートも毎使用時に洗う。なおこれらのパーツはいずれも、取扱説明書にて食器洗い乾燥機での使用が禁止されている

 個人的な要望としては、クッキングプレートによる調理レシピのメニュー数はもっと増えてほしい。レシピには、「金目鯛のはす蒸し」「チンゲン菜のかにあんかけ」「うなぎと豆腐ののっけ蒸し」のようなオシャレなメニューが多かったが、どうせなら肉じゃがなどスタンダードな煮物や蒸し料理があった方がうれしい。蒸気で調理するため、どうしても加熱能力に限界はあるだろうが、説明書に「レシピ本に記載されているメニュー以外の調理はしない」と限定されている以上、バリエーションが少ないと、調理の幅はどうしても狭まってしまう。ウェブページに新レシピを公開するという形でも構わないので、どうか増やしてほしい。

炊飯器だけでおいしいごはんが作れてしまうのは、ちょっとした感動を覚える。ぜひひとり暮らしの方にお勧めしたい

 3合炊きのため少人数の家庭がターゲットの製品だが、特にお勧めなのが、どうしても外食が増えがちなひとり暮らしの人。ボタンを押すだけで調理できるという手軽さでも、調理中は別のことができるという「時短」という面でも、できあがったごはんとおかずのおいしさという味の面でも、きっと納得していただけるはずだ。

正藤 慶一