家電製品ミニレビュー
欧州仕様と日本仕様のe-bike、どこが違う? メリダの「eONE.SIXTY」を元MTB世界チャンピオンと乗り比べてみた
2018年10月29日 06:00
ヤマハやミヤタ、トレック、パナソニックに続いて、ジャイアント、メリダといった自転車の主要ブランドが続々と参入して、火が付き始めた感のある国内のクロスバイクやMTBタイプのe-bike。しかし、「日本のe-bikeは、法規制で出力が欧州仕様に比べて弱いからね……」という巷の声が聞かれます。
果たして本当にそうなのでしょうか。私はこの噂の真相を調べるために、ドイツの避暑地ルーポルディングに飛びチロル山中で、かつてのMTBの世界チャンピオンであるホセ・ヘルミダとメリダのe-bike「eONE.SIXTY」を乗り倒してみました。その結果、欧州仕様と日本仕様の差について、ひとつの結論に至ったためご紹介しましょう。
欧州仕様も日本仕様でも走りは変わらない
結論のひとつを先に言ってしまいますと、欧州仕様と日本仕様のe-bikeはみなさんが思っているほど大きな差はありません。確かに欧州規制のほうが設定速度はわずかに速く、アシスト倍率比も大きいのですが、現実世界で本当にアシストが必要な斜度20%ぐらいでは日本仕様でも欧州仕様でも走りは変わりません。また、各国規制云々の話以前にドライブユニット性能によるアシスト出力差が大きすぎて、比較しても意味がないのです。
フルパワーのインテル core i3よりも省電力モードのインテルXEON 16コアのほうが全然速い、もしくは欧州仕様の400ccのモーターサイクルより日本仕様の1,000ccのほうが速いという議論に近いのかもしれません。仕様やモード云々よりもパワフルなドライブユニットはそれ自体が十分パワフルなのです。
ということで、日本仕様と欧州仕様のおおまかな違いについて、あらためて説明しておきましょう。
日本と欧州ではアシスト規制による根本的な考え方が違う
日本仕様に決められたルールは以下の3つ。
・アシスト自転車のアシストは電動機(モーター)によらなければならない
・ライダーの出力に対してアシストできる割合は1:2
・アシスト力は時速10km/hを超えると24km/hに向かって逓減(次第に減ること、減らすこと)していき、24km/hに達するとアシストを停止しなければならない
つまり、出力に関する規制値は日本には存在しないのです。アシスト比について法規制があるのみで、最高出力については日本の道路交通法で定められていないため、法律上はメーカーが自由に決定できるのです。つまり「日本仕様は法規制で出力が抑えられているから……」という話はそもそも単なる都市伝説に過ぎません。
その一方で、欧州のほとんどの国で採用されているEU仕様では、「最高定格出力は250W」「アシスト最高速度は25km/hで25km/hを超えたら直ちにアシストを停止しなければならない」となっています。出力は明確に上限が定められているのに対して、日本仕様にあるアシスト倍力比に関する規定とアシストの逓減という概念がありません。
欧州仕様と日本仕様の法規制ですが、ほとんど同じ土俵で議論できないような内容ですのでどちらが厳しいというより、アシスト規制に関する根本的な考え方が違うと解釈したほうがよいでしょう。
例えばシマノの日本仕様STEPS E8080と欧州仕様STEPS E8000の走りでは、10km/h前後で急登坂でグイグイと踏んでいくようなシチュエーションですと、ほとんど同じアシスト力を見せます。しかし、立ち上がりでペダルをチョンっと触っただけ程度の条件では、日本仕様よりも欧州仕様のほうが明確にアシストを感じます。
また、日本仕様では前述の逓減によって17km/hを超えたあたりではアシストがマイルドになっていきますが、欧州仕様は22km/h辺りまでアシストを感じる点では欧州仕様のほうがアシスト速度域が高いのは事実です。
とはいえ、シマノが欧州で展開しているE6000ユニットや、他社のエントリーラインのユニットと日本仕様のE8080を比べると、時速20km/hを超えない限りは全域で日本仕様のほうがパワフル(トルクフル)で、アシストを得られる最高ケイデンス(最高クランク回転数)も高いため、高性能ユニットはやはり高性能といえます。
MTBの元世界チャンピオンにも乗り心地の違いを聞いてみた
話をドイツの避暑地ルーポルディングに戻すと、2019年モデルのメリダの国際試乗会に出席して、各国のジャーナリストやホセ・ヘルミダ含むメリダアンバサダーとチロル山中をグループライドという機会を得ました。
そして、欧州仕様のeMTBのアシスト力を満喫していましたが、30kmほど走った山中で私のバッテリー残量が5目盛中の1になってしまったので、同行のみなさんに「あのー、バッテリーがもうないんですけど……」と話しかけると一同「えっ!? なんでBOOST(ブーストアシストモード)で走ってるの? TRAILかECOでしょ!」と怒られてしまう始末。
そこで、MTBの元世界チャンピオンであるホセ・ヘルミダに聞くと、欧州のユーザー、特に普段サイクリングを楽しんでいるライダーはブーストモードを使わず、少し弱めのアシストでバッテリーを温存しながら、丸一日山中でe-bikeを楽しむのが定番の遊び方だとか。ブーストモードに入れるのは、急登坂で本当にアシストが欲しい条件や、日が暮れてきて早めに下山したい時というのが一般的とのことです。
つまり、普通の人力のMTBでは行けないような距離や標高差を走るのがeMTBの魅力なので、2時間ほど(標高差にもよるが40km程度)でバッテリーが無くなってしまうブーストモードは使わず、少し弱めのアシストで長距離を楽しむということなのです。その点、最高アシスト速度が低めの設定の日本仕様なら、欧州仕様のブーストモードよりもさらにバッテリーは消耗しません。さらに、本当にアシストが欲しいような低速では、欧州仕様と体感上同じアシスト。つまり、日本仕様こそが理想的な走りを手に入れているといえるかもしれません。
実はこの1カ月後(8月)にホセ・ヘルミダが来日して一緒にeMTBで走りに行く機会を得たのですが、走行時に日本仕様と欧州仕様の差について聞くと「基本的に同じ。アシストフィーリングは同じ。時速15km/hを超えてもモーターは仕事をしているし、そもそも基本は長距離を走るためにECOモードなので、別にE8080もE8000も違わないよね」と真顔で答えてくれました。
欧州仕様、国内仕様論争の結論は「乗れる人はそもそもブーストモードに入れて走っていなかった」ので、本当にアシストが欲しい急勾配低速域で十分なアシストが得られるユニットなら、欧州仕様でも国内仕様でもどっちでも良かったという話でした。それより大事なのは、いかに気持ちの良いアシストをしてくれるのか、人馬一体の走りを実現しているのか、といった味わいの話になってくるのかもしれません。