ぷーこの家電日記

第470回

ちょっと早起きして市場まで出かけよう

私は肉が好きだ。と言いながら本当は魚がものすごく好きだ。出身地の福岡は、暖かい地域性の所以か、あまり保存食の文化が発達していないように思う。魚にしても同様で、海が近いので江戸前のように熟成させて食べる文化は発達してこなかったように感じる。獲ったら食べる! 鮮度命! みたいな感じ。もちろんその中で育った私の舌は完全にその環境に馴染んで形成されているもので、踊り食いが最高! くらいに鮮度第1主義のようになってしまっている。

上京して1番ショックだったのは、1番の好物と言ってもいい刺身が「美味しいとは限らない」ということだった。地元に住んでいるときは「特別美味しいお魚」はあれど、「食べられない」みたいな刺身は無かった。それが上京してから「ちょっとこれは……無理」みたいなお刺身に何度も出会い、大好きだからこその期待値の高さに叩き落とされるショックも大きく、一時期「刺身恐怖症」くらいに苦手になってしまったんだ。

そこから飲み会とかでも「何の店にする?」となったら「肉! 肉が食べたい!」と、魚を避けがちだった。お肉の場合は食べられないほど大きくは外れない。お魚はそこそこお金を出せば美味しいものが食べられるけれど、安い場合は外すとショックが大きいギャンブル的な食べ物だというイメージだ。

独身時代、連日仕事が忙しく疲れ果てて帰宅していたある日、刺身を乗せた丼がどうしても食べたくて、遅くまで開いているスーパーでペラペラの切り身が数切れ入ったパックを買って帰り、久々にご飯を炊き、疲れを癒そうと食べた時に「私が知っている刺身じゃない!」と、よっぽど疲れが溜まっていたのか思わず泣いてしまった(笑)。

「美味しい魚が思い切り食べたいんだー!」という欲望が募りに募って出刃包丁と刺身包丁を買ったのがちょうど10年前だったような気がする。鮮魚店で丸っと1尾買ってみたり、ネットで鮮魚セットをお取り寄せしてみたりして、YouTube先生に捌き方を教えてもらった。自分で新鮮な魚を捌くと、美味しい魚が食べ放題レベル! 何尾も何尾も捌いては食べて、それまで数年の不満と欲望を成仏させることに成功したのだ。

10年もやっていると、飲食店並みとはいかなくても家で食べるには十分すぎる程、簡単に綺麗に速く捌けるようになっている。そして数年前コロナ禍で飲食店の営業が冷え切ったころ、行き先を失った魚たちが産直ECなどに販路を求めて出品され、一般の私でも簡単に手を出せるようになってきたんだ。捕った魚は揚がったその場で即座に活き締めされ、翌朝には我が家に届く。産直ECで買う魚はとにかく美味しくて感動した。「あぁ、お魚が捌けてよかったー」としみじみ思いながら、今度は嬉し涙が出そうになったもんだ。

ところが、コロナ禍も落ち着き、出社することも多くなった頃から、産直で鮮魚を注文するのが厳しくなってきた。基本、漁は天候に左右されるので日時指定ができないからだ。折角美味しい魚は平日ではなく週末にちょっと時間的にも気持ち的にも余裕があるタイミングで、美味しいお酒とともに食べたいと思ってしまうのもある。

そして「ちょっと来週は忙しいから、もし火曜日か水曜日に届いたら詰むわ」などと、どうしても避けたい日だってある。日時指定できなくても、せめてこの日はダメだという逆日時指定ができたらいいのになぁなどと思ったりしつつ、届く可能性がある2週間程度の期間に全く何も予定が入っていないということは中々ないので、残念ながら少しずつ産直ECでの購入から遠ざかってしまっているのだ。

そうするとまた美味しい魚が食べたい欲が少しずつ少しずつ蓄積されていく。一度産直の魚の美味しさに味を占めてしまった私は後には戻れない。「鮮魚 東京」などというワードで検索してやっと見つけたのが「船橋市地方卸売市場」である。土曜日も開いていて、一般客もウェルカムな水産仲卸売り場は私の希望の光のようだった!

ただここでも問題が! 「私は朝が弱い」のである(笑)。ということで、昨年末くらいから「週末は刺身で1杯やりたいね」となると、早起きの夫が土曜の朝早くに市場へ買い出しに行き、のんびり起きた私は届いた魚を見てその日のメニューを決めて作る。そんな役割分担で美味しい魚を堪能。こまめに通っているとお気に入りのお店ができたり、魚に詳しくなってきたり、季節を感じられたりして、我が家の仲買人役の夫もまんざらでもなさそうに楽しそうだ。

話を聞くだけで、とにかく活気があってとにかく楽しそうな市場。行きたいのは山々なのだけれど、冬は布団の誘惑の力の方が大きかった。暖かくなって冬眠から覚めた私は先日やっとで早起きして夫と市場に出かけた。こぢんまりとした地方卸売市場とはいえ、それでもかなり広いしお店もたくさん。色々目移りしながらぐるぐる何周も回る。

さらに水産仲卸売り場の他にもたくさんの食堂や色々な問屋さんなどが入った「関連事業者店舗棟」があり、駄菓子の卸売問屋で大人買いしてみたり、飲食店向けの和食器店で器を見てみたりとにかく楽しい。気付けば3時間も市場を堪能してしまった! 何度も来ている夫も「こんなに隅々まで回ったの初めて! 楽しいね」とかなり満足していたようだ。

持ち帰った魚で夕方からは二人宴会で舌鼓。出不精な上に計画や下準備などが苦手な私たち夫婦にとって、フラッと無計画で訪れて、ちょっとした観光旅行気分で楽しめる市場は今後のデートの定番の場所になりそうだ。一般客も入れる地方卸売市場はこの船橋以外にも結構あるようなので、週末の朝ちょっと早起きしてちょっと足を伸ばして出かける市場は超オススメなのであります。

徳王 美智子

1978年生まれ。アナログ過ぎる環境で育った幼少期の反動で、家電含めデジタル機器にロマンスと憧れを感じて止まないアラフォー世代。知見は無いが好きで仕方が無い。家電量販店はテーマパーク。ハードに携わる全ての方に尊敬を抱きつつ、本人はソフト寄りの業務をこなす日々。