ぷーこの家電日記

第436回

我が家の老犬、旅立つの巻

本連載にもたびたび登場しておりました我が家の老犬が、先月の下旬にとうとう私の元を離れて遠い虹の橋の向こうに渡っていってしまいました。

我が家に来たのは、コロナ禍に入って初めての緊急事態宣言が出た2020年4月。自宅待機からのテレワークが始まり、家にいることが増えたことで迎えた老犬は、我が家に来る前は保健所の窓もないコンクリートの塀の中で長い間暮らしていた。すでにヨボヨボで片目がないし、残った目は白内障でほぼ見えないし、耳は遠くほぼ聞こえず、歯は1本もなく、ちょっと笑っちゃうくらいにボロボロで、一般的には「かわいい」とは言えないかもしれない個性的な容姿のお爺ワンコ(笑)。でも最高に可愛くて、毎日かわいいの最高記録を更新していった。

きっと普通の飼い犬が当たり前に享受する医療や愛情も受けられず、酷い扱いを受けていたんだろうと想像できる姿に、「よーし! この10年を取り戻すぞー!」と、体験できる楽しいことは全部体験してほしかった。もともとの性格が非常に良かったこともあるし、かなりの老犬だったので、厳しい躾をするつもりはなかったし、「俺はセレブ犬」と勘違いさせるくらいに甘々の親バカを発揮してきた(笑)。お腹をデーンと出して爆睡して、目を覚ますと私を探しに来て「抱っこ!」と甘え、寝かしつけを強要し、誰に似たのかってくらいに食い意地が張っていて、「食べる! くれ! くれ!」と必死にねだってくる姿に、「あぁ、ちゃんと飼い犬になったんだなぁ。自分の家って思ってるんだなぁ」と本当に嬉しかった。

とにかく美味しいものを食べるのが大好きで、焼き芋の美味しさに目覚めたり、歯がないのに王林をシャクシャクと噛み(擦り潰し?)ながら夢中で食べたり、こっちが落ち着いて食べていられないほど大好きだった焼肉とか、食べるもの食べるもの初めての体験ばかりで毎度「ナンジャコリャー!」と感動し、完全に食い道楽のグルメジジイに仕上がった(笑)。「初物七十五日」って言葉があるけれど、「あら、まーた長生きしちゃうねぇ!」が私の口癖となり、一緒に食べられる美味しいものは思い切り楽しんだ(初物七十五日の初物は、初めての物を食べるという意味ではなく、旬の走りに食べることを指し、縁起が良く75日寿命が伸びると言われている)。特に好きな食べ物は白身魚の刺身。猫よりも魚好きで、刺身を切っているだけで鼻をヒクヒクさせながら大興奮していたなぁ。

我が家に来たばかりの頃、肝臓値が極端に悪くなり黄疸まで出ちゃって病院送りになったお爺ワンコだけれど、ケロっと復活してからは「現世もなかなか悪くない。飼い犬って楽しい」って少しは思ってくれたのか、どんどん毛がツヤツヤになって若返り、「あれ? あなた死にかけましたよね?」と思うほど元気に過ごしてくれた。いつも最初で最後の気持ちで旬を楽しんでいたら、ぐるぐると2回も四季を共に過ごすことができた。「今年も一緒に食べられたね!」と言うのがとても嬉しかったんだ。

今年の春先から食欲が落ちてきて、「これじゃないー!」ってドッグフードが入った器をちゃぶ台返しのようにひっくり返したりして、「お前は星一徹か?」なんて突っ込んだりしていたんだけれど、食べられるものが少なくなり、食べられない日が増えてきて、寝ている時間が増えた。栄養バランスよりも好きな物を少しでもと、すべて手作りご飯に切り替えた。よく食べてくれた時は嬉しくて、「よーし、これが好きか? これなら食べられるか!」と翌日も作ると、今日はこの気分じゃないと言われたり、気分は完全に離乳食に苦戦する親だ。最後の方は4つも5つもご飯を並べ、「どれか何か食べられそう?」なんて懇願していた。あんなに食べることが大好きだった子が食べられなくなる姿を見る切なさったら。

我が家に来て2年2カ月で旅立った愛犬。もう少し一緒に過ごしたかったなぁって思うし、こう書きながらも心臓がギューっとなるほど寂しくなって苦しい。

「最後はちょっと楽しい犬生だったな」と思ってくれたらめちゃくちゃ嬉しいなとは思うけれど、本当に幸せだったかどうかは本人じゃないので私には分からない。それでも良かったなぁと思えることは、ちゃんと私の家族として送り出せたことだ。

ピクサー映画の「リメンバーミー」が私は大好きだ。メキシコの「死者の日」、日本で言うところのお盆のような風習をテーマに繰り広げられるハートフルで素敵な映画なのだけれど、そのメキシコの死生観が非常に共感できるし、ちょっとした私の心の支えにもなっている。死は2回訪れるという考えで、1度目は肉体的な死。そして2度目の死は存在を忘れ去られたとき。お爺ワンコがもし我が家に来なかったら、1度目の死と2度目の死をほぼ同時に迎えていたかもしれない。2回目の死は私がいる限りまだ先だ。

きっと死者の国で我が家の先輩犬猫たちと自由になった体で走り回っていると思えるのは、私にとってとてつもなく救いなのである。私だけじゃない。夫もいるし、友人もたくさん可愛がってくれた。そしてお爺ワンコのエピソードを書くたびに読者の方々にもたくさんエールを貰って、私がいなくなってもまだまだお爺ワンコは生き続けるのかもしれない。

そんなこんなで、我が家の老犬の定期報告は最後。可愛がってくださった皆様、どうもありがとうございました!

徳王 美智子

1978年生まれ。アナログ過ぎる環境で育った幼少期の反動で、家電含めデジタル機器にロマンスと憧れを感じて止まないアラフォー世代。知見は無いが好きで仕方が無い。家電量販店はテーマパーク。ハードに携わる全ての方に尊敬を抱きつつ、本人はソフト寄りの業務をこなす日々。