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[聴こうクラシック28]親子で聴こうサン=サーンスの「動物の謝肉祭」

暑い日は外遊びせず、「親子で音楽鑑賞」してみるのはいかがでしょう。今回は、動物たちがさまざまな楽器に変身して登場する、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」をご紹介します。子どもたちの知的好奇心を刺激してくれる1曲です。たまにはクラシックを聞いて、充実したひとときを過ごしてみませんか。文末には、おすすめの演奏のYoutubeリンクもありますよ。

 

オルガン曲から映画音楽まで幅広く作曲したサン=サーンス

シャルル・カミーユ・サン=サーンスは、1835年にフランスのパリで生まれ、86歳のとき旅先のアルジェリアで亡くなりました。内務省の官吏の家庭に生まれますが、生後数カ月で父親が亡くなります。絵をたしなんだ母とピアニストの叔母に育てられ、2歳でピアノを弾き、3歳で作曲をし、神童として演奏会を開きます。13歳のときにパリ音楽院で作曲とオルガンを学び、22歳のときオルガニストの最高峰といわれた、パリのマドレーヌ寺院のオルガニストに就任しました。サン=サーンスの名は、日本ではチェロの名曲「白鳥」で広く知られていますが、実はオルガニストだったのです。36歳のときには国民音楽協会を設立し、フランス音楽の普及に貢献。73歳のときには「ギーズ公の暗殺」という映画の音楽を担当し、近代作曲家の仕事として新たな分野を開拓しました。

 

プライベートなパーティー音楽が、やがて名曲に

「動物の謝肉祭」は1886年、サン=サーンスが51歳のときに作曲されました。もともとはチェリストの友人のパーティーのためにプライベートで作られた、全14曲からなる20分ほどの小編成の楽曲です。プライベートな楽曲として作曲したことと、ほかの作曲家の作品を皮肉って編曲した部分があることから、サン=サーンスは楽譜の出版、公開演奏を禁じていました。しかし彼の死後、オーケストラ用に編曲され初演されたことで、広く知られるようになったとは、なんとも皮肉なものです。

 

曲に登場する動物たち

「動物の謝肉祭」は、第1曲から終曲の前の第13曲まで、それぞれ題名が付いています。謝肉祭とはカーニバルのことで、曲のなかでは、山車に動物や動物に関連するものが乗せられて行進する様子が描かれています。登場する動物などは、獅子、ニワトリ、ラバ、カメ、ゾウ、カンガルー、水族館、ロバ、カッコウ、鳥カゴ、ピアニスト、化石、白鳥です。最初に登場するのは、堂々とした百獣の王・獅子。2番目に登場するのはフランス人を象徴する生き物と言われるニワトリです。3番目に登場するラバは、雄のロバと雌の馬を交配させた家畜で、強くて働き者の性格のため、ナポレオン一世が乗っていたという説があります。

 

動物たちだけでなく、自身の作品までも風刺的に描いた

「カメ」ではジャック・オッフェンバックの「天国と地獄」がわざとゆっくり演奏され、「ゾウ」ではルイ・エクトル・ベルリオーズの「妖精のワルツ」と、フェリックス・メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」がアレンジされ、のっそりとしたゾウと妖精のイメージが対照的におもしろおかしく演奏されます。第8曲の題名は「耳の長い登場人物」で、間接的にロバを表しています。当時のフランスの学校では、宿題を忘れた生徒に罰としてロバの耳の付いた帽子を被せる風習があったそうです。「ピアニスト」ではわざと下手に練習曲が演奏され、「化石」ではジョアキ―ノ・アントーニオ・ロッシーニの「セビリアの理髪師」、フランス民謡数曲と自身の作品である「死の舞踏」を組み合わせて演奏されます。晩年に若者から古臭いと言われた、自身の作品も「化石」と皮肉っているようです。

 

「白鳥」は、その後のバレエ界でも珠玉の作品に

第13曲ではチェロの独奏曲「白鳥」が登場します。「動物の謝肉祭」が演奏されたパーティーの主催者だったチェリストのシャルル・ルブークのために作曲されたもので、唯一「白鳥」だけが、作曲者の許可を得て生前に出版されました。今では、独奏チェロの名曲として広く知られ、いろんな楽器にアレンジされています。また「白鳥」を用いて、ミハイル・ミハイロヴィチ・フォーキンがバレリーナのアンナ・パヴロヴナ・パブロワのために振り付けたバレエ「瀕死の白鳥」が絶賛され、彼女の代表作となります。羽の傷ついた白鳥が息絶えるまでの様子を描いた作品で、アンナ・パヴロヴナ・パブロワは、世界各地でこの演目を踊り、日本でも上演され絶賛されたと言います。

 

おすすめの演奏

 

 

それでは「動物の謝肉祭」お楽しみください。こちらは子どもたちも楽しめる、人形劇のスタイルです。

 

 

またアンナ・パヴロヴナ・パブロワの踊りの映像も残っているのでご紹介します。

 

 

 

参考文献

「フランス音楽の11人」ロベール・ピトル著 音楽之友社

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。