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【これからは予防の時代29】遺伝性乳ガン卵巣ガン症候群の卵巣/卵管切除

前回は、遺伝性乳ガン卵巣ガン症候群での乳ガンリスク低減のための乳房切除術についてお話しました。今回は、同症候群での、卵巣/卵管ガンリスク低減のための切除術についてお話します。アンジェリーナ・ジョリーさんも乳房に加え、卵巣/卵管切除を行なっています。卵巣/卵管切除は、乳房切除よりもガンリスクの低減効果があることが分かっています。

 

遺伝性乳ガン卵巣ガン症候群のための卵巣の検診と予防

卵巣/卵管ガンを発症するリスクを減らしたり、卵巣/卵管ガンによる死亡率を減らすことができるのは「リスク低減手術」だけであることが報告されています。経膣超音波検査や腫瘍マーカーの検査は、積極的に推奨されるほどの精度は示されていません。

そこで遺伝性乳ガン卵巣ガン症候群の方への、卵巣ガンを予防するための検診は、年齢ごとに以下のような形で行ないます。

  • 出産後35~40歳ごろ、卵巣ガンのリスクを下げるために、ガンを発症する前に左右両方の卵巣および卵管を切除する「リスク低減手術」の実施が推奨される
  • リスク低減手術を実施しない場合は、30~35歳、あるいは、家族が卵巣ガンを発症した最も早い年齢よりも、5~10歳早くから、半年に1回の頻度で経腟超音波検査、腫瘍マーカー(血液検査)の実施を考慮する

 

変異陽性者のリスク低減卵巣/卵管切除は、実施を推奨

BRCA1/2遺伝子に変異のある女性には、卵巣/卵管ガンの発症リスクを低減させる目的での卵巣卵管切除術は、科学的根拠があり実施が推奨されます。

 

両側の卵巣卵管切除によって、卵巣ガン、卵管ガンの発症リスクが確実に低下することに加え、短期ではあるものの、生存率の改善効果も示されている点が乳房切除術との違いでもあります。

 

卵巣卵管切除の問題点と日本での実情

卵巣卵管切除術の実施に際しては、結婚や妊娠の希望といった社会的状況も配慮する必要が当然あります。また卵巣/卵管ガン発症リスクの低減を目的とした卵巣卵管切除は、保険が適用されないうえ、各病院の院内倫理委員会で承認のうえ実施されるという実態です。

 

アンジェリーナジョリーさんのケース

アンジェリーナ・ジョリーさんの場合は、母親が乳ガンと卵巣ガンを併発し56歳で死去、母方の祖母が卵巣ガンで、叔母も乳ガンで亡くなっています。家系に乳ガン、卵巣ガンが多発しているために遺伝子検査を行なった結果、BRCA遺伝子に変異が見付かりました。そして医師に、乳ガンになる確率が87%だと告げられ、両乳房と両側卵巣卵管を切除しました。現在彼女は激ヤセが著名でですが、切除術との因果関係は不明です。手術の影響か、ダイエットの影響かは、分かっていません。

 

高島裕一郎(医学博士)

予防医学を専門としている医師です。医療の高度化でさまざまな病気の原因がわかるようになりました。これは同時に、いろいろな病気を予防することができるようになってきたことを意味します。生活習慣病やガンなど、生活のなかで予防のできる病気と、その予防方法について、お伝えしていこうと思います。日本医師会認定産業医、日本人間ドック学会認定医。