老師オグチの家電カンフー
第9回:フランク三浦と真似ロンダリング
by 小口 覺(2016/5/11 07:00)
告白します。20年ほど前まで、アジアを旅行するたびにコピー製品や海賊版をやたら買っていました。腕時計とかカセットテープの類ですが、多少のうしろめたさを感じつつも、圧倒的な安さは魅力でしたし、似ているけど少し違うニセモノを購入すること自体が旅のエンターテイメントだったんですよ。
今はその手の物は買わなくなりましたが、まだ海賊版のCDとかあるんでしょうか。YouTubeに駆逐されているのではないかと思われますが。少なくとも物理的なニセモノに対しては以前よりも風当たりが強まっているのではないでしょうか。東京オリンピックのエンブレム問題が起こったのも、パクリに対する世間の目が厳しくなったからでしょう。
とはいえ、ネットでは記事や写真のパクリが横行していて、パクった写真で構成された「中国のパクリ商品」の記事を読んで怒ったり笑ったりしている人が多いのは、ほほえましいかぎりです。
パクリをセーフとアウトに分ける線は微妙です。商標権を侵害している明らかな「コピー品」はアウトですが、「影響を受けたデザイン」は微妙で、裁判してみないと決着が付きません。かつては日本も工業デザインの分野では、欧米の製品をパクリ、いやデザインの影響を受けまくってましたからね。
皆がパクりまくって業界標準みたいになることもあります。ノートパソコンにおけるMacBook Air風のデザインとか。Apple以外のメーカーは、「機能を突き詰めたらこういうデザインになった」と言い張ることも可能なわけです。
逆に、腕時計やカバンといったアクセサリーなど、機能よりデザインの付加価値が大きいものほど厳しく取り締まられます。今どき、知っていてニセのロレックスを買う日本人は少数派でしょう。それは違法だからと言うより、持つ意味がないからです。高級腕時計は今でも富やステータスを表すアイテムですが、ブランドで自分を必要以上に大きく見せる人は少なくなりました。むしろ今は、換金性や将来上がるかもしれない資産価値を目当てに買われています。ニセモノをニセモノと知って買う意味がなくなったのです。
偽ブランド製品の衰退。そんな時代に一石を投じたのが、「フランク三浦」です。ホンモノと誤認識させるのではなく、ものまね芸人がそうであるように、ニセモノとわかった上で、そのおもしろさを評価してもらう。パロディーという逃げ道です。真似ロンダリングです。年配の方なら、歌手のフランク永井を思い出すかもしれませんが、フランク三浦は大阪出身の天才時計師でレスラーという設定です。もちろん非実在の人物でしょう。
今回、裁判で「フランク三浦」の商標権が認められた理由のひとつが、価格が本家(フランクミューラー)とまったく異なるため混同されることがないというものでした。実際、値段は100分の1以下ですし、質感もまったく違います。フランクミューラーを持ったことはありませんが、おそらく言い切っても問題ないでしょう。
今回のニュースについて、「ニセモノのくせに商標権を主張するなよ」という意見もありますが、フランク三浦のニセモノが現れるのを防ぎたかったのかもしれません。ものまね芸人も同じネタの同業者が出ると焦るようですからね。まぁ、アントニオ猪木ぐらいになると、それだけで食べているモノマネ芸人が何人もいるわけですが。今気づきましたが、アントニオ猪木もフランクミューラーもフェイスが縦長ですね。
自分の商売に関わりがなければ、パクリにはあまり目くじらを立てなくても良いかなとも思います。真似という行為自体、あらゆる欲と同じで人間の本能に基づくものですからね。これがないと、赤ちゃんは能力を獲得できません。真似することはDNAに組み込まれているし、そもそもDNA自体がコピー製品です。オリジナルにこだわりすぎると自分が辛くなりますよ。
最後になりますが、本稿の無断複写、複製(コピー)は著作権法上の例外を除き禁止です。