老師オグチの家電カンフー

また登場した新規格Matter(マター)で「スマートホーム」は死語になる!?

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
わが家で待機中のMatter対応デバイスたち。中央上から時計回りに、Aqara「LED電球 T2」「M100 ハブ」「人感センサーFP1E」、SwitchBot「ハブミニ」「学習リモコン」。これを機に設定していきます

突然ですが、あなたは「新たな利便性」と「慣れ親しんだ生活スタイル」の、どちらをとりがちでしょうか? 新しく登場した便利なものは、時に面倒くささをともないがちです。いや、IoTやスマートホームの話なんですけどね。

スマートホームがいまいち普及していないのは、この面倒くささが最大の要因だと思います。多くの製品で、まずは「初期設定」の面倒くささがあり、使い始めて以降は、接続が何かの拍子で切れるなど「不安定になる」面倒くささが発生します。そして、そもそもメーカーごとに「アプリを使い分ける」面倒くささもあります。

ちょっと試してみたけど、もう懲り懲りという人もいるでしょう。まぁまぁ不適切なたとえですが、「家事をしてもらうために知らない人と結婚すれば、超面倒なことになるのは当たり前」です。スマートホームとは、根気強くてスマートな(頭の良い)人にしか使えないと言えば、皮肉りすぎでしょうか。

とはいえ、2022年10月に利用開始されたスマートホームの標準規格「Matter(マター)」によって、この状況も変わるはずです。先に述べた3つの面倒くささが解消されるからです。

まず初期設定ですが、スマホから製品に貼られたQRコードを読み込む仕組みがあり、ハードルが下がっています。そして、接続の安定性を高められる「Thread(スレッド)」を採用。Xに似たSNS「Threads(スレッズ)」とは関係はなく、スマートホーム向けの近距離無線規格です。

機器の登録はQRコード(製品に貼られている&シートが付属する)を読み込む、もしくは11桁のコードを入力だけと簡易化されている

低消費電力などBluetoothに似た特徴を持ちながら、機器同士を接続するメッシュネットワークをサポートしているそうです。さらに、複数のプラットフォームを相互に接続できる「MultiAdmin(マルチアドミン)」機能により、「A社のセンサーが検知したらB社の機器を動かす」といった連携も可能になりました。これらを鉄道にたとえるなら、紙の切符や定期券が、SuicaやPASMO、ICOCAといったICカードに置き換えられ、地域や会社を問わずに改札を通れるようなものでしょうか。

AppleやGoogle、Amazon、サムスンといった巨大テック企業が参画しているのもMatterの強み。iPhoneに搭載されている「Apple Home」アプリからも直接機器が登録できる
異なるメーカーの機器が1つのアプリから管理可能になっている

Matterは、照明機器やスマートロックといったスマートホーム関連製品のイメージが強いですが、規格としては冷蔵庫やロボット掃除機、洗濯機、電子レンジといった調理家電にも対応が進められています。IoTやスマートホームが普及していくほどに、Matterの名称も広く認知されるようになるはずで、将来的には、「スマートホーム」も死語になるでしょう。

だって、スマートホームって日本語(カタカナ)で書くとちょっとダサくないですか? 長いし、かといって略すと「スマホ」になってしまうし、言葉として生き残れる気がしません(笑)。

そういえば先日、知り合いの編集者さんが、中学生の娘さんに「ママってWi-Fiのことを無線LAN無線LANって言うのほんとウザイ」と言われたらしく、インターネット老人たちの笑いを誘っていました。若い世代にとってネット接続が無線なのは当たり前なように、家がスマート化されているのが当たり前になれば、わざわざスマートとは言わず、「Matterにつなぐ」などと言われるんでしょう。そして、「ママはMatterのことをスマートホームって言うのほんとウザイ」と言われるマター(問題)が起こるわけです。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>