老師オグチの家電カンフー

シャープが独走する「痛家電」は流行るのか?

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
「蒲田の豚まん」(萬福楼)の営業車。キッチンカーを牽引してイベント会場に登場しているようです

先日、「痛車」ならぬ「痛営業車」を見かけました。ほとんどの方には説明不要かと思いますが、痛車とはアニメやゲームのキャラクターをラッピングした自動車のことです。件の痛営業車は、豚まん屋さんのワンボックスカーで、チャイナドレス風のメイド服を着た女の子たちがでかでかと描かれています。お店のオリジナルキャラクターなんですかね? ついに痛車の文化も世間に定着したんだなと思わされましたよ。

さて、こうしたオタク文化は家電の世界にも浸透してきており、キャラクターをプリントした白物家電も登場してきました。従来、アニメ作品などとのコラボは、音楽プレーヤーや歩数計といったパーソナルなアイテムに限られており、白物家電には少なかった。というのも、白物家電は家庭内で使われるもので、家族の反対が想定されるからです。

しかし、シングル世帯の増加や、推し文化の一般化などが、いわば“痛家電”を後押ししているようです。痛家電のジャンルで他社を大きく引き離して先頭を走るのが、我らがシャープさん。シャープ(鋭い)だから痛い、ってわけじゃないでしょうが、同社の家電は、おしゃべり機能も搭載しており、単にキャラクターのプリントだけじゃなく、声優コラボなどの親和性が高いのです。

“痛家電”は筆者の造語ですが、GoogleのAIさんによると「痛家電とは、電気刺激で筋肉を動かすことで、痛みやコリを緩和する医療機器や治療器を指します」とのこと(笑)
2014年頃からアニメ作品とのコラボで独走するシャープ。しゃべる機能とアニメとの親和性を生かしている

今のところシャープが独走する痛家電ですが、今後さらに世間に浸透していくのでしょうか? ポイントは次の3つでしょうか。

  • 白物家電のパーソナル化
  • 同好の士とのコミュニケーション
  • バリエーションと製作サービス

クルマが地域によっては1人1台になったことも、痛車が家族の中で許容され広まった背景にはあります。白物家電も、シングル世帯なら家族の意見は関係ありませんし、自室で使うアイテムなら障壁は低いでしょう。問題はアニメキャラなどと家電の相性で、まだ白物家電はクルマやファッションほど自分の個性を象徴するアイテムではないことです。とはいえ、SNSにより家電も人に見せる機会が生まれ、白物家電とて自分の推しやらをアピールするアイテムとなり得る時代になりました。

そして、そこから同好の士とのコミュニケーションへと発展する可能性はあります。痛車も当初は世間の冷たい目にさらされていましたが、目にする機会が増えるにつれて市民権を得てきました。最近では、走行会など痛車が全国から集まるイベントも開催されています。オーナーや見る人の意識も、「恥ずかしい」から、「注目される快感」「かっこいい・かわいい」へとポジティブに変化してきました。痛車のように公道を走行しているわけではないので、気づくことはないですが、ファン同士の交流ではすでに痛家電がネタとして使われているかもしれません。

今後、痛家電が痛車ほどの広がりを見せるには、コンテンツやキャラクターを広く選べることが必要でしょう。痛車の文化も、最初は企業のコラボではなく、ファンが勝手に(著作権法上はブラック寄りのグレー状態で)始めました。今では、痛車製作の専門業者も登場し、かなり多くの作品、キャラクターの公式許諾から車体に合わせたデザイン制作、ラッピング施行までやってもらえるようになっています。たとえば家電量販店が同様のサービスを展開すれば、そこそこ人気出そうじゃないですかね。

僕の考えたアニメコラボ家電「送風のフリーレン/ゾルトラーク扇風機」(しかし、1mmも似てない)
小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>