老師オグチの家電カンフー

どんな特典だったらマイル修行したい? 家電メーカーのステータス制度を考える

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
2024年、ANAに計60回ほど乗った結果、上から2番目のプラチナステータスに

航空業界やホテル業界には、各社独自のステータス制度があります。例えば航空会社では、搭乗などに応じてポイント(マイル)が付与され、その達成率によって上級会員となり、優先搭乗や優先チェックイン、ラウンジの利用などの特典が得られます。ホテルの上級会員では、部屋のアップグレード、アーリーチェックイン・レイトチェックアウト、朝食無料などですね。ステータスの獲得には、時間やお金、労力を要するためか、それを目的に飛行機に乗りまくったりホテルに泊まる行為は「修行」と呼ばれたりします。

かくいう私も、昨年は飛行機に乗る機会が多く、ANAのプラチナステータスを獲得しました。基本的にはステータスの期限は翌年からの1年間ですが、特定のクレジットカードを作ると半永久的に特典を維持できます。つまり、苦しい修行は1回で良く、その条件に達することは「解脱」と呼ばれています。

プラチナ以上だと、航空会社のラウンジに無料で入れるようになる。クレジットカードのラウンジと異なるのは、お酒類が無料で飲めること!
プラチナ以上で作成できるスーパーフライヤーズカード(SFC)。年会費を払っている限り上級会員の特典が維持できる。修行から解放されるので「解脱」と呼ばれる

さて、家電メーカーにおきましても、このステータス制度(ユーザーにとっては修行)を取り入れてみてはいかがでしょう、というのが今回のテーマです。

一般的に家電は生活に密着した製品のためか、飛行機やホテルその他のブランド品に比べてロイヤルティ(信頼や帰属意識)は高くありません。冷蔵庫や洗濯機などは、調子が悪くなって初めて買い替えを検討することが多く、容量や価格重視で、細かい機能まで比較検討する人は少数派です。身内がそのメーカーに勤めているとかでない限り、家中の家電をひとつのメーカーで揃えはしません。メーカーはバラバラで普通。裏を返せば、大きなメリットさえあれば、1つのメーカーに揃えてもいいわけです。

既にメーカーの会員制度は存在しますが、その内容は購入した商品を登録したり、取扱説明書のダウンロード、修理申し込みが使えるほどで、ポイント還元や抽選によるプレゼントくらいにとどまっています。悪いサービスではないのですが、これがあるから同じメーカーの製品で揃えよう、とまでは思いません。というわけで、どんな制度なら“修行”したくなるかを、ユーザー目線で考えてみます。とりあえず思いつく特典は以下の通り。

  • 人気製品や新製品の優先購入
  • 優待セール
  • 専用サポートデスク(電話がつながりやすい)
  • 通常1年の保証期間が3年に延長
  • 故障修理代の割引
  • 故障修理時の代替機の貸出
  • 新製品や上位機種の無料貸出
  • 消耗品の無料提供(食洗機や洗濯機の洗剤など)
  • 買い替え時の下取りサービス
  • 出張サービス無料(設置、メンテナンス)

1年間で100万円から300万円の購入でこれらの特典が利用できるとしたら、興味を持つ人もいるのではないでしょうか。ステータスの獲得や保持の条件としては、一定期間その家電を使い続けることを条件としても良いかもしれません。でないと購入してすぐに売り払っても特典が獲得できてしまうからです。さらに航空会社のように専用のクレジットカードを発行して、カード利用額との合わせ技でステータスや特典の獲得ができるようにするのもアリですね。

この制度が導入しやすいのは、多くのカテゴリーの製品を擁する大手メーカーだと思いますが、製品数の少ないメーカーでも尖った特典サービスでロイヤルティを高めることは可能だと思います。多くの家電メーカーは既に会員制度を持っているので、ステータス制度の構築はそんなに難しくないと思うのですが、いかがでしょうか。

家電ステータスプログラム(修行)のイメージ。購入に応じてポイントを付与し、会員クラスが決定、ステータスに応じた特典が受けられる
小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>