老師オグチの家電カンフー

時代は「合体」! 合体家電の未来を考える

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
家電製品合体の歴史

新年あけましておめでとうございます。この連載も今年で10年目に突入しました。月日の流れは早いものでございます。

さて2025年のテーマとなるキーワードは「合体」かもしれません。企業ではホンダと日産、日本製鉄とUSスチールと大きな合併話が話題になっていますし、芸能界でもソロ活動から再合体したB'zや、合体ネタのトム・ブラウンの人気急上昇など、あらゆるジャンルで今年も合体が起こりそうです。というわけで、家電を「合体」の観点で考えてみます。

そもそも家電の歴史は、合体の歴史と言っても過言ではありません。昭和の時代のラジカセ(ラジオ+カセットテープレコーダー)やテレビビデオ(テレビ+ビデオレコーダー)といった黒物家電だけでなく、冷蔵庫は冷凍庫と早くから合体していましたし、多くの家庭にあるオーブンレンジもオーブンと電子レンジが合体したものです。洗濯機なんて、洗濯+脱水+乾燥と2段階で進化しています。

最近のトレンドとしては、ロボット掃除機との合体です。拭き掃除ロボットとの2-in-1だけでなく、スティック掃除機と合体した製品も登場してきました。

Ankerはスティック・ハンディ掃除機と合体したロボット掃除機「Eufy Robot Vacuum 3-in-1 E20」を2025年春に発売予定

白物家電はこれまで細かい困りごとや、生活の多様化に応じて種類を増やしてきました。調理家電なんて、料理の数に合わせて作れますからね。しかし生活空間には限りがありますから、広く購入してもらうには合体せざるを得ないのです。

しかし単体で面白い芸人でも、コンビとなると組み合わせが重要なように、白物家電は組み合わせを選びます。基本的には近いカテゴリーや目的の製品同士で行なわれます。例えばサーキュレーターと扇風機、サーキュレーターと衣類乾燥除湿機は、一体化するメリットがありますが、サーキュレーターとトースターが一緒になることはありません。

これまで単機能の空気清浄機にこだわってきたブルーエアも、ついに加湿器や暖房と合体した2-in-1、3-in-1の製品を投入した
サーキュレーターとLED照明の合体、ドウシシャ「CIRCULIGHT(サーキュライト)」シリーズ。天井スペースはまだまだ狙い目だと思う
シロカ「おうちシェフBLENDER SM-S151」は、ブレンダー(ミキサー)と加熱調理のスープメーカーが合体したもの

そして合体によって利便性や生産性が高まったり、スペースが節約されるメリットが認められて初めて普及できるのです(歴史を振り返れば数々の合体家電が生み出されては消えていきました)。

この点で、黒物家電は合体に有利です。レコードがCDへ、ビデオテープがDVDへ、さらにはネット配信へとメディアが変わろうとも、扱うものはコンテンツという情報ですから、融合が容易なのです。

その最たるものがスマートフォンで、ありとあらゆる情報家電の機能が吸収されています。脳もひとつの情報処理器官ですから、ゆくゆくはVR技術やAIが脳と合体・融合していくでしょう。となると、黒物家電は独立した物理的な存在ではなくなるかもしれません。

一方、家事という物理的な作業のために作られた白物家電は、姿形がなくなることはないでしょう。現在、IoTによって製品同士の連携が企画されている白物家電ですが、スマホでの操作が前提となっており、誰にとっても扱いやすい機能ではありません。いずれ脳とネットが直結し、考えるだけで白物家電を操作できるようになれば、別次元の便利さになりそうです。

とはいえ、しばらくは物理的な合体によって新たな利便性が望まれる時代が続くような気がします。今年はどんな合体家電が生み出されるのでしょうか。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>