老師オグチの家電カンフー

蔓延するゾンビ家電 ~リサイクルを止めるな!~

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 まだ暑いので、涼しくなるよう怖い話でもしますかね。

 うちの息子、数年前にある病気で入院してから、あれが見えるようになったんです。普通の人には見えない、いわゆる霊です。マンションの敷地内には、真っ黒い人の影、『千と千尋の神隠し』のカオナシのようなものが出るらしく、たまに触ろうとしてくるそうです。

 また、近くの幹線道路の交差点にもよくいて、たとえば、頭が半分ない白目をむいた女性がふらふらと歩いているそうです。たいていの霊は、白っぽく存在感が薄いといいます。

 見えない人間にとっては、検証しようもない話ですが。「あそこで見た」という場所を、後からネットや人からの情報で心霊スポットだと知らされたことも数回あります。

 霊能者に言わせれば、霊になりやすい人や、霊が集まりやすい場所には特徴があるそうですね。霊を見ることで、この家から死人が出たとわかるとか。

 まあ、個人的には、霊がいようといまいとどうでもいいです。たいていの人にとっても、そうじゃないでしょうか。いると思うと恐怖心も湧いてきますし、「いたから何なんだよ」くらいに考えた方が楽です。成仏しない霊がいるなら、その道のプロがなんとかすればいいじゃん。そう思います。

 あれ、怖い話のはずが、そうでもなくなってきました。END。

* * *

 何年か前から捨てられた家電の写真を撮ってきました。

 粗大ゴミとして回収される家電もあれば、ゴミ出しのルールが守られていないために回収されず、自縛霊のようにとどまり続ける家電もあります。ほとんどの人は気に留めないでしょうが、家電に関わっている人間だからでしょうか、ちょっとした悲哀を感じます。薄汚れていたり壊れていたりして、誰からも価値を認められないからこそ、そこにいるのです。

 ゴミ収集車に回収されて成仏できる家電には、自治体の発行する処理券が貼られています。それがないものには、「回収できない」旨の紙が貼られます。それはまるで、ホラー映画に出てくるキョンシーの額に貼られた「お札」のようです。

 まれに、収集作業員(プロの導師)ではなく、近所の人が「このゴミ出した人はお引き取りください」と手書きのお札を貼っていることもあり、そこからは怒りの感情が伝わってきます。

 捨てられた家電からは、趣味や子供の有無など、その家庭の生活が垣間見られます。また、大量の家電ゴミが出されていると、「ああ、引っ越して行くんだな」とわかります。ちょっと霊能者気分です。

 うちの近所には、いつもそうした回収されない家電ゴミが出ているマンションがあります。心霊スポットです。住民の意識的な問題なんでしょうか。不法投棄がなくならないのは、捨てるのにお金を使いたくないという理由もあるでしょう。お葬式も簡素化の流れがありますし、年金欲しさに亡くなったことを届けない人がいるぐらいですから。

 一方で、電気製品のゴミを、都市鉱山などと呼び、東京オリンピックのメダルに使用するために、躍起になって集めようとしていますし……。だったら、家電ゴミは全部無料回収すればいいんじゃないですかね。

 と、ここまで捨てられた家電を霊に例えてきましたが、物質として存在しているので、どちらかというとゾンビですかね。どっちでもいいですけど。怖くないし。

小口 覺

雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆、マンガ原作、企業サイトのコンテンツ制作を手がけるライター。日経MJの発表した「2016年上期ヒット商品番付」では、命名した「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」が前頭に選定された。

Webページ「有限会社ヌル/小口覺事務所」
http://nulloguchi.wix.com/nulloguchi