老師オグチの家電カンフー
IT系手慰みガジェット「KACHA」はハンドスピナーを超えるか?
2018年5月30日 07:00
4月頭、銀座の中華レストランにて、T教授のペンネームで知られる竹村譲氏から、開発中だというガジェットを見せられました。フリスク缶ぐらいのサイズの箱に、パソコンのキーが3つ付いており、「Ctrl」「Alt」「Del」とあります。そう、Windowsパソコンで、画面がフリーズした時などに強制再起動するコンビネーションです。
「KACHA(カチャ)」と名付けられたこの製品は、Bluetoothなどでパソコンにつながる周辺機器ではなく、単に指でカチャカチャ押すだけのガジェットです。海外では「フィジェット」と呼ばれる、手遊び、手慰みを目的としたアイテムにカテゴライズされるようです。
フィジェットとして、もっともメジャーなのはハンドスピナー。10年ぐらい前に流行った、バンダイの「∞(むげん)プチプチ」も、そのひとつでしょう。
最初に見たときは、正直、「マニアックすぎるだろう」と思いましたが、発表されると、クラウドファンディングの「Makuake」で目標金額の666%以上、100万円を超える金額を集め、ガジェット好き界隈ではちょっとした話題になりました。
竹村氏はThinking Power Projectというユニットを組んでおり、これまで、紙のような素材「タイベック」のバッグ「THINK AERO」や、オリジナルデザインのツバメ大学ノート「Thinking Power Notebook」を世に送り出しています。
この2つはヒット商品ですが、基本的にはお金にならないおバカなことを全力でやっている集団です。
聞けば、「KACHA」は、CherryのMXスイッチという打鍵感にこだわったドイツ製のキーを使っていたり、厚さ1.5mmのステンレス板をレーザーカッターで加工したりと、かなりコストがかかっています。販売価格は2890円ですが、利益はそれほどないでしょう。
さて、この手のアイテムが流行するには、機能や理屈以上の要因が必要です。クセになる感覚、オカルト的なあやしい魅力、宗教的陶酔といったようなものです。
「KACHA」の発表会では、「Ctrl」「Alt」「Del」のコンビネーションを「37年間 今も続いている呪術的解決」と表現していました。1981年発売のIBM PCで初めて採用された機能であり、その後、今に至るまで大統領も女優も押していると。
大統領は秘書任せにしている気もしますが、パソコンを使って長い人は、かつて「コント、オルト、デリート」と呪文のように唱えながらキーを押していたのではないでしょうか。意味もわからず。
マンガでしか見たことないですが、命を落とすような危機に陥ったときに「南無三(なむさん)」などと唱えるのに近いです。慣れた人なら、外国人の「オーマイガッ!」ぐらい反射的に押していたでしょう。
フィジェットの手で繰り返しいじる行為は、思考を中断させる一種の瞑想的な効果もあります。むしろ、宗教やオカルトにフィジェットの原型があるんじゃないでしょうか。数珠は読経や瞑想中に数をカウントする道具ですし、手元でぐるぐる回すチベット仏教の「マニ車」なんか、ハンドスピナーの元祖ですよ。
特別な道具がなくても神仏を拝めるように、フィジェットがなくても手慰みは可能です。今の生徒・学生はやっているか知りませんが、昔、学校で「ペン回し」が大流行しました。ひとつ仮説を立てたんですが、ハンドスピナーは、パソコンの登場でペンを使う機会が減ったから流行ったんじゃないですかね。指先で何かを回したい欲求にフィットした。
そう考えると、「KACHA」がハンドスピナーぐらい流行するのは、人類がキーボードから離れた時期かもしれません。「何か知らないけど、カチャカチャ押したい!」という欲求が強くなり、爆発したときです。その時、大多数の人は「Ctrl」「Alt」「Del」の意味などわからなくなっているでしょう。完全な呪文です。
ちょっと自分でも何言ってるかわからなくなってきたので、再起動します。