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JETPVm認証第1号のソーラーフロンティア・国富工場探訪
~太陽光発電システムは信頼性が第一
by 神原サリー(2012/12/14 00:00)
2011年3月の震災以降、再生可能エネルギーとして太陽光発電システムへの注目が高まっている。そうした中で、補助金の単価設定が2段階になって、さらに敷居の下がった感のある「平成24年度の住宅用太陽光発電システム導入支援補助金制度」が始まり、この7月からは「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が新たに導入された。
とはいえ、太陽光発電システムの導入に際してはまだまだコストがかかるのが現状だ。品質面、アフターサービス面においても信頼のおけるパネル選び、業者選びをするにはどのようなポイントに着目していけばよいのか不安を感じている人も多いに違いない。そんな折、今年8月に電気製品などの第三者機関である一般財団法人電気安全環境研究所から「JETPVm(信頼性保証体制)認証(JIS Q 8901)」の第1号として認定を受けたソーラーフロンティアの国富工場(宮崎県)を視察する機会に恵まれた。多くのメーカーが参入している結晶シリコン系の太陽電池ではなく、薄膜系CIS太陽電池を生産している同工場の視察や生産本部長へのインタビューを通じて、最新の太陽電池事情に迫りたい。
「全量・固定価格買取制度」と「住宅用太陽光発電の補助金制度」
ここ数年じわじわと広まりつつある太陽光発電だが、世界的に見てもその市場は著しく拡大をしている。特に2010年から2011年にかけての市場は66%も増加しており、2011年末の累計導入量は67.4GWにも達している。中でも、イタリアでの伸びは大きく、2010年にトップだったドイツを上回っている。これは太陽光発電の全量買取制度が需要喚起のきっかけとなったようで、同制度を導入した中国、アメリカ、イギリスでも、イタリアほどではないといえ顕著な伸びを示している。
では、日本国内ではどうなっているのだろうか。2011年の国内総出荷量は1.3GWで、初めて原発一基分の発電量を超えた計算だ。前年比130.7%増となり、産業・非住宅用に比べ、圧倒的に住宅用の需要が伸びている。一方、今年の7月からスタートした「全量・固定価格買取制度」は産業用としての太陽光発電を推進するための制度だといえる。全量買取制度は、消費した電力とは切り離して、施設内で生み出された電力全量を売電することができるため、電力会社から安く購入した電力を施設内で使い、自設備で作った電力を電力会社に高く売ることができる。
住宅用に限って言えば、2009年11月より「住宅向け余剰電力買取制度」は再開しており、これを引き続き継続する形だ。太陽光で発電された電気のうち、自家消費されずに余った電気を電力会社が買い取るもので、買い取りに必要な費用は「太陽光発電促進付加金」として電気料金に上乗せされて、負担する仕組みだ。これによって、制度導入前の2008年で累計約214万kW(約50万世帯)だった太陽光発電の導入量が、施行後3年間で491万kW(100万世帯超)へと倍増している。
注目すべきは、J-PEC(一般社団法人太陽光発電協会 太陽光発電普及拡大センター)が補助事業者となっている国(経産省)による補助金制度だ。平成24年度の内容をみると、補助金単価の2段階化と変換効率の見直しによって、太陽光発電システムの低価格化・高効率化への推進が強化されたことがわかる。
昨年は1kWあたり60万円以下のシステムに対して補助金を出していたが、今年は1kWあたり47.5万円以下に対して1kW当たり3.5万円、1kWあたり55万円以下に対して1kW当たり3.0万円の補助金が支給される。単価が下がったことで導入を検討しやすくなったと言っていいだろう。一般家庭用システムの平均容量は約4kW強なので、およそ12~14万円の補助金が出る計算になる。
そのほか、補助対象となるシステムモジュール変換効率が見直され、シリコン単結晶系は16.0%以上、シリコン多結晶系は15.0%以上、シリコン薄膜系は8.5%以上、化合物系は12.0%以上と、業界全体のモジュール変換効率の最低ラインが補助金制度のなかで示されている点にも留意したい。
「JETPVm(信頼性保証体制)認証(JIS Q 8901)」第1号の意味とは?
冒頭でも述べたように、今年8月にソーラーフロンティアは第三者機関の一般財団法人電気安全環境研究所から、太陽電池モジュールの長期信頼性およびその保証体制に関する新たな認証である「JETPVm(信頼性保証体制)認証(JIS Q 8901)」第1号の認定を受けている。
JETPVm(信頼性保証体制)認証は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が今年7月に始まることに合わせて新たに作られた制度で、太陽光発電システムの品質保証に関する日本工業規格(JIS)に基づいている。ソーラーフロンティアは業界に先駆けてCIS薄膜太陽電池モジュールの20年の品質保証を打ち出しているが、商品そのものが果たして20年劣化せずにもつのかどうか、クレーム対応の組織はきちんとしているか、出力が落ちた場合には取り替えるなどのサービス体制は整っているかなど、太陽電池モジュールの設計、製造及び性能保証に関するサービス運営の信頼性を調査、審査した上で認証しているという。
CIS薄膜太陽電池は、10年で10%、20年でも20%までという経年劣化率の低さに特徴があり、これが20年保証の理由ともなっている。だが、単にモジュール性能を保証するだけではなく、住宅用の国内代理店や販売店・施工業者を対象に販売からアフターケアまでを網羅した資格制度を設け、研修を行なうなどサービス運営の体制が評価されての認証だという。
CIS太陽電池はシリコン系とどう違う?
ソーラーフロンティアが生産するCIS太陽電池とは、Copper(銅)、Indium(インジウム)、Selenium(セレン)の3元素を主な成分とした薄膜化合物系太陽電池のことをいう。
製造工程がシンプルで、シリコン系と比較しても約2/3程度で原材料の消費も少ないという特徴がある。見た目の特徴としては黒一色のため、「黒いソーラーパネル」といえばわかりやすいかもしれない。
また、ソーラーフロンティアのCIS太陽電池は、環境面にも配慮している。太陽電池を製造するために消費されたエネルギーを太陽電池自身の発電によって、どの程度の期間で回収できるかをエネルギーペイバックタイム(EPT)というが、この回収年数が約0.9年と他の太陽電池の1.5年と比較して短く、有害なカドミウムを使用していない。そもそも太陽電池は、環境に配慮した発電といわれるが、こうした点にも着目してこそ、“本当に環境にやさしい”といえるのではないだろうか。
素子や回路設計の特性により、パネルの一部に影が出来た場合でも比較的安定した発電を可能とし、高温での出力減少が少ないのも利点だろう。実際にパネルの一部を覆って光を遮っての実験をした際にも、結晶系のパネルではモジュールの中に発電しないセルがあると回路全体が発電しなくなってしまうため、急激に発電量が減ってしまうのに対し、CISでは出力は若干低下するものの発電を継続できた。これは近隣の木々や電柱、住宅などの影をそれほど気にすることなく設置できること意味しており、設置性の高さや発電性能の高さは魅力だ。
また、日中の波長だけでなく、一部の朝晩の波長の異なる光も吸収して発電する点や、太陽光に当てると工場出荷時の定格出力よりも増加するというCIS特有の光照射効果も興味深い。
一般的に太陽電池を比較するときには、変換効率を見てその能力を判断してしまうものだが、この変換効率とは気温25℃でシュミレーターによるフラッシュを1,000W/平方mの強さで直角に当てた場合という一条件のみで算出しているため、実際の発電量とは異なる。CIS太陽電池は年間発電量が高く、“実発電量”の高さという点で注目に値する。
最初から最後まで一貫して1工場で行う“メイドイン宮崎”
ソーラーフロンティアは宮崎県に3つの工場を持ち、最初から最後まで一貫して1工場で行なう“メイドイン宮崎”でCIS太陽電池を生産している。中でも国富町にある年間900MWの生産能力を有する第3工場は世界最大規模を誇る。もともと日立のプラズマディスプレイ生産工場だったものを買い取って、2011年2月から稼働させた工場で、稼働開始から約5カ月後には全ラインで生産を開始したという。
敷地面積400,000平方m、建物面積でも158,000平方mもの広大な工場だが、生産ラインにはほとんど人の姿が見られず、従業員はバックでのチューニング作業に徹している。そのため、これだけの大規模な生産能力を持つ工場ながら、エンジニアや事務職を含めても約800人の従業員で、24時間365日の操業が可能なのだという。
同工場内にはさまざまな品質管理のための実験装置や施設があり、過酷な状況下でも耐久性が保たれるかどうかを検査している。実際、1mの高さから230gの鉄球を落としての耐久試験を体験させてもらったが、熱をかけ、カバーガラス・太陽電池基板・保護フィルムを一体にするラミネート工程を経ているからだろうか、全く凹みもせず、傷も付いていない様子には驚かされた。
そのほか、マイナス40℃~85℃という温度変化を200サイクルも続ける実験室や、温度85℃・湿度85%という高温・高湿での耐久実験など、ありとあらゆる状況を想定した環境を作り、それに耐えられる製品づくりを行なっている様子に、「20年保証」を早くから打ち出し、経年劣化の少なさをアピールしているのにも納得感があった。
また、カドミウムを含まないことや、エネルギーペイバックタイムの短さだけでなく、出荷時にもリユース式のパレットとコーナーピースを組み合わせたものを使用し、廃棄物を削減している様子にも環境配慮についての取り組みの真剣さがうかがわれた。
「目指すは地産地消」―雇用を守りながらオールジャパンで作る
ソーラーフロンティアのヴァイスプレジデント 常務執行役員 生産本部長の吉田博氏は「国富の第3工場では、とにかく“スピードが命”ということで頑張ってきました。既設の工場施設を活用し、人材も同時に活用したからこそ、わずか半年もしないうちに全ラインでの生産が可能になったのです」と語る。
工場内のたゆまぬ努力によって、当初は130Wだった出力のパネルが2012年現在では160Wにまで上がっている。「厚木にある研究所では30×30cm(ワン×ワン)のコンセプトモデルで変換効率が17.8%に達するものまでできています。これを応用し、パイロットプラントでの実験を経て、国富工場での本生産を目指すわけです」と吉田氏。現在、工場の屋根には出力130WのCIS太陽電池が15,400枚設置されているが、この130Wというのは、まだ2011年段階のものだったからなのだ。
吉田氏は「ここ宮崎で太陽電池を作ることやメイドインジャパンにこだわるのは、“地産地消”を目指しているからです。海外から輸入するのでもなく、海外への輸出を中心に考えるのでもなく、まずは国内から。雇用を守りながら、品質のよいものを作り、まずは日本の住宅や産業施設などにできるだけ多く太陽光発電システムを導入してほしいと考えています」と続ける。
「現在、電力不足で節電が声高に叫ばれていますが、太陽光発電で算出された電力量がわずか5%にしかならなかったとしても、ピーク電力をこの太陽電池で補えば夏にエアコンをつけずに我慢するなどしなくてもよくなるでしょう。太陽電池だけですべての電力をまかなうことは難しいですが、太陽電池はほかの発電と共存していけるものだと考えます。それに太陽電池を屋根につけるだけでも、たとえ発電しなくても熱を遮り、反射させる効果があるのですから、涼しく過ごせるという利点があるのです」(吉田氏)。
今後、買取制度や価格の変動もあるはずだが、国や地方自治体の補助金を引き算した場合、現状では8~10年での初期投資の回収が可能だといわれている。そうなれば、その先にあるのは「太陽光貯蓄」ができるということ。技術の進歩によるコストダウンの可能性ももちろんあるだろうが、“創エネ”という自然エネルギーを利用した積極的な姿勢に加え、消費電力にも敏感になり、やがては住むだけで太陽が貯蓄を生み出すというのは魅力的だ。
いずれにしても、長期間活用させるものなので、導入時には信頼性が何よりの要となるだろう。経年劣化やメンテナンスなど、変換効率や導入時のコストだけでない長期にわたる信頼性を第一に選ぶことが大切だ。